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7章 魔族の本気ー1

◆ 第七章 ◆


『学内トーナメントもいよいよ最後の試合となりました! 三年ヌーラ選手対、一年ディータ選手! 幸運の裏に確かな実力を隠したヌーラ選手が勝つか、決勝戦まで上がってきたダークホースの一年生、ディータ選手が勝つか! 注目していきましょう!』


 オレとヌーラは舞台で対峙する。

 ヌーラは開始の合図前から既に、筋力強化や魔法防御上昇など各種魔法を発動済みだ。

 それはオレも同様である。ヌーラほど念入りにはかけていないが。


「構えて……始めッ!」


 審判の合図と同時に突進してきたのはヌーラだ。

 強化された脚力を使っての高速移動。かつ、手に持つ短杖に魔力を集中させている。オレが無宣言発動を使えると知って、遠距離での手数勝負になるのを避けたのだろう。

 オレとの距離が三歩ほどになった間合いで、ヌーラが杖を振りかぶる。


 その瞬間――


 ドゴォン!

 会場中に轟音が響き渡った。

 オレの拳がヌーラの鳩尾に突き刺さったのだ。

 観客からすれば、オレが瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。

 会場は先ほどまでの喧噪が嘘のように、一瞬にして静まり帰った。


『実況席からもよく見えませんでしたが、今の轟音はディータ選手による一撃だったようです! 拳であれほどの爆音が出るものなのか! それを耐えたヌーラ選手もすごい!』


 実況により、徐々にざわめきが戻りはじめる。


「なっ……がはっ……」


 ヌーラの口から赤い血と、魔瘴気が漏れた。

 魔瘴気は観客から見えないよう、瞬時に浄化する。まだ彼が魔族であることを周囲に知られるわけにはいかない。ここで大会が中止になるのは避けたいのだ。

 ヌーラが吹き飛ばないよう、相手の背中に不可視の壁を作った上での一撃だ。

 今のを食らって、意識を保っていられるとは思ったよりも丈夫だな。


「僕の多重防御魔法に肉体強化をやすやすと……ぐっ……貴様、何をした?」


 ヌーラは片膝をつきつつ、自分に治癒魔法をかけている。


「強めに殴っただけだ」

「バカな……どれだけ強化したとしても、ただの拳で僕にこれほどのダメージを与えるなんてできるはずがない」

「はずがない、なんて言葉は全知全能の神にでもなってから言うんだな。無知が知れるぞ」

「うるさい! 貴様らに比べれば、僕は神にも等しい力を持っている!」

「若いな」


 いくら観客席まで声が届かないと言っても、化けの皮が剥がれるのが早すぎではないだろうか。


「貴様よりは長く生きている!」


 魔族ということを考えても、せいぜい見た目の二~三倍といったところか。やはり若い。こちとら、十六年と五千億年ほどの積み重ねがあるのだ。

 杖を持っていない方のヌーラの指が、一瞬輝いた。

 最初の人生でオレとシストラを苦しめた技だ。

 今なら子供の投げた毛糸玉よりもゆっくり見える。

 この技の正体は、凝縮した魔力の高速射出だ。魔法として練られていない分、魔力の消費効率は悪いが、発動が極めて早い。人間よりも多くの魔力をもつ魔族ならではの技であり、種を知らない人間に防ぐ術はないだろう。

 シストラの肩を焼いた一撃を、オレはデコピンでヌーラへと撃ち返す。狙ったのはちょうど、シストラが焼かれた場所だ。


「ぐあっ!? 跳ね返しただと!?」


 防御魔法のせいで貫通には至らなかったが、衝撃で肩が外れたらしい。ヌーラは杖を取り落とし、右腕をだらりと垂らしながら苦痛に顔を歪めている。


「この技が見切られるはずがない!」


 今度は連続で四発。オレはその全てを掌で受け止めた。ヌーラの魔力は、小さな球体となって、掌の前で浮遊している。


「弾くだけでなく、停滞させただと!? 他人の魔力をか!?」


 驚くヌーラが次の手を打つより早く、オレは停滞させた五つの魔力球を、火、水、風、土へと変質させる。

 火を爆発球体にして射出。水を氷にしてヌーラの両手を凍結。風の渦で呼吸と声を奪い、土魔法で舞台から突き上げた。

 上空へと飛ばされたヌーラに、火球が直撃し、大爆発を起こす。


『おおお!? 四属性同時攻撃! ヌーラ選手の安否が気遣われます!』


 やがて爆炎が晴れると、そこには肩で息をするヌーラの姿があった。


『無事だあ! あの爆発を受けてなお、まだ戦えるようです! 今年の決勝戦はレベルが高い!』


 舞台へとゆっくり降りてきたヌーラは、鬼のような形相でオレを睨んでくる。


「他人の魔力を使って魔法を発動しただと? そんなことができる人間なぞいるはずがない!」

「ここにいる」


 魔力の質は人によって異なる。魔道士はまず自分の魔力を理解するところから始め、それについて理解を深めることで、複雑な魔法を使えるようになっていく。それを極めることは一生かかってもできはしない。他人の魔力を操るとなればなおさらだ。

 だがオレは、転生のたびに異なる魔力を経験してきた。百億種の魔力を操った経験を持ってすれば、この程度のことは造作も無い。


「わかったぞ! 幻術だな! 僕に幻術をかけるとはやるじゃないか!」


 オレを殺し、シストラを苦しみの連鎖に引き込み、先ほどは彼女の肩を焼き、さらに辱めようとした男。それがこの程度とはな……。

 こいつがいなければ、シストラは最初の人生で幸せな一生を送れたかもしれないのだ。

 ああ……知っている限りの手段でいたぶり殺したい……。

 そんな暗い考えが頭をよぎるが、すぐに振り払う。

 シストラにそんなものを見せるわけにはいかないし、ここでヌーラが魔族であることを暴いて大会が中止になるのはやはり避けたい。


「ぐぐ……これ以上の失敗は……幻術だろうがなんだろうがかまうものか……。こうなったら全力だ……」


 ぶつぶつとつぶやくヌーラの目つきが、追い詰められた獣のそれに変わった。


火炎柱(フレイムピラー)!」


 ヌーラの発動宣言と共に、オレを中心に足下から炎が吹き上がった。

 本来は、大人が両手を広げた程度の効果範囲を持つ魔法である。だがヌーラが発動させたのは、舞台の半分を覆うほどの範囲だ。その高さは十階建ての塔も超えるだろう。


『ヌーラ選手、ここに来て大魔法を発動! 実況席まで熱風が襲ってきます! ディータ選手は大丈夫なのか!?』


「あいつ……あんな魔法使えたのかよ……」

「もしかして、リヒテンやジェームズより強いんじゃ……」


 渦巻く炎の轟音の中、三年生達のつぶやきが、オレの耳には聞こえている。

 これまでヌーラは、なんとか実力を隠したまま戦ってきていた。それはおそらく、魔族だとバレずに学校に潜入し続けるためだろう。だが、なりふり構わなくなってきた。バレてもいいからオレを倒そうというのだ。

 つまり、彼が大会で勝ち上がって来た目的はオレということになる。

 王都でなにかと嗅ぎ回っていたのがオレだという予想はついていたが、証拠もなく、隙もさらさないので、ここでなんとかしようと考えたのだろう。誰も手を出せない一対一ならなんとかなるとでも思ったのだろうか。

 黒幕の指示なのだろうが、オレをなんとかしようとするには力不足だ。

 オレは無造作に腕を横へと払った。

 ただそれだけで、炎の柱が霧散する。


『ディータ選手無事だ! それどころか、服に焦げ目一つついていません!』


「なっ……バカな! どうやって……」


 若い魔族は自身の魔力を過信し、魔法の効率化やアレンジをさぼる傾向にある。それを補ってあまりあるほどの魔力が彼らにはあるからだ。

 だがそれでは、より魔力の大きい相手に勝つことはできない。


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