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5章 隠密操作-2

 ケイノインがいたのは、王都の富裕街にある屋敷の一つだった。

 魔力探知されないよう、慎重に彼のいる部屋へと魔力球を向かわせる。

 そこは、屋敷に複数ある応接室の一つだった。

 百を超える部屋のある屋敷を王都に所有できるということは、それなりの貴族か商人だ。調度品が不自然に歯抜けになっているところを見ると、直近か現在か、金に困った時期があり、売り払ったのだろう。

 そして、屋敷のあちこちに家紋が掲げられているのを見るに、貴族なのだろう。

 だろうと言ったが、ここってフレッドの実家だよな……。

 屋敷にある家紋が、フレッドが持ち物のあちこちにつけている家紋と同じなのだ。

 応接室には、ケイノインの他に、フレッドと中年の男性がいた。中年男性は不健康に細い体をし、やや頬はこけているものの、フレッドの面影がある。父親か近い親戚だろう。

 ケイノインはドアの近くに立ち、他の二人は向かい合う形で椅子に腰掛けている。


「どういうことですか、父上!」


 語気を荒げたフレッドが、向かいに座る父を責める。


「コイツは僕のサポートのために入学したはずではないですか! それが、僕がピンチの時に逃げやがったんですよ! おかげで平民なんぞに助けられるハメになりましたよ!」


 フレッドが指さしたのはケイノインだ。


「お前の軽はずみな行動のせいで、実験体を失うことになったんだぞ! それに、サポートと言っても、ケイノインも自分の身を守らねばなるまい。自分の弟のことだ、もう少し思いやってやれ」

「弟ですって!? コイツが本当にあのケイノインだとでもおっしゃるのですか!」

「そうだ。間違いなくな」


 ケイノインがフレッドの弟? そういえば、どことなく面影はある。腹違いだろうか?

 性格は真逆なようだが。

 無口で暗い印象のあるケイノインだが、立ち居振る舞いはしっかり教育を受けた者のそれだ。

 考えられる選択肢はいくつかある。


 一つは、ケイノインは魔族であり、フレッドの弟として人間社会に入り込んでいる場合。これは、もともといたケイノインという人物を殺してすり替わっているかもしれないし、周囲の記憶を操作しているのかもしれない。

 もう一つは、ケイノインが魔族の力をなんらかの形で注入されている場合だ。これは体の一部を合成したり、核を移植したりと色々な方法がある。

 いずれのケースもこれまでの人生で何度も見たが、どれも大抵ろくなことにはならない。

 ケイノインがどのケースかは、この情報だけでは判断できないな。


 ――たすけて!


 フレッドとその父親が中身のない言い争いを続けている間、これからどう調査を進めたものかと思案していると、頭の中にシストラの悲鳴が響いた。

 シストラにかけておいた『彼女が特定のワードを口にすると、オレとのチャンネルを開く魔法』が自動発動したのだ。

 彼女が危機に陥った際、すぐに状況を知るためにかけておいた魔法である。常時モニターすることも可能なのだが、彼女が嫌がるだろうという配慮である。

 オレの右目がシストラの右目に繋がる。彼女が見ている景色を見られるのだが……これは、風呂?

 無防備なところを狙われたか!

 寮は男女それぞれに、共同の大浴場がある。

 目に続いて耳もシストラに連結する。


「ほらシストラ、観念しなさい」

「ちょ……やめ……」


 視界に誰も入っていないことを考えると、背後から羽交い締めにでもされているのだろうか。


「すっごい胸。どうやったらこんなに育つのかしら」


 背後から聞こえるのはエルデの声だ。


「んっ……ちょっと……もまないで。もうっ、やめてよ~」


 シストラの艶っぽい声が直接自分の耳へと響く。

 この魔法はシストラの視覚をジャックしているだけで、自分で視点を変えることはできない。今のシストラの視界では、ギリギリ胸元が見えないが、状況はわかった。

 じゃれあっているだけのようだ。

 こういった状況でも、魔法が発動してしまうのであれば、発動条件を調整する必要がありそうだ。


「誰だ」


 左耳から、ケイノインの低く抑揚のない声が聞こえた。

 シストラに気をとられ、集中が途切れたのはほんの一瞬だったはずだ。だが、その一瞬、フレッドの屋敷に送っていた魔力球の隠密魔法が弱まってしまった。

 意識をフレッドの屋敷へと戻した瞬間、オレの魔力球はフレッドの斬撃によりかき消されてしまった。

 あの一瞬で探知するとはなかなかやる!

 彼らの会話から得られそうな情報はあらかた手に入った。物語じゃあるまいし、悪役がべらべらと事の真相を語り出してくれるほど、現実は甘くない。

 となるとそうだな……少々乱暴だが、この手でいくか。

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