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7章 魔族の本気ー4

 先に動いたのはベルリーナだ。

 彼女は杖の先端にショートソードほどの長さをした闇の刃を生成し、横薙ぎに斬りつけてきた。

 それに対しオレは、盾で受ける動作をする。それだけで、闇の刃はオレに触れることなく弾かれた。


「無宣言発動どころか、集中の気配すらないですって!?」


 動作記憶発動なのだが、説明してやる義理はない。

 オレは魔力剣でベルリーナの眉間を狙って突いた。首を傾けてそれを避けた彼女の頬に、一筋の赤い線が入った。しかしそれは、瞬時に治癒する。


「自慢の治癒阻害は解析済みよ。もう貴男に私は殺せない!」


 ベルリーナが杖を掲げると、数百本に及ぶ炎の槍が上空に出現した。舞台の上空をびっしり覆う数だ。

 彼女が杖を振り下ろすと、炎の槍がオレ目がけて降り注いだ。

 ヌーラとは違い、全て魔力パターンに揺らぎを作っている。分解が難しいなら耐えるだけだ。

 ヌーラの時にそうしたように、オレは全身を炎属性にした。


「そう来るのは予想済み! 火炎奪操(フレイムスチール)!」


 ベルリーナの指先から伸びた炎の糸がオレの手首に絡まった。


「他人の炎を操るか」

「そうよ! 貴男が纏ったその炎、もう消すことはできなわ。自らの炎で死になさい!」


 かけられた術式からすると、自分以外が発動させた魔法の炎を強引に操作するといったところか。本来は部下が発動させた魔法を操るのに使うのだろう。魔王らしい魔法だ。

 オレの纏う炎が、口や鼻から体内に入ってこようとする。いくら全身を属性化していると言っても、呼吸ができずに窒息するだろう。

 だが――


「オレもその魔法なら使える」


 奪われた炎の操作を、逆に奪い返す。同じ魔法が使えるならば、操る対象の魔力パターンを良く知るオレの方が有利なのは自明だ。


「魔王オリジナルの魔法をあっさり真似た!?」

「元・魔王だろ。それに真似たわけじゃない。もともと使えただけだ」

「くっ……ヌーラ!」


 苦々しげに顔を歪めたベルリーナがそう叫ぶと、ヌーラが気絶しているシストラの首筋にダガーを当てた。


「動けばコイツをころ――」


 ヌーラが最後まで言うことなく、彼の頭がパンッと軽い音を立てて弾けた。

 それが、オレとシストラを百億回の連鎖に引きずり込むきっかけを作った男のあっけない最後だった。


「ヌーラ! くっ……最後まで使えないコ」


 ベルリーナは吐き捨てるように冷たい視線を彼の首無し死体へと向けた。

 トーナメントでヌーラと当たった時、念のため、頭部に魔力を埋め込んでおいたのだ。

 もちろん爆発させる際は、血と魔瘴気がシストラにかからないよう調整している。


「貴男の強さはなんなの! こうなったら……黒竜(ダークドラゴン)よ!」


 ベルリーナの呼びかけに応え、上空に空間の歪みが発生。そこからダークドラゴンが現れた。森で見たのと同じ個体だろう。


「グオアアアアアッ!」


 頭上で咆哮を上げたダークドラゴンの口元には既に黒い光が収束している。

 攻撃準備を完了した状態で召喚するとは、なかなかの高等技術だ。

 ブレスが来る!


「グオアアアアァッ!」


 ダークドラゴンの口から迸る闇色ブレスは、王城の最も高い塔を破壊し、さらにその先にある山の頂を吹き飛ばした。


「次はお前達だ! 恐怖に震えて死ぬがよい!」


 ベルリーナの号令で、再びダークドラゴンの口元に黒い光が収束していく。

 真下に撃たれれば、闘技場はもちろん、王都は半壊だ。

 さらにベルリーナは、掲げた杖からダークドラゴンに魔力を送り込んでいる。このままでは、王都がまるごと吹き飛ぶほどの魔力が集まってしまうだろう。

 もちろんそれを許すつもりはない。

 力を見せつけたかったのだろうが、余計な威圧行動をとったのが運の尽きである。

 オレは拳を突き上げ、ヌーラがそうしていたように、魔力を放出した。

 もちろん威力は桁違い。ヌーラのそれが指程度の太さだったのに対し、オレのものは闘技場の直系より太い。

 天空を貫いたその光線は、ダークドラゴンをまるごと包み込んだ。

 目を焼く光が治まったその後には、塵すら残っていない。


「なんだと……? わ、私の……四千年を共に生きたダールをよくも……。おのれ……おのれええええ!」


 ベルリーナは体中から魔力を溢れさせ、握った拳をわなわなと震えさせている。その手に握っていた杖が、真っ二つに折れた。

 そして、ベルリーナの体が徐々に変質していく。皮膚が避け、内側から角のように硬質な何かが盛り上がり、目はつり上がり、四肢が細く、鋭くなる。

 溢れる魔力に精神と肉体がついていけないのだ。

 魔族を神話に出てくる悪魔のように思う人がいるのは、これが原因だと言われている。

 圧倒的な魔力を持つ魔族にだけ起きる現象だからだ。

 魔族より大きな魔力を持つオレにも起こりうるのだが、そうならないように肉体を鍛えてきたし、魔力の出力もしっかり制御している。

 魔暴変態(メタモルフォーゼ)と呼んでいるこれが起きるということは、本来生物として備わっているリミッターを超えていることを意味する。

 このままここで戦えば、気を失っているシストラ達に被害が出る。


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