3章 剣の舞姫-6
「エルデ=ロングトラスト、家名ではなく己のため、そして学友の恩義に報いるため、参ります!」
低い姿勢で騎士達の眼前へと突っ込んだエルデは、横薙ぎに剣を一閃。
抜かれたばかりの騎士達の剣を一本斬り飛ばした。
エルデの剣は特別上等なものではない。ただ、その刃は極限まで研がれているようだ。
いくら研がれていても、同じ硬度の剣どうしで打ち合えば、互いに刃こぼれして終わりである。一方的に斬り飛ばしたという事実が、彼女の技量の高さを物語っている。
とはいえ、研ぎの効果はそれが繊細であるが故にすぐ失われてしまう。
二人目の剣を斬り飛ばしたところで、エルデは両刃の剣をくるりと半回転。使う刃を切り替えた。
だがさすがは王族の護衛騎士。エルデが三人目に肉薄したところで、すでに体勢を立て直し、陣形を組んだ。
前衛三人がエルデに斬りかかり、剣を斬られた二人を含めた七人が、後衛で呪文を唱え始めている。
エルデは前衛一人目の斬撃を僅かな動きで避けつつ、その剣を斬り飛ばす。続いて振り下ろされた二人目の剣も、下から迎え撃つ形で斬り飛ばした。三人目の斬撃に剣を合わせるも、今度は弾かれる。
片刃あたり二本ずつが限界か。それでもすさまじい腕だが。
三人目の剣の威力を受け流しつつ、エルダは自らを相手の懐に潜り込ませた。
背中を相手の腹部に押し当てる姿勢で、掌底を顎に叩きこむ。
たまらず昏倒する騎士。
これで一人が戦闘不能、四人の剣が無力化された。
「「「風爆球!」」」
後衛に下がっていた七人が同時に魔法を放った。
対象に衝突すると破裂する風の球体を放つ魔法である。直撃しても大人を吹き飛ばす程度で、石壁を破壊するような威力はない。
こういった『試合』の場合、魔法側には弱点がある。剣ほど細かな手加減がしにくいことだ。
特に騎士ともなれば、魔法はあくまで戦争の道具の一つ。魔道士のようにその深淵を覗きに行くわけではない。威力の高い魔法を使えるほど良いとされるのが普通だ。
結果として、このように怪我をさせるのもためらわれる相手への魔法攻撃は、消極的にならざるをえない。
エルデは七つの球体のうち六つをなんなく避けつつ、前へと突進。最後の一つを後ろ手に構えた剣で突いた。
爆音とともに誘爆を繰り返した風が近くにいた前衛の三人を吹き飛ばすと同時にエルデの背中を押す。
うまい!
魔法が使えないことと、特性を理解していないことはイコールではない。エルダは自身が魔法を使えなくとも、勉強はかかさなかったのだろう。だからこそ、この一手がうてた。
風に乗ったエルデは、次の呪文に意識を取られていた騎士二人の剣を瞬く間に絡め取った。
そのうち一本が地面に落ちる前に手に取り、別の騎士へと投げる。
それを避けて体勢を崩した騎士に肉薄し、剣の柄による当て身で気絶させた。さらに、剣を持つ最後の騎士と数合の後、その手から剣を絡め取り、背後にまわって騎士を拘束すると、喉元に剣をつきつけた。
武器を失い、吹き飛ばされながらも次の呪文を唱えていた騎士達の動きが止まる。
「騎士の魂たる剣を折られ、こうして仲間を拘束された。十対一でね。私の勝ちということでいいかしら?」
エルデのセリフに、騎士達から戦意が失われた。
狭い路地などの地の利も無く、これだけの人数差で勝つことは容易ではない。
それだけエルデが強いということだ。
「どうかしら、お父様」
勝負あり。そう思われたが、エルデに視線を向けられた彼女の父は、全く動じた様子がない。
「風小爆球陣」
その時、エルデの父の側に控えていた老人が、突如無詠唱で魔法を発動した。
エルデを取り囲むように、拳程度の小さな風の塊が三十個ほど出現した。騎士達が使った魔法の応用版である。
「仲間ごと!?」
エルデはとっさに騎士を突き飛ばして風の塊を爆発させ、そちらの方向へと無理矢理転がった。
咄嗟の判断としては及第点だったが、相手が悪かった。
エルデが立ち上がろうとしたすぐ足下に、炎の槍が突き刺さる。
「チェックメイトです、お嬢様」
「くっ……テクスも戦うなんて聞いてないわ!」
「戦わないとも言っておらん」
いけしゃあしゃあと言い放つエルデの父。だが、言っていることは間違っていない。彼は「ここにいる全員を倒せなければ」と言ったからだ。だが、それはこちらも同じである。
オレは地面に落とされた騎士の剣を拾いながら、一瞬でテクスとの間合いを詰めた。
その喉元に剣を突きつける。
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