表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/43

4章 討伐実習-2

 実習の会場となる森は、王都の正門と逆側にある。

 王都のすぐ側にありながら、焼き払われない理由はシンプルだ。

 有用な素材が多く取れるからである。

 森には一般人には到底倒せないモンスターも多く、傭兵業が盛んになる。そうなれば、街ではより多くのお金が動くことになるのだ。

 ついでに、強い傭兵が街に多く駐留することとなり、有事の際にも役に立つおまけつきだ。

 そんな森の前に、九十名近い一年生が集まっていた。

 学生達はみな、思い思いに武装している。さすが王立学校に合格しただけあって、装備もしっかりしている者がほとんどだ。

 一方、オレとシストラをはいつもの制服姿である。オレの武器はロングソード、シストラは魔力増幅器付きの両手杖だ。

 そんな学生達を前に、ベルリーナがあらためて注意事項を伝達している。


「最後に、森の奥にある祠について色々と噂が流れているようだけど、絶対触れないこと。あそこは学校側が調査中です」


 ベルリーナの言う『祠』とは、凶悪な魔族が封印されているという噂のある小さな遺跡だ。遺跡と言っても、タンス程度の大きさらしい。

 最近の地震がきっかけで見つかって以来、近づくことも禁止されている。

 本当に魔族が封印されているとは思えないが、調査が終わるまでは念のためということなのだろう。


「それでは始め!」


 ベルリーナの号令で学生達が一斉に森へと入っていく。

 そんな中、フレッドのチームだけがこちらを睨んでいる。


「絶対勝つからな!」


 そう言い残すと、フレッドは森へと入って行った。


「実力差がわからないとは、哀れね」

「エルデちゃん……それはちょっと辛辣じゃあ……。フレ……フロ……? 彼もがんばってるんだから」

「シストラこそ、名前も覚えてないじゃない……」


 女子二人の会話を聞いたら、フレッドは泣くんじゃなかろうか。

 それはさておき、オレ達もそろそろ行こう。

 一位を取るのは簡単だ。オレ一人で森中のモンスターを狩り尽くすことすら難しくない。

 だがそれではシストラの思い出を奪ってしまうことになる。


「せっかくだから、この実習を二人の修行に使おう。負けそうになるまでオレは手を出さない。他のチームより戦力は一人分少なくなるが、問題ないだろ?」

「もちろんよ」

「がんばってみる~」


 ここで引くような二人じゃないだろう。


「じゃあまずはエルデからだ。対人戦で十分に強いことは知ってるが、モンスター相手の動きを見ておきたい。そうだな……少し走るぞ」


 オレはそれなりに強力なモンスターの気配に向かって移動を始めた。

 走りにくい森の中を二人ともぴったりついてくる。

 そこでは既に、別チームとモンスターとの戦いが始まっていた。

 相手はムーンベアー。

 立ち上がると頭部が二階の窓にも届くほどの巨体を持つ熊である。気性は荒く、その腕による一撃は、軽く人間の大人を吹き飛ばす。獣にしては頭も悪くなく、駆け出し傭兵の多くが命を落とす相手である。

 オレ達の位置からは、ムンベアーの背中が見える。その先には三人の学生達。


火炎槍(フレイムジヤベリン)!」


 学生の一人が呪文を放った。

 おいおい、森の中で火炎魔法なんて使ったら火事になるだろ。

 ベルリーナから火炎魔法の使用禁止は言い渡されていたのだが、既に彼らはパニクっているのだろう。最も使い慣れた魔法を放ってしまったようだ。

 ムーンベアーは飛来する炎の槍をその巨体に似合わぬ速度で横に避けつつ、四つ足で学生達に突進していく。

 結果としてこちらに飛んで来る炎の槍。


「任せて」


 言いつつ前に出たエルデは、剣の一振りで炎の槍を斬り散らした。

 言葉だと簡単だが、誰にでもできるような芸当ではない。

 魔剣でもない限り、炎の槍を斬ったところで刃が素通りして終わりだ。多少炎は散らされるものの、消滅したりはしない。

 刃で切るのではなく、角度をつけて剣の腹で叩く必要がある。しかし、真正面から叩いても逆に弾かれてしまう。適切な速度と角度、それをあの一瞬で見極める力量が必要なのだ。


「やるじゃないか」

「剣だけで魔道士と戦うには必要な技術だもの」


 ここまで対魔道士用に腕を磨いている剣士はそういない。剣士の相手は剣士。戦場で剣士が魔道士に挑むのは、数で押し込むか、隙を突く場合が主で、まともに戦闘技術を競い合うような場面は少ない。それにしても、彼女の腕前は既に国内でもトップクラスではなかろうか。


「く、来るなぁ!」


 オレがエルデの腕前に感心している間にも、先に戦っていたチームは追い詰められている。

 散発的に魔法を撃ちながら逃げるものの、捕まるのは時間の問題だ。

 そんな彼らを、木の上から助けようとする気配がある。

 彼らを監視している評価担当の教員だろう。学生の身が危険になった場合の救助役もかねているということか。

 ムーンベアーが出るような森なら、当然の予防策と言える。

 教員に助けられるくらいなら、オレ達が助けても良いだろう。


「オレ達が手伝ってもいいか?」

「た、頼む! 殺されちまう!」


 よし、これで「手柄を横取りされた」などとイチャモンをつけられることもない。

 ポイント制である以上、後でごちゃごちゃ言われるのは面倒だ。


「エルダ、一人でいけるか?」

「もちろんよ」


 口の端を不敵に持ち上げたエルダは、ムーンベアーの背後に向かって駆ける。

 背後からの接近に気付いたムーンベアーは、振り向きざまにその腕を振るう。

 すでに肉薄していたエルデは、大人の脚三本分はありそうな腕を、一刀のもとに斬り飛ばした。


「ぐあああああ!」


 痛みに咆哮し、立ち上がったムーンベアーは、大口を開け、エルデの頭にかぶりついてくる。


「秘剣・跳舞(ちようぶ)!」


 そこでエルデはムーンベアーをすり抜けるかのように飛び上がった。

 すり抜けざま、跳躍による勢いの乗った斬撃が、大人二人でやっと抱えられそうなほど太い首を切り落とす。

 ズズン――

 首から血を吹き出しながら、地響きを立てて、ムーンベアーの巨体が地面に倒れた。


「やるじゃないか。モンスター相手にも殺傷力十分だな。何より、度胸がいい」


 貴族の中には、対人用の剣術には長けていても、それ以外が相手になるとからっきしという者も多い。


「ふふっ、ありがとう」


 剣についた血を一振りで払ったエルデが微笑んだ。

 ムーンベアーを相手にしてこの余裕とは、実に頼もしい。先に戦っていた学生達はとっくに逃げ出している。

お読み頂きありがとうございます。

励みになりますので、高評価、ブックマークでの応援よろしくお願いいたします。


本日の更新はここまでです。

明日も同じ時間に更新予定ですので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ