1章 100億と1回目の旅立ち-3
ドスドスと地響きを立てながら数歩走ったワイバーンは、そのまま地面すれすれをオレに向かって滑空してくる。さらに、体に雷を纏いだした。オレが知っているこの世界のワイバーンは雷を纏ったりしない。どういうことだ。変異種か?
「にげなさい!」
ベルリーナの唇はそう叫んでいるが、その声がこちらに届く前に、ワイバーンの顎が地面ごとオレとシストラを飲み込もうとしていた。
シストラに一瞬視線を送ると、彼女は大きく横に飛びのいていた。ワイバーンが現れた時点で発動していた肉体強化系魔法により、人間離れした機敏な動きをしている。
ワイバーンの顎に正対したオレは、自らの体に雷を纏った。自らを雷とすることで、ワイバーンの雷を中和するのだ。
オレとワイバーンの間で、近づくだけで黒焦げになるほどの雷が荒れ狂う。
それをものともせずつっこんでくる顎に、オレは自ら飛び込んだ。
「間に合わなかった!」
ベルリーナの声が響く中、オレは手に出現させた氷の槍で、ワイバーンの上顎を突き破る。氷の槍には切れ味を上昇させる魔法も重ねがけ済みだ。そのままワイバーンの上顎を突き破って上空へと飛び出したオレは眼下を見下ろす。やがて、ワイバーンは地響きを立てながら、ゆっくりと地面に崩れおちた。
「な、なんだいまの……」
「雷を纏うなんて可能なのか……?」
「飛行呪文も併用してるぞ」
「だいたい、どうやってワイバーンの頭をぶち抜いたんだ?」
学生達が騒ぐ中、オレはワイバーンの傷口から紫色のもやが出ているのに気がついた。
――魔瘴気。
魔族の体に流れる、他者を滅ぼす瘴気だ。
なぜワイバーンからそんなものが出るんだ。雷を纏っていたこと以上に異常な現象だ。
繰り返してきた人生を思い出すと、いくつか選択肢は思い浮かぶが、今は浄化が先だな。
オレは視線だけでワイバーンの死体を火柱で包み、魔瘴気ごと焼却した。
「なんだあのでかい炎……」
「それより飛んでるぞ。飛行魔法を使いながら、あんな大魔法を使うなんて何者だ?」
学生達が驚きの声を上げる中、ベルリーナが飛行魔法でオレの隣にやってきた。
「あのワイバーンを一瞬で倒すなんてすごいですね。助かりました」
その表情にはまだ余裕がある。彼女だけでもなんとかできたのだろう。だとすれば、かなりの実力者だ。この世界において、ワイバーンを一人で倒せる者はそういない。
佇まいや、その身に纏う魔力が彼女の実力を証明している。魔力はまだまだ隠していそうだが。
オレも一人で倒せるようになったのは、四回目の人生からだ。
「いえ、あなたがいるなら、余計なことだったかもしれませんね」
「所属はどこですか?」
オレに実力を見抜かれたのが驚きだったのか、ベルリーナは少し目を見開いた。
「どこにも所属してませんよ。これから王立学校の入学試験を受けに行くところです」
「入学志願者? あれだけの魔法が使えて?」
事前にこっそり調べておいた情報によると、先ほどオレが見せた程度の魔法を在学中に使えるようになる生徒は稀なようだ。この質問が出るのも当然だな。
「王立学校を卒業すれば、色々とコネが効くと聞きましてね。田舎の出身だと、どれほど実力があっても、直接仕官というのは難しいので」
「なるほどね」
ベルリーナは納得したようだが、オレの目的は別にあった。
オレはこちらに手を振っているシストラに見をやった。
彼女が学校に行ってみたいと言ったのだ。彼女が希望するなら叶えてやりたい。そして、彼女を護るには一緒入学するのが一番だった。オレが入学するのはそれだけの理由だ。
「健闘を祈ります。キミなら絶対に合格するでしょうけどね」
ベルリーナに言われるまでもなくそのつもりだ。
この学生達をみる限り、オレはもちろん、シストラも合格は余裕だろう。
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