4章 討伐実習-5
「舌を噛むなよ」
高速飛行呪文を発動したオレは、先ほど作った道を低空飛行でかっとばす。
シストラ達が意識を失う一歩手前まで急加速。一瞬でソ(・)レ(・)の前に到着した。
ソレはこの世界に転生してから見る生物で、最も強烈な殺気を放つモンスターだった。
人型でありながら、ムーンベアーを超える巨大な体躯。オレの胴よりも太い首にのっかる頭には、ぎょろりと光る一つ目。サイクロプスだ。それも、かなりの大型である。ここまで育った個体はなかなかお目にかかれない。太ももなど、抱えるには大人三人ほどが手をつないで囲む必要がありそうなほどの太さだ。それらの手足から出されるパワーは推して知るべしである。
この場にいるのは、逃げ遅れてサイクロプスと対峙する学生が三人、木の陰に一人、そしてサイクロプスの殺気に当てられて逃げ暴れるモンスターを処理し続けているケイノインだ。
ケイノインは氷系魔法でモンスターの足を止め、魔力で強化した剣でそれらの首を斬り落していく。
やはりかなりの腕だ。あたりに転がる死体の中には、ムーンベアーも数体ある。
「グオオオオオ!」
咆哮を上げたサイクロプスに怯え、混乱したモンスター達が、逃げ惑い、手当たり次第に暴れ狂う。
的確に処理をしていくケイノインだが、いくら彼と言えども多勢に無勢。無限に沸いてくるかにも思える大小のモンスターから、無傷でいられるものではない。腕を浅く切り裂かれてしまった。
モンスター達からいったん距離を取るケイノイン。
サイクロプスは追撃するように、そのあたりからひっこぬいた巨木を無造作に振り回した。
「うわあっ!」
ケイノインは大きく飛び退って避けるも、逃げ遅れていた三人の学生がまとめて、巨木に吹っ飛ばされた。
ケイノインはそのまま木の陰へと退避する。
彼ほどの腕を持ちながら撤退した? クラスメイトを護ろうというタイプではなさそうだが、ここまで戦っておきながら、あっさり撤退したのは意外だ。能力や性格を知らない相手をあてにするわけにもいかないので、まあいいだろう。
「エルデ! やってみろ! 時間稼ぎでもいい! シストラはサポートを!」
オレは地面に転がる学生達にかけよりながら叫んだ。
サイクロプスに正面から対峙したエルデは緊張の面持ちで剣を抜く。
その間に、オレは学生達に回復魔法をかけてやる。
防御魔法は使っていたらしく、派手に吹き飛ばされたわりには、骨が数本折れた程度ですんでいる。
「骨折を一瞬で……?」
「あ、ありがとう……」
「回復魔法まで使えるなんて、ほんと何者なんだよ」
驚く学生達に構っている場合ではない。
「オレが作った道を全力で逃げろ。ここは食い止める!」
オレの指示に一瞬迷う学生達だが、すぐに駆けだした。自分達が戦力にならないと瞬時に判断できるだけでも優秀だ。
このサイクロプス、迷宮などでみるモンスターの亜種らしい。サイズが二回りほど大きいことに加え、全身に魔力が漲っている。魔法を扱えるようには見えないが、先ほどの一撃をみると、魔力で筋力強化をしているようだ。サイクロプスにそこまでの知能はなかったはずだが。
シストラとエルデでも、苦戦する相手かもしれない。
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