4章 討伐実習-4
それからしばらく狩りを続け、十分なスコアを稼いだ。
ケイノインやロミあたりがソロでどれだけストイックに稼いでいるかは知らないが、彼ら以外のグループに負けることはないだろう。
「ちょっと休憩にしない? 寮のキッチンを借りて、お弁当を作ってきたの。お肉もたくさんあるからパーティーしよう! パーティ!」
無理にトップを取る理由もない。せっかくシストラが作ってきてくれたというなら、ぜひ食べたい。
「お肉もたくさんって……もしかして、さっき狩ったモンスターのこと?」
貴族育ちのエルデがひくのもわかるが、田舎では普通のことだ。熊と熊系モンスターはどちらも食える。そもそも、モンスターとは『人間にとって特別に危険な生物』という曖昧な定義だ。
オレ達はシストラが用意してくれたパンとサラダ、それに焼き菓子を広げた。
パンと菓子は今朝焼かれたものだ。
オレは魔法で土から土鍋を作り、先ほど狩ったばかりの、ニードルタイガーの肉で鍋を作った。
「あらおいしい」
これにはエルデもご満悦である。
「ディータの肉料理は相変わらず最高だね。火加減が絶妙!」
何よりシストラに喜んでもらえるのは嬉しい。
魔法で炎の微調整ができる分、思い通りの調理が可能なのである。
「パンとお菓子も美味しいよ。お砂糖は高かったから控えめだけど」
村にいたころから、シストラは少ない食材を工夫してお菓子を作っていた。
本人曰く「それくらいの娯楽がないとね」ということらしい。
「王立学校に来て結構経つけど、鍋パーティーを始めたグループなんて初めてね」
そこに現れたのは、あきれ顔のベルリーナだ。
「先生もどうです? 美味しいですよ」
ナチュラルに鍋を勧めるシストラに、ベルリーナは少々戸惑いながらも口をつける。
「あら、本当に美味しい」
そのまましばらく遅めのランチを楽しむオレ達が、食材を全てたいらげたその時――
森の奥に、強力なモンスターの気配が出現した。
「なんだ!?」
人里の近くに出るようなレベルじゃないぞ!
エルデ以外の三人が同時に立ち上がる。エルデは魔法が使えない分、魔力感知による遠距離の気配探索が苦手となるのはしかたない。
「先生は学生達の避難を! オレは様子を見てきます」
「だめよ! あなた達も避難しなさい!」
めずらしく焦った声を出すベルリーナ。
「ベルリーナ先生以外の教員では太刀打ちできないかもしれません。無理だと思ったらオレ達もすぐ逃げますから!」
オレが倒せないようなモンスターなら、どちらにしろ学内に解決できる人材はいないが。
「……わかったわ。くれぐれも無理はしないように!」
逡巡したベルリーナだが、問答している時間もないと判断したのか、学生の気配が多い方へとすぐに飛び去って行った。
森の中には採点のために多くの教員が配置されている。連携して学生達を逃がしてくれることを祈ろう。
「さて、二人はオレに着いてきてもいいし、このまま逃げてもいい。言っておくが、死ぬかもしれない。どうする?」
いじわるな質問ではあるが、事実は伝えておいた方がいい。
強いモンスターを直に見るというのは、一皮むけるのに有効な手段の一つだ。だが、オレに無理矢理ひっぱって行かれたのでは、集中力を欠くことにもなるし、身にもならない。
これでシストラが着いてくるならそれでよし。もしシストラだけが残るというなら、エルデを護衛に残すつもりだ。
「もちろん行くよ!」
シストラはあっけらかんと、
「いくわ」
エルデは顔を引き締めてそう言った。
「よし。ならまずは道を作るぞ」
目標のモンスターとここの間に、人の気配がないことを確かめたオレは、右の掌をモンスターの方へと向ける。
――ドドドドンッ!
掌から出した衝撃波が、木や岩を瞬時に吹き飛ばし、三人が並んで走れるほどの道を作った。
「すご……今のでモンスターも倒しちゃったんじゃない?」
そう言うエルデだが、モンスターの気配は健在だ。
オレは小さく首を横に振ると、二人に手を差し出した。
意図を察した二人は、オレの手を握る。
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