6章 学内トーナメント-1
◆ 第六章 ◆
王立学校の学内トーナメント当日。
王立学校はその敷地内に、三万人の観客を収容できる巨大な闘技場をもっている。闘技場の中央には円形の舞台があり、それをぐるりと囲むようにすり鉢状の観客席が配置されているオーソドックスなタイプだ。
午前中は予選だというのに、観客席は既に超満員である。
学生達は観客席の一角を控え室代わりに使っている。そのあまりの熱狂に、特に一年生はびびりまくる者多数だ。
『それでは今年も始まります。王立学校主催、学内トーナメント! 実況は昨年に引き続き私、王都随一の劇団フライングボックスの看板男優、グレイがお送りします! そして解説は王立学校教諭のベルリーナさんです! 今日は一日よろしくお願いします!』
『こちらこそよろしくお願いします』
風の魔法で実況者の声が会場全体に響き渡ると、大歓声が上がった。
「ひええ……緊張してきたよ」
隣でシストラが杖を握りしめ、ぷるぷる震えている。
少し気を紛らわせてやろう。
「予選はいくつかのブロックに分かれてのバトルロイヤルだったか?」
「うん。一年生から三年生までの二百人を十六のブロックにわけて、勝ち残った人で決勝だって」
「シストラはオレともエルデとも違うブロックだよな?」
「そうだよ」
「じゃあ大丈夫だ」
「そ、そうかな……」
ヌーラとも別ブロックだというのもポイントなのだが、それは黙っておこう。
「自信を持てよ。そうだな……じゃあ、予選を勝ち抜く作戦を教えてやろう」
オレはそっとシストラへと耳打ちをした。
「ふんふん……。え? それだけでいいの?」
シストラはまだ不安げに小首をかしげているが、今の彼女ならそれで十分だ。
「私にはアドバイスはないのかしら?」
オレを挟んでシストラとは反対側に座るエルデが、じっとオレを見つめてくる。視線の圧がすごいんだよな、この娘。
「ええと……殺すなよ?」
「殺さないわよ!」
試合中に起きたことは明らかな故意でないかぎり事故として処理されるらしいが、試合は負けになってしまう。
「油断しなけりゃ大丈夫だよ」
「信用してくれているのは嬉しいけれど、なんだか釈然としないわ……」
そんなやりとりをしているうちに、予選Aブロックの試合が始まった。
まずはシストラの出番だ。
舞台には十二人の選手が上っている。
『それでは改めてルールを確認してみましょう。予選は気絶もしくは場外で敗退です。最後の一人になった選手がブロックの勝者となり、決勝トーナメントに進みます。そして最後には、トーナメント優勝者と王立学校教員とのエキシビションマッチも控えていますので、そちらもお楽しみに! 今年もエキシビションマッチで登場するのは、解説のベルリーナ先生です。三年連続となりますが、美しく戦う彼女の姿を見に来ているファンも多いことでしょう。さあ、始まりました! 試合を見ていきたいと思います!』
舞台の近くで審判を務めるのは、学内で一番若い男性教員だ。
円形の舞台の端に等間隔に並んだ選手達は、思い思いに行動を始めた。
ある者は周囲を警戒しながら呪文を唱え、ある者は隣の者に早速攻撃をしかける。
そんな中、シストラは呪文を唱えながら舞台の中心へと走った。
本来ならば全員から狙われる位置取りとなる愚行だ。
現に数人がシストラに照準を定めている。
しかし、既にシストラの詠唱は完成している。
「円天障壁!」
シストラを中心にドーム状の障壁が展開した。この魔法、かなり強固な障壁を展開できるのだが、展開中魔力を消費し続けること、展開時にパーティーメンバーを範囲外に押し出してしまうといったデメリットもある。
だが今は、それが利点となる。
本来両手を広げた少し先までの大きさがせいぜいとなるこの魔法を、シストラは持ち前の魔力量で広域に展開する。
「うおおおお!? なんだこの壁! お、押し出される……っ!」
「壊れないわ! なんて堅いの!?」
選手達がどんどん舞台端へと押し出されていく。
『おお! これはすごい! 手元の資料によると彼女は……一年生のシストラ選手ですね。解説のベルリーナさん、あの魔法は?』
グレイが声の反響を計算に入れつつ、聞き取れるギリギリの早口で実況する。舞台役者とは聞いていたが、実況もプロだな。
『本来は個人用の防御魔法をアレンジしたようですね。かなりの魔力量です。例年、一年生が活躍することは少ないこの大会ですが、これは楽しみですね。あのタイミングだと、事前に飛行呪文を唱えておかなければ逃れられません』
『おおっと! 一人だけ上空に逃げた選手がいますね!』
『残念ながら飛行や浮遊ではなく跳躍系魔法ですね。おそらく、誰かに突進しようと用意していたのを、退避に使ったのでしょう』
ベルリーナの言葉通り、上空に逃げた男子選手はドーム状の障壁に着地、なんとかその天井にへばりついている。
彼はずり落ちる体を必死にささえながら、飛行呪文を唱え始めた。
それを見たシストラは短く呪文を唱え、障壁をドーム状から円筒状へと急速変形。
「うわあっ!?」
ドームにへばりついていた選手は観客席まではね飛ばされ、あえなく場外となった。
『予選Aブロック決着! シストラ選手の勝利です! いきなりの一年生が予選通過。すごかったですね』
『ええ。発動済みの魔法にアレンジを重ねがけですからね。これは、単純な魔法のアレンジに比べてとても難しいことです。彼女は有望ですよ』
『決勝での活躍も楽しみです。では、予選Bブロック行ってみましょう!』




