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4章 討伐実習-1

◆ 第四章 ◆


 入学してから今日で四日。

 明日は森でモンスター討伐実習があるらしい。

 小講堂では、ベルリーナが実習についての説明をしている。


「この実習は、日頃から学校へ武具や物資の提供をしてくれている王都の民へのお礼を兼ねています。もちろん、成績にも影響しますから、気を引き締めてかかってください」


 在学中の成績で、就職の推薦先が決まる。つまり、学校での成績が一生を大きく左右すると言って良い。

 今回の実習では、モンスターの討伐内容と数でスコアがつけられるという。

 学校での勝敗など、オレにとっては大した問題ではないが、シストラが人生の選択肢を多く持てるという意味では、高い成績をとっておくにこしたことはない。


「実習は三人一チームを組んでもらいます。一人や二人でもかまいませんが、だからといって成績に忖度はしません」


 強い者と組む交渉術も実力のうちということだろう。

 シストラに目を合わせると、彼女は笑顔で小さく頷いた。確認するまでもなく、オレ達が組むのは決定だ。

 あと一人を入れるかどうかだが、誰を入れても足手まといなんだよな。

 この数日、クラスの様子を見ていて、オレとシストラ以外に高い能力を持っていそうなのは三人。

 一人は十歳にして入学を許された天才少女、ロミ。

 もう一人は、誰とも話しているのを見たことのない謎の青年、ケイノイン。

 二人とも、どうにもクラスになじめていないようだ。

 最後の一人は、もちろんエルデである。


「それでは今日はここまでです。明日の実習、皆さんの活躍を楽しみにしています」


 ベルリーナが小講堂を出て行くと同時に、クラスメイトが一斉にオレを取り囲んだ。


「ディータ! オレたちのチームに入ってくれ!」

「いや! オレたちの!」

「ちょっと! 私たちのチームでしょ!」

「バカね、ディータはシストラと組むんだから、入れるのはあと一人でしょ。あたしを入れて!」


 ちらりとシストラを見ると、困り顔をオレに向けていた。あまり歓迎していないという表情だ。


「悪いが――」


 オレが口を開きかけると、人をかきわけてエルデがやってきた。


「ディータの強さにぶらさがろうというのが見え見えで、どうかと思うわよ?」


 エルデのセリフに、顔をしかめるクラスメイト達だが、彼女の強さを知っているだけに、何も言えない。このクラスに、一対一で彼女に勝てる可能性があるのは、先にあげたロミとケイノインくらいだ。その二人は、さっさと小講堂を出て行ってしまった。ソロでやるということだろう。


「あなたたちに比べれば、彼の方がマシね」


 エルデの視線の先にいるのはフレッドだ。

 すでにチームを組んだらしく、オトモ二人とともにこちらを睨んでいる。

 フレッドはオレを指さしたあと、首をかっきる仕草をして、小講堂を出て行った。宣戦布告ということなのだろう。負ける気は全くしないが、ああいう勝ち気なのは嫌いじゃない。


「今回、みんなと組む気はない。次の機会にまた頼む」


 ムダにクラスメイトを煽ってもしかたないので、できるだけやんわり断ったつもりだ。

 エルデの前振りがあった上で、オレにはっきりそう言われてなお、食い下がる者はいなかった。

 ただ一人、エルデを除いて。


「私は彼らとは違うわ。足手まといにならない……なんてことは言えないけれど、役に立つと思うの。モンスター相手なら、人間相手には封印している、殺傷力の高い秘剣も使えるわ」


 彼女の実力は認めるものの、よほどの高位魔族が出てこないかぎり、オレが一人いれば問題ない。

 なので、どれほど強さに関してアピールされても、オレやシストラに響くことはない。


「それに、シストラさんとも仲良くしてみたいの……」


 こういったことを言うのに慣れていないのか、とても恥ずかしそうに言うエルデである。

 シストラと友達になるという、オレとの約束を覚えてくれていたらしい。


「うれしい! あたしが平民だからか、みんなとちょっと距離を感じてたの。ねえディータ、いいでしょ? エルデちゃんと一緒に組もう?」

「エ、エルデちゃん……?」


 ちゃん付けで呼ばれたことに、エルデは面食らっているが、さほど気を悪くした風でもない。こういうところが、エルデをシストラの友人候補に選んだ理由でもある。


「あたしのことはシストラでいいよ」


 シストラの無邪気さに、助けを求めるようにオレを見るエルデだが、オレは肩をすくめることしかできない。


「わ、わかったわ……」

「えへへ、ありがとう。明日はがんばろうね!」


 やはりシストラの笑顔は最高だ。


「ディータとエルデちゃんも仲良くなれたようでよかったよ」


 何を見抜いたのか、シストラが嬉しそうにオレとエルデを見比べる。


「え? そ、そんなことないわ。普通よ、普通」


 なぜそこで顔を紅くして慌てるんだ。多少仲良くなれたのは事実だろ。


「困った時にディータの顔を見たでしょ~? うんうん、ディータは頼りになるもんね。わかるわかる」


 シストラはドヤ顔でうんうんと頷いている。


「くっ……のほほんとしているように見えて、さすがの洞察力ね。ディータの一番弟子なだけあるわ」

「えへへ、ありがとう」

「くっ……こうなったら……ディータ! 私を弟子にしてください」


 笑顔のシストラに対し、エルデは真剣そのもののでオレに詰めよってきた。


「断る」


 なにが「こうなったら」なのか。


「即答!?」

「シストラ以外を弟子に取る気はない」


 そもそも、シストラに色々と教えているのは、彼女の幸せのためだ。それ以外の理由で弟子を取る気はない。


「シストラだけが特別ということかしら?」

「そうだ」

「言い切った……」

「わかったらあきらめてくれ」


 唇を引き結んだエルデは、一瞬の間をおいて、再び口を開いた。


「私、シストラと仲良くなりたいと思ってるの。それにはより長い時間を一緒にいるのが一番だと思うのよね。だったら、シストラがディータがら訓練を受けている間も、一緒にいられた方が良いと思うのよね」

「まあ……一理あるな」

「私のために時間を取ってほしいとは言わないわ。訓練している様子から盗ませてもらうだけ。それに……」


 エルデはオレにそっと近づき、耳打ちする。


「(私が強くなった方が、シストラの友達としては都合が良いんじゃないかしら?)」


 確かに、シストラの弱みとしてエルデが人質にとられたり、そうでなくとも三人一緒の時に弱点として狙われたりするのは避けたい。


「わかった。それでいいなら」


 魔法を使えないと聞くと頭が悪いというイメージをする者も多いが、必ずしもそうではない。

 彼女のように体内の魔力回路に問題を抱えているために魔法を使えない場合もある。そして彼女は、貴族育ちだからかもしれないが、交渉術の腕前は悪くない。


「むむ……なんか、思ったよりずっと仲良くなってない?」


 一つ誤算があったとすれば、シストラがほっぺをふくらませて、少しだけ不機嫌になったことだ。

 そんな顔もかわいいので、まあ良しとしよう。

お読み頂きありがとうございます。

励みになりますので、高評価、ブックマークでの応援よろしくお願いいたします。


本日の更新はここまでです。

明日も同じ時間に更新予定ですので、よろしくお願いします!

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[気になる点] 100億回も人生をやり直してきているのに、出会う人出会う人まるで初対面のように話しているのが気になる。そんだけ人生やり直しているのに重要そうな選択肢である学園に一度も行ったことがないの…
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