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*8* 異種族ダブルデート②



「ふふっ……見てよあの尻尾。チャラってば見たこともないくらいご機嫌ね」


 メルバがそう言うのも無理はない。彼女が指差す前方には、背筋を真っ直ぐに伸ばして尻尾をくねくねとさせる猫獣人(ケットシー)と、真っ白な巻き尾をフサフサと左右に揺らす犬獣人(コボルト)が並んで歩いている。


 気の毒なことではあるものの、明らかに想いの強さに差があるように見えるのは、誰の目から見ても明らかだった。とはいえ、当のチャラはその現状に何ら不満はなさそうだ。


「そう言ってやるな。俺も前々から彼女の話は聞かされていたんだが、実際に会うのは今日が初めてだ。どうにも主がかなり多忙な人らしい」


「成程。それじゃあ私と同じで、知り合った期間と実際に遊んでいる時間に差があるのね。でもそうだとしたら、チャラってばどうして一緒に遊ぼうだなんて誘ってきたのかしら。せっかくのチャンスなんだから、二人っきりで遊べば良いのに」


 不思議そうに小首を傾げるメルバの至極もっともな発言に、ビアは苦笑して「一人だと緊張しすぎるからだそうだ」と応じる。そしてその言葉を裏付けるようにチラチラと後ろを気にするチャラ。緊張からか、ピンク色の鼻がいつもよりヒクヒクと忙しない。


 今日のデート予定は午前中が潰れてしまったので、回ろうと思っていたルートの半分も回れないが、あの分だと朝から遊んでいれば途中で身が保たなくなっていた可能性もある。今は待ち合わせていた菩提樹広場から、ディアマントに向かっている最中だ。


 ビアとメルバがちゃんとついて行っていると手を振れば、チャラはホッとしたように再び隣の小梅の方を向いて会話を試みている。


「はあぁぁぁ……何なのあの可愛さ……後ろから二人纏めて抱きしめたい……」


「一応注意しておくが、口にするだけにしておけよ? 本当にその行為に及んだら庇い立てできないからな」


 いちいち保護者めいた発言をするビアの言葉に、メルバが眉をしかめてから五分後。四人はディアマントの人気スポットである、黄金野原と呼ばれるタンポポの群生地に腰を落ち着け、チャラの提案した質問ゲームに興じていた。


 ルールは簡単。四人でジャンケンをして、一抜けをしたものから順番に質問したいことを口にするだけだ。途中でさっきの【お友達申請】に対する各主人からのメッセージが届き、承諾されたことで通常は秘匿されているプロフィール情報の一部解除が許可された。

 

 そこからは大抵がお互いの主人に対する質問と共感で話は盛り上がり、ザッと分かっただけでも――、


 チャラの主人は某有名居酒屋のスーパーバイト(店長になることを拒否)。


 メルバの主人は某エスカレーター式の進学女子校生(それなりにお金持ち)。


 ビアの主人は町の小さな自動車修理工勤務(大半の修理は軽トラ)。


 小梅の主人は個人経営の病院(専門は小児科)。


 という普通に生活する上では、あまり関わり合うことのない業種や肩書きのメンバーであったことが判明した。年齢はバラバラだったものの性別がちょうど二対二の男女比であり、特にメルバと小梅の主従がそろって女性であることから、二人の距離は一気に近付いた。


 それこそ、この集まりの趣旨であるチャラと小梅のデートが霞むほどで、途中からチャラの負の圧たるや凄まじかった。が、尻尾を左右にブンブン振り回す姿を見た小梅に「お揃いですの~」と言われ、あっという間にご機嫌を直す。これではチャラではなくチョロである。


 女性陣のスリーサイズや体重などの部分は秘匿のままだが、男女共に秘匿解除になっている部分に【お友達人数】なるものがあった。書いて字の如く、現在菩提樹で親しくしている配達人達の数である。


 一番多いチャラは余裕の二百人超。ビアで五十人前後。小梅で十四人。メルバに至っては――……なんと、今先にあげた三名と学園の連絡用サーバーのNPCを入れてたったの四人だけだった。この数字は菩提樹に登録している一般的な主人の統計から見ても、かなり少ない。むしろ少なすぎる。


 ビアやチャラと知り合ったのは三ヶ月前で、小梅とは今日がお初。こうなってくると、最早メルバの主人は彼女と話をするためだけに、この菩提樹に登録しているのだろう。


 メルバもそれを気にしているのか「私のマスターは恥ずかしがり屋なの」と。それだけ言って菫色の瞳を伏せた。


 そしてそのさらに隣に菩提樹内で、現在交際している配達人にだけ記載されるハートマークが誰の頁にもないことに、チャラが小さくガッツポーズを取ったことをビアとメルバは見逃さなかった。


 今日のデートの趣旨はどうやら直接訊ねる勇気のなかったチャラが、全てこのために企てたことだったのだ。しかし――。


「あらら……少しだけ意外ですの~。てっきりビアとメルバはもうお付き合いされてると思っていたのに、違いますのね~?」


 唐突にホワホワとした口調で小梅が会話に爆弾をぶち込んできた。とはいえ爆弾と感じたのはチャラとメルバだけで、渦中の人に選出されたビアは「まさか、こいつは手のかかる妹のようなものだ」とおかしそうに笑う。


 メルバは時折自分のマスターと、彼女の両親に隠れてネットで読む【少女マンガ】に登場する男性達に、何かしら既視感にも似た苛立ちを感じることがあるのだが――本日この場でその理由が判明した。


 “突発的共感力欠乏無神経症候群”。メルバの主人がマンガの男性キャラクター……時に女性キャラクターをも指して、そう言っていたのを思い出す。


 だが判明はしたものの、肝心の苛立ちの原因は未だメルバにも、その主人である彼女にも分からない。


 もっと広域で言及するのであればこの菩提樹内にいる全ての配達人達と、その主人達を集めたところで芯からその感情を抱き理解する存在など、たぶんほんの一握りなのだろう。

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