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5章 隠密捜査-5

 ヌーラと接触した日の夜。さっそく動きがあった。


「ちきしょう! なぜ僕がこんな目に! 人間なんかに嘗められて!」


 ヌーラが夜行性のモンスターに当たり散らしているのは、実習のあった森の奥。ダークドラコンのブレスでできたクレーターよりもさらに奥だ。

 その様子をオレは、ヌーラにつけた不可視の魔力球で見ている。

 この監視用魔力球、取り付けた相手の魔力を使って機能を維持する。そのため、極微量に発する魔力パターンが、取り付けた相手に酷似する性質を持っている。つまり、非常にバレにくいのだ。

 単独で生存できない分、相手に近づいて付着させなければならない。

 日中、ヌーラに接触したのはコレが目的だったのだ。

 魔力で挑発するフリをして、魔力球を取り付けた。魔力を隠すには魔力の中というわけである。

 ヌーラの指がキラリと光ると、近くのモンスターの眉間に穴が空き、絶命した。

 彼が殺したモンスターの中には、シールドベアーよりも強力な種族も多い。

 おもちゃに当たり散らす子供のように、ヌーラはどんどん殺す。

 やがて周囲からモンスターがいなくなると、さらに奥へと進み、虐殺を繰り返していく。


「なんでこの僕が! 人間と一緒に暮らさなきゃならないんだ!」


 しかしこの技、どこかで見たことがある。

 どこかで……?

 オレは二回目の人生で『絶対記憶(アブソリユートメモリー)』を習得して以降のことは、全てはっきりと記憶している。もちろん、百億回に渡るシストラの死もだ。

 そんなオレが『見たことがある』と感じたということは、『絶対記憶(アブソリユートメモリー)』習得前のできごとた。

 そこまで考えて、オレは思い出した。

 この魔族は……オレが最初に殺された魔族だ。

 顔はもう思い出せない。

 だが、あの話し方と技が記憶の奥底にこびりついている。

 ヌーラを見たシストラが震えていたのは、魂に記憶が残っていたのかもしれない。


 …………今すぐに殺してやりたい。


 だが、魔族を殺す時は魔瘴気の問題があるため、死体を焼き尽くす必要がある。この国の法律では、魔族を殺しても罪に問われない。だが、ヌーラが魔族だと証明されていない以上、殺せば罪に問われる。

 もちろん彼を殺したとバレるような真似はしないが、学生が行方不明になれば調査が行われるだろう。

 ただの行方不明と扱われるかもしれないが、誰かがえん罪で裁かれる可能性もある。この国の司法はその程度のレベルだ。偽りの身分だろうが、貴族として潜り込んでいるヌーラが行方不明になれば、なにかしらの落とし前をつけることになるだろう。それがでっち上げだったとしてもだ。

 無実の人間が死ぬことになるのは、さすがに寝覚めが悪い。何よりその矛先がオレやシストラに向く可能性だってあるのだ。

 それに、ヌーラはまだオレの周囲に直接危害を加えたわけではない。それを積極的に殺しにいくというのもやや気が引ける。

 どちらにしろ、まだここでヌーラを殺すわけにはいかない。

 こんな気性のヤツが、自分でこの計画を立てたとは思えないからだ。

 遠隔から指示をうけているならそれでいい。だが、近くに指示を出している魔族が他にいるなら、そいつも監視……場合によっては始末しておく必要がある。

 問題はどうやって情報を引き出すかだ。

 このままヌーラが八つ当たりをしながら、独り言で真相をべらべらしゃべってくれれば楽だが……しばらく待ってみたものの、さすがにそんなことはなかった。

 いつまでも虐殺ショーを見ていてもしかたがない。

 せっかく一人になってくれたのだから、このチャンスを活かしたいところだ。

 いっそ現場に行って、直接締め上げるか?


『何をしている』


 そんな少々過激な案が頭をよぎったその時、()か(・)が現れた。

 それは目深に被ったフードで顔を、ゆったりしたローブで体を隠していた。

 人の形をしているものの、発せられるプレッシャーは人のそれではない。

 その場にいないオレにまで届くほどだ。

 全身から汗を噴き出させたヌーラがその場に傅いた。


『はっ……これは……その……』


 完全にしどろもどろだ。


『目立つなと命令したはずだが』


 魔族は声帯の他に、核を直接振動させての会話が可能だ。

 人間には発音どころか聞き取ることすらできない。その声からは性別も不明だ。オレが核による声を聞き取り、理解できるようになったのは、五回目の人生である。


『申し訳ありません、%#&$?%¥様』

『愚か者め! 作戦行動中に真名を呼ぶとは何事だ!』

『はっ!』


 ヌーラは地面に頭をこすりつけんばかりだ。

 これほど萎縮するとは、フードの魔族はかなり高位なのだろう。おそらく、彼らが作戦と呼んでいるモノの責任者だ。

 真名とは核でしか発音できない魔族の名だ。彼らにとってそれを人間に聞かれることは恥であるらしく、核での会話であっても、人間の領地でその名を呼ぶことはないとされている。

 また、不意に呼ばれた際に反応できるよう、声帯を使った際の名前は、真名を特定のルールで翻訳したものにしている。それは核による発声を声帯による発声に翻訳するときと同じルールだ。これは多くの魔族と接して得た知識だから間違いない。

 先ほどヌーラが発した真名を翻訳すると……そうか、アイツが……。


『ヌーラよ。貴様、つけられたな』

『え?』


 バレた!

 オレは魔力球を消滅させようとするが、フードの魔族は、既に不可視のはずの魔力球を結界で捕らえている。


「覗き見とは、趣味が悪い。聞かれてしまったからには、覚悟しておくがいい。必ず見つけてやる」


 その声を最後に、魔力球の反応は途絶えた。

 こうなっては覚悟を決めるしかない。

 とはいえ、黒幕の判明は朗報だ。

 気がかりなのは彼らの目的と、彼らの問題が解決したとして、今後も魔族に狙われることになるかどうかだ。



 黒幕の正体を知ってからの数日間。

 全力で警戒をしていたが、大きな出来事はないまま時は過ぎて行った。

 何度も魔力パターンの広域スキャンがなされたのを感知したが、オレは体表面で魔力パターンを偽装していたため、発見されなかったのだ。

 ヌーラにつけていた魔力球は、彼の魔力を吸って変質していたのもあって、オレの存在を特定できなかったようだ。ここまでは狙い通り。

 そしてこの間、国の財政や軍備計画などの調査も完了している。それらの情報を総合すると、魔族達の狙いは絞られてくる。

 あとは学内トーナメントでこちらの計画を実行に移すだけである。

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