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6章 学内トーナメント-2

 エルデによる大番狂わせの後、優勝候補と目される大人気イケメン三年生やヌーラが予選を通過をした程度で、つつがなく大会は進行。

 いよいよオレの番だ。


「ディータがんばって!」

「貴男ならがんばらなくても勝つのでしょうけど」


 シストラとエルデの応援を受け、オレは舞台に上がる。


『おや? もしかして彼がベルリーナさんの推薦枠ですか?』

『ええ。彼は強いですよ。楽しみにしていてください』

『ベルリーナさんがそこまでおっしゃるとは! 注目していきましょう!』


 せっかく煽ってもらったところ悪いが、今日のオレには目的がある。

 さっさと終わらせてもらおう。

 開始の合図とともに、オレ以外の全員が同時に魔法を放ってきた。半分が火炎槍(フレイムジヤベリン)、もう半分が氷結槍(アイスジヤベリン)である。


『おおっと! 全員同時にディータ選手へ攻撃だ! どうやら彼、大会前の実習でかなり活躍したらしく、構内に噂がまわっているようです。人気者の辛いところです!』


 事前に打ち合わせしていたのだろう。オレが無宣言発動をできると聞いて、防御しにくいよう二属性同時の攻撃だ。悪くない作戦である。

 背後は場外、前方からは取り囲むようにして十本の槍。

 オレは即座に上空へと飛んだ。


「無宣言で飛翔だと!?」


 選手の誰かが驚き、別の誰かは即座に飛行呪文を唱え始める。だが遅い。一般的に難度が高いとされる飛行呪文を後追いで唱えるのは失策だ。

 オレは眼下に魔力で生成した拳大の風の塊を撃ちだした。


「そんなもの避ければ――」


 ひょいと横に避けた男子生徒が最後まで言い終わる前に、風の塊が舞台に衝突すると、爆風を撒き散らし、舞台にいた学生全員を吹き飛ばした。学生達は、観客席の前にある壁に叩きつけられ、その半数ほどが気絶。もちろん全員場外だ。

 一瞬の間があった後、会場は大歓声に包まれた。


「なんだいまの! あれが一年ってほんとかよ!」

「飛びながら魔法撃ってたぞ!? 一年生が二種同時発動だと!?」

「それより、呪文唱えてたか?」


 盛り上がっているようで何よりだ。


『あ、あまりにも一瞬の決着! 解説のベルリーナさん、今のは? 全員がディータ選手を狙ったように見えましたが』

『通常、防御魔法というのは属性で使い分けます。炎攻撃に対しては、耐火魔法という感じですね。これは、属性を絞った方が、高い防御効果が期待できるからです。シストラが使ったような無属性防御魔法は、本来効果に対する魔力消費が大きすぎるのであまり使いません』

『なるほど、それで二属性同時攻撃だったわけですね。それを見越して、ディータ選手は上へ逃げた』

『そこまでは読んでいて、上空に次の魔法を撃つために一人残していたようですが、ディータの方が早かったというわけです』

『無詠唱、無宣言発動の上に、飛行しながら攻撃魔法。これはもう一年生というレベルではないですね』

『それどころか、卒業生……いえ、教員ですら真似できる者は殆どいません。それに、魔法は二つではなく、三つ同時ですよ』

『私には二つに見えましたが……』

『あれほどの爆風にも関わらず、舞台や客席に何も影響がなかったでしょう?』

『そ、そういえば……まさか、自分の攻撃魔法から、それらを護る魔法も使っていたと!?』

『そういうことです』


 ベルリーナは「私でなければ見逃してますね」とでも言いたげだ。


『すごい一年生が入ってきたものですね……優勝は彼で決まりでしょうか? 一年生が優勝ともなれば、王立学校創立以来の快挙なのでは?』

『大会は最後までわかりませんよ。まだ実力を隠している選手もいるかもしれませんから』

『たしかにそうですね! それでは予選の最終試合を見ていきましょう!』


 この組にいる知り合いはフレッド、そしてケイノインだ。

 試合は開始時点から乱戦となった。

 小物感のあるフレッドだが、それなりに優秀なのは確かなようだ。

 対戦相手の攻撃を上手くいなし、攻撃魔法を叩き込んでいっている……ように、観客からは見えるだろう。


『乱戦です! 残り五人! このPブロックは実力が拮抗しています!』


 実況からもそう見えるのだろう。だが、その実情は異なる。

 強い相手から順にケイノインが倒しているのだ。

 ケイノインは傷ができないような魔法を、わ(・)ざ(・)と(・)受けている。身につけた鎧がところどころ破損し、ダメージを受けているように()え(・)る(・)。さらに、このブロックで最も弱い学生を、それとなく護っている。

 ちなみにこの大会、服装も自由だ。防御魔法のかけられた制服を着用してもよいし、自前で鎧などを用意してもよい。

 そうして残ったのが、ケイノイン、フレッド、そして見知らぬ三年生だ。

 ケイノインが三年生に、火炎魔法でけん制すると、三年生は耐火魔法で防御する。この大会でケイノインは炎魔法しか使っていないので、事前に唱えておくことは可能だろう。


風爆球(ウィンドボム)!」


 そこにフレッドが風の球を打ち込んだ。

 ケイノインは三年生の首を掴んで盾にするも、二人まとめて場外へと吹き飛んだ。


『おおっと! ここでも一年生が勝利だ! 今年は決勝進出の十六人中四人が一年生という波乱の展開です!』


 例年だと一年生は一人がせいぜいというのだから、たしかに波乱ではあるのだろう。だが、四人中三人は、残るべくして残ったというところだ。

 ケイノインとロミも残るかと思ったが、ロミは見知らぬ二年生に羽交い締めにされ、そのまま一緒に場外へと落とされていた。裏取引でもあったのだろう。まあ、よくある話だ。


「ねえディータ。フレッドはなんで最初から風の魔法を使わなかったの?」


 シストラがふと思いついたように訊いてくる。


「フレッドやオレが使ったような着弾爆発式だと、射線に誰かが割り込んできたり、途中で誘爆されると自分も吹っ飛ばされる可能性があるからだな。指向性タイプは、術の発動中の行動が制限されるので、横から攻撃されたら対処できない。だからある程度人数を減らしてからじゃないと危ないんだ」

「なるほど! さっすがディータ!」


 そんな会話をしていると、フレッドが選手用の席へと戻ってきた。


「決勝進出おめでとう!」


 笑顔で出迎えるシストラだが、フレッドの表情は悔しさに歪んでいた。


「確かに頼んだのは僕だけど……くそっ!」


 椅子を蹴飛ばしたフレッドはそのままどこかへ行ってしまった。


「どうしたんだろう、フレッド」

「あの反応ができるなら、むしろ大丈夫だろ」

「そうなの?」


 シストラはいまいちピンときていないようだ。

 思ったより、フレッドのプライドは本物だったってことだ。

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