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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナメクジ

作者: 名無 無垢

息抜きで書いた怪奇ホラーです。


私は死んだ。これを前提としたお話だ。


私と言うてはいるが、敬語意識なだけであり、性別は男なのだ。


来世へとやって来た。

私は元日本人であるのだが、今回はどうやらイギリス人として後世にやって来た。


というか、前世の記憶が残っていることに驚きだ。


私はこの世界に来てから捨てられ、酒とギャンブルを好む人生の汚点そのもののような父親に拾われ、数年生きた訳で。


それから1年が経ち、たまたま拾った落し物が金持ちの貴族の所有物と分かり、私はそちらの家へと引き取られた。

というか、親父は私を売り、向こうは買い取ったというものだ。


私はイギリスの貴族となり、養子となったのだ。


この屋敷には3人の姉妹がいた。

5歳の子、7歳の子、10歳の子、名前は覚えようとしたが、長いから無理だった。

なのでこれから追い追いと覚えようと思う。


私は彼女達に案内され、自分の部屋へと着いた。荷物を置き、屋敷の主人が「7時に夕食にするから1階のフロアにいるメイドに案内を頼んである。それまではゆっくりしたまえ」と言われ、私はそのまま近くの椅子に座り、腕を枕にダラけた。


時刻は4時半を過ぎていた。

私はやることもなく、ただ昔の記憶を思い返していた。


当時おばあちゃんと二人暮らしだった私は色々なお話を聞いた。


怪奇的な話から奇妙な噂話まで様々ーー


その中でも一番理解し難い話があったのだが、そのことが上手く思い出せなかった。


確かそのお話のタイトルはーー


「ねぇねぇ!」


5歳の子が私の服の端を引っ張っていた。

どうやら考えに老け込んでいてそのことに気づけなかったようだ。


「どうしたの?」

「おままごと!おままごとしたい!」


おままごと、男の僕は当然やったことのない遊びなのだが目の前の幼い子がやりたがっているなら付き合おうと思った。


一応、これから仲良くしていく訳だから。


「いいよ。私は何をすればいいのかな?」

「うんとね、お父さん役と犬のマスクウェル役」

「わかった。じゃあやろうか」

「うん!」


小さな取っ手のあるオモチャ箱からや日系のお茶碗やテーブルなどを取り出した。

ハンカチを広げ、そこを疑似的に人が住んでいることに想定して遊ぶようだ。

その日常を演じる訳か。


「そろそろあの人が帰ってくるわぁ」


時計を6時に動かしてながら私に視線を向けた。

私は声のトーンを落としながら疑似的に仕事を終えて帰って来たお父さんを演じた。


「ただいまぁ、いやぁ疲れたよぉ」

「おかえり貴方、ご飯にする?紅茶にする?それともケーキ?」


選択肢が微妙に違うな気はした。


「ご飯にしようかな。今日のご飯は何かな?」

「え、えーと……あっ」


キョロキョロと何か探していた。

オモチャ箱を再びガチャガチャと漁ると、見つけた安堵の表情と一緒にギラギラとしたものを取り出した。


「あった!」


包丁、それにしてもリアリティのある刃物だ。

とてもオモチャの道具とは思えない。


「お野菜もあるし、うんうん」

「ね、ねぇそれ……オモチャ、だよね?」


僕は恐る恐るに聞いた。聞くしかなかった。


「ううん、キッチンから借りたの。後でちゃんと返すわ」

「ダメだよ、君にはまだそれは早いよ。私も一緒に行ってあげるからそれを返そう」

「いやだぁ!」


駄々をこね始めた。

どうやら本物の包丁とみて間違いないようだった。

僕は包丁の持ち手を掴み、その子の手を離そうと指の隙間から力を入れて奪おうとした。

5歳とはいえ力はあるためか、中々離してくれない。


「危ないよ!お兄さんの言うことを聞いてくれ!」

「やだのぉ!料理したいんだもん!」


僕は抱え込むようにその子の指を集中をした。

だが5歳の子は全身振るうように動き、僕の胸の溝に肘が入ったその時のこと、僕は床に倒れた。

そして咄嗟に瞑った目を開けると、思いがけない光景を目にした。


「あっ……あっ……」


5歳の子は立ったまま胸に刺さる包丁から血を流していた。

私は唖然とした。震えた。怖くなった。どうしていいか分からなくなった。


「お、おち……落ち着こう。はぁはぁ……」


膝が笑って立つことが出来ない。

恐怖心に対する心構えというやつが出来なかった。


ポタポタと垂れる血を見る度に焦りが出る。

この状況、僕はこの家から追い出されるじゃすまない。


またあの親父のいる家に戻るのか。そんなの御免だった。

だから僕は泣きながら自分の頬を手の平で叩き、足を抓りながら立った。


「今……助ける」


5歳の子の元へとゆっくりと近寄ると、5歳の子は呆然とした顔で僕をみた。


「どうしたの?」


喋った。いや、というか血はどうしたのだろうか。


ない。刺さっていたはずの包丁はその子の手にまだあった。


可笑しい、確かに僕は血が垂れるのを見た。

しかし床には汚れ一つ目立つものが何もなかった。


「あぁ、やっぱりミュウだ!」


そこへ7歳の子が指を指してこちらへと向かって来た。


「それ調理場のでしょー!」

「え、えぇん、違うもん、ミュウのだもん」

「ご飯抜きにするよ?」

「うぅ〜……うぅ!」


この5歳の子、ミュウというか。


何だか妙に脳がスッキリしているせいか、名前を覚えることが出来た。


忘れる気がしないというか、不思議とそんな気分になった。


「お姉ちゃんに言うこと聞いて、ね?」

「う、うん」

「今度、安全なのをパパに頼んであげるわ!そしたらみんなに料理できるもの!あなたもね?」

「私も、ですか?ははっ、楽しみにしてます」


5歳の子、ミュウから包丁を取り上げることが出来た。

そして7歳の子とみんなで包丁を返しに謝った。

そのことに主人は怒ることなく許してくれた。寛容的なお方のようで安心した。


しかし何故、包丁は刺さってなかったのだろうか。

見間違い、そうだったのだろうか。


少しの間にしても、あの脳裏に焼きつくような光景のことを忘れるのは無理があると思うのだが。


私はとりあえずその事は「一旦」忘れることにした。

美味しい夕飯が不味くなる。そう思ったから。

お読みいただきありがとうございます^^

もし続きなど気になるなどの感想や意見などがあれば書こうと思ってます。


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