3章 剣の舞姫-2
「実技試験や魔族の知識では後れを取ったが、実戦ではそうはいかないぞ!」
初日の放課後に絡んできたのは、おなじみフレッドだ。
「かもな」
相手をするのも面倒なので、それだけ言って立ち去ろうとする。
「まてまてまて! 僕と勝負をしたまえ!」
前に回り込んできたフレッドが、両手を広げてオレの行く手を遮る。
「なんでだよ」
「うぐ……まさか男が勝負を挑まれて、疑問に思うとは……想定外だ」
「なんだその思考。野蛮すぎだろ」
「平民のくせに貴族を野蛮人扱いとは! 許さん! 勝負しろ!」
そこですぐに怒るところが野蛮だと言うのだが。
問答をしている間に、一勝負した方が早そうだ。
「わかったわかった。闘技訓練場でいいか?」
王立学校には、訓練用の闘技場が複数存在している。
申請すれば誰でも使えるらしい。学生どうしの戦闘訓練を推奨しているためだ。
闘技訓練場についたオレとフレッドは、石でできた円形のリングで向かい合う。
Aクラスのほぼ全員が野次馬にきているようだ。
「僕が勝ったらシストラをもらうぞ!」
まだそんなことを言っているのか。
小さくため息をつくオレを無視し、フレッドは呪文を唱え始める。
熱よ 震え、集まり 炎と成せ
炎よ 集まり、研ぎて 槍と成せ
「火炎槍」
天に掲げたフレッドの掌の上に、大人の身長ほどもある炎の槍が出現した。
「いけえっ!」
フレッドが手を振り下ろすのに合わせ、炎の槍がオレに向かって飛来する。
「やるじゃねえかアイツ」
「戦場でも十分通用するレベルだぞ」
クラスメイト達が言うように、行軍中の敵にこいつをうちこめば、数人をまとめて串刺しにすることも可能だ。後方支援限定であれば、すぐにでも職にありつけるだろう。言うだけのことはある。
そんなものをクラスメイトにぶっ放すなという話ではあるが。
さて、この槍をどう処理したものか。
闘技訓練場のリングには魔力による結界が張られていて、避けても野次馬達に被害がいくことはない。
ただ、それでは決着がつかないな。
……この手でいくか。
オレは飛来した炎の槍を無造作に左手でつかんだ。
「なんだそれ!?」
唱えていた次の呪文を中断して驚くフレッド。
オレは彼の足下から、影の蔦を出現させ、体を絡め取る。
「くっ!? 動けけなもがっ!」
ついでに影で猿ぐつわもかませておく。
ごろんと寝かせていっちょあがりだ。
「勝負ありってことでいいな?」
「ふがふがふがふがー!」
何を言ってるかわからんな。
オレはリングから降りて、シストラの元へと戻る。
「やったねディータ。さっすが!」
ハイタッチで待ち構えるシストラに、一瞬ためらいつつも軽く手を合わせる。
人前でこういうのは、なんとも照れるな。
「すげええ! なんだ今の魔法! 影捕縛か? いや、違うよな?」
「まさか……オリジナル魔法? そんなもの、ここ数年見つかってないはず……」
「それより無詠唱じゃなかったか!?」
「バッカやろう、無宣言発動だよ! 詠唱どころか、発動時の宣言もなかったぞ!」
「そんな! 大賢者様ですら、無宣言発動なんていくつかの魔法が限界だって……」
野次馬をしていたクラスメイト達が、オレに群がってくる。
ディータには実力差を見せておいた方がいいとは思ったが、ここまで目立つのも面倒だ。まあ、発言力を上げておくのは、クラスでなにかあった際、シストラを護りやすくなるから好都合ではある。
クラスメイトの質問攻めをかわしつつ、闘技訓練場を後にしようとすると、急にあたりが静かになった。
人垣がさっと割れると、その先には、鋭い殺気を纏った美少女がいた。肩口でそろえた銀髪に、制服の上から身につけた銀の軽装鎧。腰には女性用にしては長めのロングロードを下げている。
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