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カンザックの光

「ここが村長さんの家ですよ」


 敬太につれてこられたのは、村の中央にほど近い民家であった。

 村長の家というからさぞかし立派なものだと思っていたのだが、造り自体は他の家と変わらない。

 ただ、和風好みなのか外装のいくつかが和風を思わせるデザインになっている。

 剥き出しの(はり)の部分には金色に塗られた東洋の龍が掘り込まれているし、屋根に至っては鬼瓦までついていた。

 倉庫や店舗に使われている納屋には、大きな看板で『剛田(ごうだ)工務店』という、実に男気溢れる字体がでかでかと大書されている。中を覗くと、かぐわしい木の香りが漂って来た。


 そんな二人をよそに、敬太は玄関をノックしていた。


「村長さん、いらっしゃいますか? 敬太です。遅くなりました」


 すると、トトと軽やかな足音が聞こえてきて、扉が開いた。そこには切れ長な瞳を持つ美しい20代半ばと思しき女性が立っている。

 長く艶やかな髪をうなじの辺りでまとめ、穏やかで柔和な表情をしていた。耳も尖っているが、真琴ほど長くは無いので、おそらくハーフエルフだろう。

 ただ、清楚な雰囲気とは裏腹にプロポーションが目を見はるほどよかった。まるでグラビアアイドルだ。それも巨乳系の。

 それでいながら腰は細いし、腰回りも豊かだ。まさに理想のプロポーションといえた。体に密着したアオザイ風の衣装を着ているから、余計に目立つ。


「あら、ケータ君。遅かったわね? (つよし)さんなら首を長くして待ってるわよ?」


 女性は柔和というかおっとりとした口調だった。


「さ、上がって上がって。そこの新人さんたちも遠慮しないで頂戴」

「お世話になります」


 そういって(みつる)はドアをくぐろうとしたが、真琴(まこと)はまだ玄関の入り口に突っ立っている。そして自分の胸を押さえ、女性の胸を交互に見比べてため息までついていた。


「……なにやってんの? お前」

「あ、えと。大したことじゃないよ? うん」


 とはいえ二人の付き合いはそれなりに長い。真琴が何を気にして気にしているのか手に取るように分かる。

 真琴はスレンダーだからウエストは細いし、小ぶりだがヒップのラインも見事な逆ハート型をしている。ただ、いかんせん胸が無かった。

 無論極端な貧乳というわけでもない。少なくともBカップ。真琴は細身だからアンダーバストもまた細いので、もしかしたらCカップはいけるかもしれない。いわゆる美乳というやつだ。

 ただ真琴の身長は165cmもあって、光とはわずか2cmほどしか差がない。だが身長のわりに胸が無いので気に病んでいるのだ。

 光からすれば理想の大きさだと思うのだが、本人はコンプレックスを感じているようだった。

 ただでさえ、ご立派な流線形を描く胸を前にしては無理からぬことと言えた。


「ほら、いくぞ」


 いつまでもくよくよしている真琴の手を引いて、光は二人仲良くドアをくぐるのだった。



「強さーん。ケータ君達来たわよ」

「おう。(へぇ)んな」


 応接室だと通された部屋は意外に狭かった。優に12畳はありそうなのだが、中央に巨大な一枚板のテーブルが鎮座しているし。壁のあちこちに盾だの槍だの剣だの、誰が作ったのか牡鹿の首のはく製までかざられていた、

 おまけに正面には『仁義』と達筆で描かれた額縁まである。


 ただ、それらもテーブルの奥に陣取っている男の素材感には霞んで見える。

 堂々たる偉丈夫だった。

 まず目を引いたのが怒張した筋肉だった、とにかく太い。腕などは光の太ももくらいあるし、肩回りなど首が埋もれそうなほど盛り上がっている。厚い胸板などそこらの岩などより頑丈そうだ。

 そして顔。こちらに転移してくると大体は元の姿を維持しているものなのだが、男は顔つきまで(いわお)のようだった。

 茶色のどんぐり(まなこ)。その上に付いた眉はギザギザと太く、鷲鼻の横に付いた団子の様な鼻腔、頬骨はガッツリ張り、角ばった顎は割れていた。

 それだけなら良い、見ようによっては濃いめの男前、と言えないでもない。

 だが、厚ぼったい唇の端から上下に短く見える犬歯。緑がかった浅黒い肌、耳は豚のように幅広で先端が尖っている。

 そしてとどめとばかり自己主張が激しいのが、ヘヤースタイル。見事なパンチパーマであった。

 これで入れ墨でも入れようものなら、武闘派のヤの字の人物だ。

『ヴィクトーニア・サガ』でもめずらしい、ハーフオークだった。


「ん? どしたい。ンなところにボーっと突っ立って。いいから入ぇんな」


 見ると敬太はちゃっかり右橋のテーブルに座っているし、ハーフエルフの女性もハーフオークの男性に寄り添うように、左後ろに控えている。


「ま、座れや」


 言われるがまま、二人は男の正面にある椅子にこしかけた。


「それにしてもよく来た。っていうのもアレだな。お前らも災難だったなぁ」

「ええ、まぁ」


 緊張していると見たのか、ハーフオークの男性は強面にも関わらず穏やかな口調で話しかけてきた。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺ぁ『剛田(ごうだ) (つよし)』。柄じゃねぇが、この村のまとめ役をやっている。んで後ろに居るのが」

「剛田 英麻(えま)。旧姓は『岡本』よ。よろしくね、可愛いお二人さん」

「んで、敬太は……もう自己紹介済んだのか?」

「あ、はい。改めまして『小野田(おのだ) 敬太』です。このカンザック自衛団団長を務めています」

「んで、そっちは?」


 思いのほか良い人物に見えたので、ほとんど緊張することなく返事をする。


「俺は『日高(ひだか) (みつる)』。(ひかり)と書いてミツルって読みます。よろしくお願いします」

「あたしは『日向(ひゅうが) 真琴(まこと)』です。よろしくお願いします」


 礼儀正しい態度に好感を持ったようだ。剛田夫妻はうんうんと満足そうに頷いている。


「ちなみにクラスとジョブは?」

「俺は(サムライ)でレベルは92。ジョブは『刀剣鍛冶師』です」

「あたしはエルフの聖騎士(パラディン)でレベルは90。ジョブは『縫製職人』です」


 ほぉーと感嘆したように村長は目を開く。


「こいつは驚いた。レベル90超えなんて初めてじゃねぇか。おまけに二人とも上級クラスときたか」

「頼もしいわね」


 今度は二人から尋ねてみることにした。


「敬太は知ってますけど、お二人のクラスはなんっすか?」


 うん? と夫婦は顔を見合わせると朗らかに笑って答えてくれた。


「俺ぁ見ての通り、ハーフオークの『蛮族(バーバリアン)』だ。レベルは79だな。ジョブはリアルでもこっちでも大工(でぇく)よ」


蛮族(バーバリアン)』は基本クラスの内戦士の派生型だ。着用できる防具に制限があるが、LP(ライフポイント)は全クラスでも最も高く、生存性も高い。腕力に優れたハーフオークやドワーフに多く、特にハーフオークの蛮族は鉄板とされている。


「ちなみに私はハーフエルフで、クラスは『格闘家(グラップラー)』レベルは77よ。ジョブは……ないしょ」


 てへっと微笑む英麻は妙に可愛らしかったが、なぜジョブを秘密にしているんだろう?

 二人が首を捻っているとこんな答えが返ってきた。


「だって、その方がミステリアスな大人の女性って気がしない?」

「何言ってやがる。お前ぇのジョブはネたらぶっ!?」


 突如轟音が鳴り響いて、村長は英麻に殴り飛ばされていた。かわいそうに分厚いテーブルに顔面が埋没しかねない勢いである。


「あ、あの。英麻さん? 流石にやりすぎじゃないっすか?」


 未だ痙攣している村長を見て、流石に心配になって言ってはみるが、英麻はしれっとしている。


「あーいいのいいの。この程度で効くような、殊勝な身体してないからこの人。あと、私の事は『奥さん』でいいわよ。みんなそう呼んでるし」

「は、はぁ……」


 熊でも殺せそうな一撃喰らって、平気な人間が居るのだろうか?


「ってぇなっ! 恵麻!! これ以上バカになったらどうすんだ!?」


 居たよ、おい。


「あなたがバカなのは昔からでしょ? なにを今さら」


 英麻は英麻で、おっとりとした口調でひどい事を言っている。

 最初にこの夫婦を見た時は「美女と野獣」という定番の言葉が浮かんだが、これでは「神をも恐れるかかあ天下」だ。


「あー痛ぇ。何言うのか忘れっちまったじゃねぇか。ええと、それじゃ二人がこっちの世界に来た時の事話してもらうか。まぁ、他の奴らと大体同じだと思うが」

「あ、それが違うんですよ。なぜか光さん、転移した時の(あいだ)の事覚えているらしくて」

「なんだと? おい、詳しくきかせろ」

「光さん。繰り返しになりますけど、いいですか?」

「俺は構わねぇ。何しろ前例が無いみてぇだしな」


 そして二人は代わるがわる説明した。


 虚無と曼陀羅で満たされた空間。

 それぞれ融合しあったお互いの半身。

 ゲームのアバターが吸収されたこと。

 そして三つ目多碗の巨神から改造されたこと、などを。


 村長はしばらく難しい顔をしていたが、やがて納得したように頷いた。


「なるほどな。んで? 光にはその『第三の眼』ってやつが確かにあるんだな?」

「はい。天草先生にも診ていただきました。確かに眼球のようなものが、前頭葉に埋め込まれているそうです。大きさこそ小さいですが、真琴さんも同様です」

「ふむ……なぁ敬太。俺ぁ(ガク)がねぇから、分からねぇところがあるんだが、聞いていいか?」

「僕の知識の範囲内でよければ」

「まずは、あれだ。えーと、シャクティ、だったか。あれどういう意味だ?」


 うーんと敬太困ったような、恥ずかしいような顔をしていった。


「シャクティっていうのは、日本語で性の力、『性力』と訳されています。簡単に言えば、男女の愛の力、っていう意味合いです」

「んじゃ、リンガとかヨニってのは?」

「あー……リンガは男性器。ヨニは女性器を示します。リンガ・ヨニ信仰ってあるんですけど、これは『生命力』を表すとも言われてるんです。ほ、ほらっ。男の人と女の人がえ、エッチすると赤ちゃんが出来るじゃないですか。多分それですそれ!」

「つまりリンガってのが男のナニでヨニが女のアレか。んで、スケベェすると力が生まれる、っと」


 再び轟音が鳴り響いた。


「強さん。いたいけな中学生になに口走ってるの」

大事(でぇじ)な話だろ!? 大体俺の頭は太鼓じゃねぇんだっ。少しは手加減しろい!!」


 全く、とぼやきながら、村長はぶん殴られた後頭部をしきりに撫でていた。


「あー、なんか次聞く質問ど忘れしちまった。なんだっけか。あ、アルダなんとか」

「アルダナーリーシュヴァラ、の事ですか?」

「おう、それそれ。そのアルダなんとか」

「これ、シヴァの一つの形で、右半分がシヴァ。左半分が奥さんのパールヴァティーという姿なんです。雌雄同体とか両性具裕とかとも言われてますけど、シャクティ信仰では信仰の対象ともなっています」


 ふむ、と村長は顎に手を当てて考えこんでいる。


「なんつーか、こうやって聞いてみると、意外に男と女の関係が多いな」

「僕もそう思います。そして一つの仮説が浮かんできました」

「というと?」


 敬太は親指の爪を噛みながら、考え込むように答えた。


「僕らはみんな男女のペアとしてこの世界に転移してきたわけですけど、これはシャクティを生み出す為じゃないかと思います。アルダナーリーシュヴァラもシャクティの象徴とされていますが、これは単に象徴としてだけじゃなく、お互いの魂を共有している為じゃないかと」

「魂を共有だと?」

「敬太君、それどういうこと?」


 流石に聞き過ごせなかった。初耳だったからだ。


「あ、実は、パートナーの方が亡くなると、もう一人も命を落とすんです。今までの話からすると、原因はそこにあるんじゃないかと」

「じゃあ、何か!? 俺が死んじまうと真琴まで死ぬってことなのか!!」

「そ、それは村に来てから話そうと……。それに、蘇生の事だって」

「そういう大事な事最初に言いやがれ!!」

「よさねぇかっ!!」


 どんっ! と机を叩く音に光はようやく我に返った。


「気持ちは分からねぇでもねぇが、少し頭を冷やしやがれ。第一敬太も言ったじゃねぇか。蘇生する方法はあるって」


 光は上げた腰を再び席に戻した。すると手の甲にひんやりとした、柔らかいものが乗せられる。

 それは真琴の手のひらだった。真琴の顔には「大丈夫」の文字が浮かんでいる。


「あー、落ち着いた所で話を進めるぞ。まずこの世界の死には三つの段階がある。一つは普通の死。まぁLPが0になった状態だわな。実はこの村には蘇生用のマジックアイテムがあるんだ」

「蘇生用のアイテム?」

「おう。『聖棺(アークコフィン)』っていうんだがな、それを使うと蘇生率が抜群に上がるってぇ代物よ。通常の死なら、天草先生の力もあって、7割から8割は蘇生できる」


 それが本当なら凄まじいアイテムだ。だがそれだけでは済むまい。


「だが、遺体の損傷率とか、個体差もあるらしいんだな。失敗する例だってもちろんある。これを俺達は第二の死『灰化(アッシュ)』と呼んでいる。この状態で復活できるのは3割程度ってところだ。そして更にそれが失敗した時、真の死『消失(ロスト)』ってなるんでぇ。こうなったら蘇生は絶対不可能だ」

「……実際、お話しした古代竜(エンシェントドラゴン)に襲われた時、パートナーの方も含めて4人もの方がロストしました。他9名がアッシュとなって蘇生待ちです」


 確かに数だけを見れば大きな被害ではない。だが実際にこの異世界で命を落としたものが居るというのは紛れもない事実だ。そしてそれぞれが二人分の命を預かっている。

 状況の過酷さが嫌というほど光と真琴の胸に押しかかってきた。


「ところで敬太。最後に聞いておきてぇんだが、ソーマってなんなんでぇ?」

「ソーマですか。『神の酒』とも言われています。アムリタというのもそうですね。特にアムリタは飲んだものに不死不滅の力を与えると言います」

「ほー」

「ただ、神話にはこうありました。アムリタを作り出すのに敵対する三種類の神族がいました。ブラフマンやシヴァを始めとしたディーヴァ神族。そして魔神と呼ばれたアスラ神族。魔族であるラクサシャ。これらの種族が数千年かけて造り出したのがアムリタです。ですが、その力を他の神族に渡しては危険だと判断したディーヴァ神族は、これを独占してしまいました」

「なんでぇ、神様って割にゃあ、せせこましいじゃねえか」

「まぁ、それだけ危険だってことです。もちろん視点を変えれば横取りしたも同然なんですけどね」


 視点を変えるもなにも、完全に横取りである。


「でもそれで僕思ったんです。光さんってソーマの適合者だったんですよね? そしてタンスラ──神との一体化を果たしている。もしかしたら、光さんはシヴァの化身。もしかしたらシヴァそのものかもしれないんです!」

「俺が? まさか。俺ただの高校生だぞ?」

「いえ、僕見ました。竜頭巨人(ドロウル)に襲い掛かれた時、光さんの身体から赤い魔力が、そして真琴さんの身体から青い魔力が放たれていたのを。僕魔法も使えますから、ある程度魔力の力を感じる事が出来るんです。尋常な魔力じゃありませんでした。聖盾(プロテクション)を貼るのを一瞬ためらうくらいに」


 そして──と敬太は興奮したように話を続ける。


「光さんの額に埋まっている第三の眼『アジナー』についてこんな神話があるんです。シヴァが瞑想していた時、奥さんのパールヴァティーがいたずらして、両目をふさいだんですよ。すると世界が暗闇に染まりました。その時、シヴァの額から三番目の眼が生まれて世界を明るくした、って神話です」


 話しは分かったが、それがどう自分とシヴァ神と結びつくのか、まったく分からない。


「それにみなさんも聞いたでしょう? 転移する直前にブラフマン・システムという声が」

「んー、俺ぁ昔の事だからよく覚えてねぇな。英麻はどうだ?」

「確か……『汝、かの地にて救世の光にならん』だったと思うけど」

「そして(みつる)さんの字はどう書きます?」

(ひかり)……あっ」

「ここまで符合しているんです。間違いないですよ!」


 そして敬太は英雄を見るかのような瞳で見つめてくる。


「光さん。僕はあなたこそこの世界を、そして僕達を照らしてくれる光になってくれるのかもしれません。きっと、そうです!」


 あいにくだが自分がそんな大それた者だとはとても思えない。なにせ転移してわずか数時間しか経っていないのだ。これで手放しで喜ぶとしたら、よほどのバカだ。


 何より施療院で剣狼(ブレードウルフ)に襲われ時に感じた、頭が真っ赤になるような破壊衝動が忘れられない。


 ──神の化身? 冗談じゃない 悪鬼の間違いではないのか。


「光さん?」


 険しい表情で黙りこくっている光を見て、また怒らせてしまったのかと、敬太が恐る恐る尋ねてくる


「……やめろ」

「み、つるさ──」

「やめろ。やめてくれ──俺は、俺はっ!!」

「──そこまでだ」


 村長が静かな口調で(たしな)めた。


「敬太。この話を知っているのは、先生たちとここにいる連中だけなんだな?」

「は、はい」

「村長命令だ。この話、この中だけでしまっておく。いいな? 他言無用だ」

「で、でも」

「光の奴をみてみろ。訳も分からず救世主扱いされたら、俺でもこうなる」


 それに──と、村長は更に言葉を紡ぐ。


「肝心の光自身、心の整理がついちゃいねぇ。そんな状態で村の連中に暴露したらどうなると思う? やれ神様だ仏様だと拝められ、それだけ期待も大きくなる。もしそれが期待に添えられなかったとしたら? ましてやこいつに宿っているのは怒りと破壊の神なんて物騒な代物だ。俺達が望む結果にはならねぇかもしれねぇぞ」

「そうね。私も強さんの意見に賛成するわ。光君だって、望んでそうなったんじゃないのだもの。考えたり受け入れる時間だって欲しいはずよ? 分かってあげて」


 英麻もまた夫の意見に賛同した。


「なぁ、敬太。先の見えねぇこの世界に、お前ぇは光明を見た。嬉しくなる気持ちは分からぁな。俺だってそうだ。けどよ、それを一人に押し付けちゃならねぇ。どんな人間にも支えってぇモンが居るんだ。それを忘れちゃぁ駄目だぞ」

「……はい」


 不承不承といった感じだが、敬太もまた納得はしてくれたようだ。


「光さん……あの、はしゃいでしまってごめんなさい。僕、光さんの事、何も考えてあげられなくて」


 だが、光は何も答えない。

 いや、答える事が出来なかった。


 今はただ、柔らかくひんやりとした真琴の手の感触に浸っていたかった──


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