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3章 剣の舞姫-4

 エルダと決闘をした翌日、彼女が実家に連れ戻されたという噂がクラス内でささやかれていた。


「どういうことだ?」


 オレは手近なクラスメイトに事情を訊いてみた。


「実家に連れ戻されたらしいぜ。まあ、魔法も使えないのに、頼みの綱の剣で負けちゃあなあ」

「彼女の剣は一流だ。オレに負けたからといってそれは変わらないだろ」

「王家の恥さらしにそういうのは通用しないんじゃね?」


 どうやら、オレが知識として知っていた以上に、魔法を使えないということは貴族――特に王家にとっては恥になるらしかった。

 良い家に生まれる運も本人の持つ力であるなら、それに苦労するのもまた同じ。

 そうではあるのだが、オレのせいで退学になるというのはなんとも寝覚めが悪い。

 なにより、彼女はシストラの筆頭友人候補なのだ。

 ガイダンスからクラスメイトを観察していたが、彼女ほどシストラと仲良くしてほしいと思った人材はいなかった。だが……。


「ん~? なんか自分に言い訳しようとしてる顔だよ?」


 ひょいとシストラが顔を覗き込んできた。


「そんなことない」

「でもエルダちゃんを助けに行きたいって思ってるでしょ?」

「いや……そんなことは……」


 オレの最優先はシストラだ。


「村でもなんだかんだで、ジャンに優しかったしね」

「アイツと仲良くした覚えはないが」

「知ってるよ? ジャンが村の大事な馬を逃がしちゃった時、こっそり夜に魔法で連れ戻してたでしょ」

「あれは……」


 村でもめごとが起きると、シストラが悲しむと思ったからだ。そんなこと、口に出せないが。


「行っといでよ。あたしもエルダちゃんが戻って来たらうれしいし。クラスメイトは多い方が楽しいもんね」

「わかった。そういうことなら行ってくる。シストラがそう言うならしょうがない」

「うんうん、しょうがないしょうがない。行ってらっしゃい」


 シストラはいつもの笑顔でひらひらと手をふった。

 オレが解決してくると信じて疑わない顔だ。この信頼は裏切れないな。


「ランチまでには戻る」

「じゃあ二時限目まではサボりだね」

「聞く価値のある授業だったら、あとで教えてくれ」


 とは言ったものの、問題はエルデの居場所だな。

 今朝、エルデを乗せた馬車を目撃したクラスメイトによると、西に向かったらしい。

 それだけわかれば十分だ。


 オレは飛行魔法で学校の屋上に上ると、爪の先ほどの小さな魔力球を五万個ほど生成した。それを西の空に向かって放つ。

 一定距離をおいて扇状に放った魔力球は、その一つ一つが集音装置の役割を果たしてくれる。

 魔力球は早朝から馬車で移動できた範囲全てを網羅している。

 人の声から虫の羽音まで、あらゆる音がオレの耳に届く。

 この中からエルダの声を聞き分けるのだ。

 他にも彼女を探す方法はいくつもあるが、彼女に関する情報が少ない今は、これが手っ取り早い。

 さあなんでもいいから声を出せ。

 じっと待つことしばし。


『……なん…………私にだ…………出……さい!』


 見つけた! エルダの声だ!


 どこかに閉じ込められているのか? 石壁の内側から漏れ出る微かな声を拾ることができた。

 誰かと言い争っているようだが、細かい内容までは聞き取れない。集音用の魔力球を寄せれば聞くこともできるが、それよりも現場に向かった方が早い。

 オレは高速飛行の魔法を発動。王都が掌に収まるほど小さくなるまで上昇する。

 視力強化で声の出所を見る。

 エルダが居るのは、小さな砦の塔の上。幽閉されているのか。

 砦から四十代くらいのでっぷりした男と、お付きらしい老人が出てきた。身なりから、かなりの上流貴族だとわかる。彼らが乗り込もうとしている馬車には、十人ほどの護衛騎士がついている。


 あいつらか、エルダを連れて行ったのは。

 オレは高速飛行の魔法で、真っ直ぐにエルダのいる塔へと()()した。

 落下にかかる時間はほんの一呼吸。その間にエルダの正確な位置を把握し、塔の壁をぶち破って、彼女が幽閉されている部屋に乱入する。


「ディ、ディータ!? なぜここに!?」


 椅子を振り上げた姿勢で固まっているエルデが、目を見開いて呆然としている。椅子で扉を破ろうとしていたのだろうか。

 彼女は貴族というより商家の娘といった服を着せられている。このあたりからも、家での彼女に対する扱いがわかろうというものだ。


「崩れるぞ。跳べるか?」

「え、ええ……」


 頷くエルデの視線は、オレの乱入で壊れた壁の向こう側にある剣に向けられている。

 オレはその剣がエルデの手元に収まるよう、魔法で引き寄せた。

 椅子を放り投げたエルデはその剣を手に取り、壁の穴から迷うこと無く飛び出した。

 四階からの落下だが、エルデはその衝撃を地面を転がって吸収する。

 それを追って、オレもゆっくりと地面に降り立った。


お読み頂きありがとうございます。

励みになりますので、高評価、ブックマークでの応援よろしくお願いいたします。


本日の更新はここまでです。

明日も同じ時間に更新予定ですので、よろしくお願いします!

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