表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/43

5章 隠密操作-1

◆ 第五章 ◆


 実習の結果は、圧倒的大差でオレ達のチームがトップだった。それにケイノインとロミが続く。ソロの二人が二位と三位になるあたり、実力差というのは残酷である。

 祠の封印を解いたフレッドのグループはポイントゼロに加え、十日間の停学となった。

 その他、上位に入ったグループも含め、喜ぶような雰囲気にはならなかった。


 黒竜(ダークドラゴン)の出現である。


 現場にいた学生達には箝口令が敷かれたが、たまたま王都から観測した者もいた以上、噂が広まるのは早かった。

 ダークドラゴンの出現とはすなわち、魔王の到来を予感させるものだ。

 かつてこの世界には三人の魔王がいた。今はそのうちの一人が覇権を握り、大魔王を名乗っている。

 大魔王はここ百年、人間との戦に直接は現れていない。

 百年前の戦では、人間側に甚大な被害が出たという。

 ダークドラゴンの出現は、魔族との大きな戦争が始まる予兆ではないかと、王都中に不穏な空気が流れている。


 魔瘴気を持ったモンスター達。

 そして、黒竜(ダークドラゴン)の出現。


 シストラの安全を考えると、見逃せる要素ではない。

 それらは全て、自然発生したものではありえないからだ。

 オレは寮の自室で星空を見ながら考える。

 どこから調査を始めたものか……。

 何かとっかかりが必要だ。


 まずは一番インパクトのあったダークドラゴン。

 残念ながら、これについは手がかりらしいものが何もない。

 ダークドラゴンは魔王の命令なしに、単独で人里に降りてくる種族ではない。

 状況から考えて、狙いは人間ではなく、祠に封印されていたモンスターか、祠そのものか、もしくはその両方だろう。

 仮に魔王がそれらを狙ったとして、問題は理由だ。

 魔王は文字通り魔族のトップだ。それがわざわざ、局所的な単発の攻撃に参加するとは思えない。


 もう一つの手がかりについて考えてみよう。こちらが本命だ。

 オレは二つの小瓶を机の上に置いた。

 中にはそれぞれ魔瘴気が入っている。もちろん小瓶には耐魔瘴気魔法をかけてある。

 一つはサイクロプスのもの、もう一つはケイノインのものだ。

 サイクロプスは焼く前にサンプルを回収しておいた。ケイノインの方は、彼が森で浅く腕を切り裂かれた際に、地面に数滴落ちた血液から回収した。

 ケイノインから魔瘴気が出たことは誰も気付いていなかったようだが。

 彼が軽症にも関わらず、すぐに引いたのは、これが原因だったのだ。

 ケイノインが魔族……?

 そうであれば、彼の高い能力も頷けるが……。


 いや、断定するのはまだ早い。

 オレは机に置いたそれぞれの小瓶を囲むように、魔方陣を展開する。

 魔瘴気が瓶の口から拡散するのを防ぐためのものと、これから行う実験に使うものだ。

 まずは二つの瓶のフタを開けた。

 さきほどの魔方陣に魔力を流し、中の魔瘴気を半分ずつ空中へと浮遊させる。

 次に浮遊状態を維持したまま、二つの魔瘴気の間に、もう一つ魔方陣を出現させる。その魔方陣の両端から、そっと二種の魔瘴気を流し込む。

 魔方陣の描く光に沿って蠢く魔瘴気は、その中心で混ざり合い、何度か小さくスパークした後、やがて消滅した。

 これは二つの物体がどの程度同じ組成をしているかを調べる魔法術式だ。


 二つの魔瘴気の一致率は八割といったところか。

 億を超える魔族を倒してきて得たデータだが、魔瘴気は個体ごとに異なる組成を持っている。

 通常であれば一致率は高くて一割だ。魔族はいくつかの条件を満たすと、魔族を生み出すことができるが、核となる精霊によってその性質が大きく左右されるため、『親子』であっても一致率はせいぜい三割が良いところである。

 八割という数字がいかに異常な高さかわかるだろう。

 この結果からもいくつか推論はできるが、今は事実だけを受け止めておこう。


 サイクロプスを焼く前にもう少し調べておきたかったな。人目がある中で、あの巨体を解剖するわけにもいかなかったわけだが。

 他に手がかりになりそうなものは現場にあった祠だが、ダークドラゴンのブレスで、残留魔力ごと綺麗に消し飛ばされていた。


 さて、手がかりの分析は終わった。

 ここからは、新しい情報を集めに行く。

 オレは掌の上に魔方陣を出現させる。

 小瓶からケイノインの魔瘴気の残りを魔方陣にたらすと、魔瘴気は魔方陣の上で渦巻いた。

 魔方陣を維持したまま、王都全域に探知魔法を放つ。もちろん、隠密制御もかかさない。よほど高い腕前の魔道士が注意していないかぎり、魔法の発動を感知されることはないはずだ。

 王都にいる人型の生物全ての魔力をスキャンする。その魔力パターンが、手元の魔瘴気と一致する者を探すのだ。組成分析が物質的な比較なら、こちらは魔力の特徴の比較だ。手元での組成分析ほど正確ではないが、探し人程度であればこの方法で十分である。


 ……。

 …………。

 ………………見つけた!


 スキャンにひっかかった反応は王都内に九つ。うち七つは一致率が低く、二つはかなり高い一致率を示す魔力パターンだ。なかでも最も一致率の高かった一つに狙いを絞る。

 オレは爪の先に不可視の魔力球を二つ作った。

 一つは左目と、もう一つは左耳と連結する。

 これで、魔力球だけを飛ばせば、遠くの出来事をはっきり見聞きすることができる。

 もちろん、飛ばす先はケイノインがいると思われる場所だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ