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想い出に変わるまで  作者: 篠原 皐月


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(15)変化と秘密

 エレベーターを降りた春日はまっすぐエントランスホールを進み、正面入り口から外に出た。そこで立ち止まり、腕時計と周囲を交互に確認していると、二分程でビジネスバッグを提げたスーツ姿の玲が、交差点の方から近付いて来た。


「どうした。仕事中に連絡をしてきたのは初めてだよな?」

 急に「直に話したい事があるから、短時間で良いから時間を取って欲しい」などと連絡してきた為、何か至急の用件か厄介事が勃発したのかと春日は内心で心配しながら声をかけたが、玲はバッグの持ち手を肘に掛け、苦笑いで両手を合わせながら謝ってくる。


「本当にごめん、急に押しかけて。実はこっちも、ある意味仕事中なの。三十分後に始まる主任研修を、あそこのビルで受ける予定だから」

 告白してから初めて顔を合わせる事になったが、予想外に気まずい空気は皆無であり、更に玲の手には今まで通り指輪の類いが全く無いのを見て取った春日は、安堵と落胆が入り交じった微妙な心境に陥った。しかしいつも通りの表情で、玲が指し示した1ブロック先の高層ビルを眺めながら相槌を打ってみせる。


「ああ、なるほど……。だからここまで来たのか。大変だな。だが次の予定があるなら、寄り道をして大丈夫なのか?」

「時間は大丈夫よ。さっさと用事を済ませるから」

「用事って何だ?」

「ええと……、これよ」

 すると玲は苦笑を深めながら、首筋から細いチェーンを引っ張り出し、更にそれに見覚えのある指輪が通されているのを認めた春日は、僅かに動揺した。


「……それがどうした」

 辛うじて平静を装いながら問い返した春日に、玲が肩を竦めながら言い返す。


「本当に、色々段取りをすっ飛ばしていきなりこういう物を押し付けてくるから、何かと思ったわよ」

「悪かった。反省してる」

「別に、謝って欲しいわけじゃないし……。ただ、いつもの春日君らしくないと思っただけ。それで二つだけ、質問があるんだけど」

「何だ?」

「いつから私の事が好きだったのかと、どうして指輪のサイズがぴったりなのかの二点だけど」

「悪いが、どちらも黙秘権を行使させて貰う。これからの事には、全く関係がないしな」

 その真顔での即答に、玲は笑ってしまった。


「それじゃあ春日君は、これからどうしたいの? 改めて、ちゃんと聞かせて欲しいんだけど」

「それを渡した事だし、この際、結婚を前提とした付き合いを始めたいと思っているが。どうだ?」

 真顔で淡々と告げられた内容に、玲は少々照れ臭そうに首を傾げながら、指輪を目の前で軽く持ち上げる。


「そうね……、考えてはみたけど、取り敢えず保留かな? ただこの指輪はね……。あのままユニパックに入れて持ち歩くのはあんまりだし、これで持ち歩かせて貰おうと思って。その報告に寄ったのよ。それじゃあね」

「ああ、またな」

 そして元通り指輪をチェーンごとブラウスの内側にしまった玲は、軽く手を振ってから本来の目的地に向かって歩き出し、春日も無理に引き留めたりはせず、笑顔で彼女を見送った。そして踵を返した春日はビルの中に入りながら、誰に言うともなく呟く。


「そうだな……、初対面の時からで、真吾が死ぬ前に教えてくれた」

 今までもこれからも、誰にも教えるつもりが無いその事を口にしながら、春日は妙にスッキリした表情で職場へと戻って行った。



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