3章 剣の舞姫-7
「部外者が手を出すな!」
エルダの父からの叱責が飛ぶが、ことらにも言い分はある。
「そちらが騎士だけではないように、こちらもエルデだけが戦うとは言っていない。だが、今回の目的は剣だけで魔法にも勝てるのを証明することだったな。そいつはオレがやってやろう」
オレはいったん剣を引き、五歩ほど下がった。
「アンタとはオレが戦る。もちろん剣だけでな。魔法が最高だと言うなら、問題ないだろう?」
「魔族とも戦ったことのある私ですが……相手にとって不足はなしと見ました。よろしいですね、旦那様」
そう言う間も、テクスは隙無くこちらから目を離さない。
「絶対に勝て。我が家の汚点にこれ以上勝手をされてはかなわん」
この男、自分の娘を汚点と言い切るのか。
「はっ。必ず」
テクスは懐から取り出した手袋を両手にはめた。手袋の甲には宝玉があしらわれている。魔力増強のブースターだ。
本気ということか。悪くない。
「もう少し距離が必要か?」
「必要ありませんよ。火炎壁!」
通常はその場に火属生の攻撃を防ぐ壁を出現させる魔法だが、テクスによってアレンジさたその壁はオレに向かって迫って来る。
この老人、言うだけあってなかなかの腕前だ。既存の魔法の効果をアレンジするのは、その発動原理を理解していなければできない芸当である。
この壁、上、左右どちらに避けても、次の策があるのだろう。
ならば――
オレは上段に構えた剣を真っ直ぐ振り下ろした。
剣から発生した真空の刃によって、炎の壁が左右に割れる。そのままテクスに向かって飛ぶ真空の刃は、彼の手に纏われた風によって機動を反らされた。
「まさか剣の一振りであの壁を破るとは、やりますね。真空の刃を打ち出す奥義ですか」
「奥義じゃない。準備運動さ」
オレは再びテクスとの距離をつめ、剣を振り上げた。。
「フレイムジャベ――くっ!」
無詠唱魔法で迎撃しようとしたようだが、それを許すようなノロマじゃない。
拳での防御に切り替えたテクスだが、オレは構わず剣を振り下ろす。
テクスが拳に使っている魔法は、殴る威力を上昇させると同時に、剣や矢による攻撃をその風で反らすことができる。攻撃魔法と併用できれば、魔道士の自衛手段としてはポピュラーなものだ。
だがオレには通用しない。
振り下ろしたオレの剣は、テクスの拳か二の腕にかけて、風の魔法ごと真っ二つに切り裂いた。
「ぐあああああ!」
その場に崩れ落ちるテクス。
「ディータ! そこまでしなくても!」
慌ててテクスに駆け寄ろうとするエルデを手で制し、切り離した腕を傷口につけ、回復魔法をかける。
テクスがまばゆい光に包まれた後、オレが切り裂いた腕は傷跡もなくきれいに治療された。
「こんな一瞬で回復魔法を……しかも無宣言発動だと? 幻覚……? いや……少なくとも私は幻覚だと認識できなかった……」
テクスはもちろん、オレの治療魔法を見た全員が呆然としている。
自己治癒能力を加速させる回復魔法であれば、使い手はいないわけではない。だが、今のようにそれ以外の方法での治療となると、使い手はほぼいないと言っていい。
「魔法をものともしない剣の使い手でありながら、こんなに高度な回復魔法を使うなんて……あなた、一体何者なの……?」
そう聞いてくるエルデにはオレはひょいと肩をすくめてみせつつ、彼女の父親に向き直る。
「オレ達の勝ちでいいよな? エルデは学校に戻してもらう」
「ぐぬぬぬ……王族にこんな侮辱をしてタダで済むと思うなよ!」
「二人の学生に護衛騎士と懐刀をやられました、ってのが世間に知られていいなら好きにするんだな」
「絶対にこのままではすまさんからな!」
この調子だと、何か嫌がらせをしてくるだろう。だが、こんな小物がしかけてくることなど、いくらでもはね除けられる。その程度のことができないようでは、シストラに幸せな人生を送らせることなどできはしないのだから。
そうではあるのだが、オレは手を緩めない。
オレは去り際、誰にも気付かれないよう、エルデの父にとある呪術をかけた。
この呪術が発動しないのを願うばかりだ。
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