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3章 剣の舞姫-8

 学校へはオレの飛行魔法で戻ることにした。エルデと手をつなぎ、並んで空を飛ぶ。


「すごい……飛んでる……」


 エルデはキラキラした目で眼下に広がる景色を眺めている。


「なぜそこまで強くなろうとするんだ?」


 傭兵として食べていくことを決めた平民ならともかく、女性の貴族が腕っ節を求めることは実に稀だ。


「……助けてもらっておいて内緒というわけにはいかないわね」

「無理に話せとは言わないが」

「いいえ、聞いてほしい」


 小さく息をしたエルデは語り出した。


「私は王族の女として、政略結婚の道具とされる予定だった」

「それが嫌だったのか」

「いいえ、政略結婚自体に文句はなかったわ。女の身で家にできる一番のことだから」


 半分本心から、半分あきらめたようにエルデは言った。


「でも、その相手が問題だったの。仮にも王家の血を引く私の結婚相手は、戦略的価値の全くない、田舎領主の末っ子だった。それもバカで有名な上に、もう六十歳を超える老人」

「そうか……。自分の存在を否定されたんだな」


 エルデは小さく頷く。


「魔法が使えないというだけの理由で、私には政略結婚の道具としての価値もない、ただそっと抹消したいだけの存在だと示されたの。他でもないお父様に」


 ただあきらめて生きるだけの者ならば、その仕打ちを享受したかもしれない。だが、エルデはあれほどの剣術を身につけるような努力家だ。そんな彼女が、努力と存在全てを否定されるような仕打ちをただ受け入れるわけがない。


「泣き寝入りはしなかったんだな」

「ええ。まずは魔法の得意な兄達を全員剣で倒したわ」

「そりゃまた前のめりだな……逆に反感かっただろ」

「子供だったわ……」


 エルデは唇を噛み、恥ずかしそうに顔を伏せた。


「私を無視していた兄達から、嫌がらせを受けるようになったの。このままじゃ、田舎でおじいちゃんの相手をして死ぬだけだと思ったわ。だから、魔法を使える貴族でも難しい王立学校に入り、そこでトップを取れば自由に生きていいという条件を、お父様に飲ませたの」

「入学すらできないと思われたんだな」

「そう。でも私は合格した。そして、貴男を見つけてしまった」

「だから、学年で一番強いオレに勝負を挑んできたのか」

「いつお父様の気が変わるかわからなかったから、すぐにでも結果がほしかった。結果は惨敗だったけれど……」

「オレじゃなかったら、試合でエルデに勝てる魔道士なんてまずいないさ」

「ありがとう……」


 エルデは慰めだと思ったかもしれないが、これは事実だ。

 彼女の初太刀を捌ける魔道士などそうはいない。


「今となっては、結婚相手で自分の価値が変わるだなんてくだらないと思えるわ。そういう意味で、実家には感謝しないといけないかもしれないわ」


 そう言うエルデの笑顔は実にすがすがしいものだった。

 これくらいの気概がある者こそ、シストラの友人にふさわしい。


「貴男こそなぜこれほどまでに強くなったの? どんな大天才だっとしても、生半可な修行でどうこうなるレベルじゃないことくらいはわかるわ」


 ここでごまかすのは失礼か。


「護りたい人がいる」

「シストラさんのこと?」


 すこしいたずらっぽいエルダの笑顔は、初めて年相応にも見えた。


「さあな」


 わかりきっているとしても、そこまでは答えられない。弱みになるからだ。


「彼女とはどういう関係なの?」

「幼なじみだ」

「ただの?」

「大事な」

「ふふっ。貴男にそう言ってもらえる彼女は幸せね」


 幸せ、か。


「だったらいいんだがな」

「……なにかあるの?」

「いや……」

「ごめんなさい。立ち入ったことだったわ」


 こちらもエルデにばつの悪い顔をさせるつもりはなかった。


「いいさ。それより、こんなやり方をして悪かったな。家からの援助を打ち切られるかもしれない」

「もともと、縁を切ってでも逃げだそうと思っていたもの。家に逆らってお金だけもらおうって方がおかしいわ。むしろ手間が省けたかもね」


 そう言ってエルデはすがすがしい笑顔を浮かべた。


「……貴男に何かお礼がしたい」

「いらないさ。感謝や見返りがほしくて助けにきたわけじゃない。むしろオレのわがままだ」

「私を助けることがわがままって……」


 眼下に顔を向けたエルデの表情は、こちらからはうかがい知れない。


「それじゃあ私の気が済まないわ。何かないのかしら?」


 このまま何もなしは絶対に許さないという気迫を感じる。これは言うべきではないのかもしれないが……。


「じゃあ……シストラの友達になってやってくれ。合わないと思ったらやめてくれていい」

「ふうん……いいわ。お友達って作ったことがないけど、貴男の頼みならがんばってみる」

「よろしく頼む」

「まるで保護者ね」


 エルダがあきれ顔をする気持ちもわかるが、こちらはこちらで真剣なんだ。


「危険からは護りたいと思ってる」

「過保護」

「そうでもないさ」


 むしろそうであってほしかった。

 友達なんて頼んでなってもらうものじゃないが、きっかけを作るくらいはいいだろう。

 それでシストラが楽しい学校生活を送れるというなら、安いもんだ。


「少し速度を上げるぞ。急げば次の授業が始まる前に帰れそうだ」

「ふふ……帰る……なんだか素敵な言葉だわ」


 ごまかすように言ったオレに、エルデは出会った頃からは想像できない、楽しげな微笑みで応えたのだった。

お読み頂きありがとうございます。

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本日の更新はここまでです。

明日も同じ時間に更新予定ですので、よろしくお願いします!

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