榊 友哉 二
「ポカリうっま」
賢一が爽快に喉を鳴らしながらポカリを飲み干す。相変わらずスポーツ飲料水をうまそうに飲む男だ。俺達がやっているコピーが激しいロックバンドのものという事も手伝って、賢一の運動量は俺達の倍以上になっているはずだ。どちらかと言えばスリムな体系の賢一だが、ドラムを叩き終わった後の汗の量は尋常じゃない。
「腹減ったー。から揚げ串食おうぜー」
「食おう食おう!」
言いながら隆と祐樹は駅前で売っている串に刺さったから揚げを買いに行く。
ふと夕日に染まる空を見上げる。
後何度こんな時間を過ごせるだろう。最近どうもそんなセンチめいた事を考えてしまう事が多くなってきた。
賢一とは大学に進んでからも一緒に音楽をするだろう。だが、隆と祐樹は音楽に対してバンドに対してそこまでの想いはない。二人とも上手いが、あくまで高校の想い出程度だろう。だから二人にこれからも一緒に音楽をやろうだなんて無理強いするつもりは毛頭ない。俺にとっても今やっているこのバンドは、高校の良き想い出として残しておくぐらいのものだ。
割り切っているつもりなのに、どうしてこんな事を考えてしまうんだろう。
「おーい、友哉も食う? から串」
「お? あー食おっかなー。隆おごってくれんの?」
「なんでだよ。自分で買え」
「じゃあ、いらないかなー」
「なんだよそれ!」
別にそこまで面白くもない会話でも、俺達四人は馬鹿みたいに笑う。ひょっとしたら皆も、俺とそう変わらない気持ちなんだろうか。
「あれ?」
賢一がから揚げ串を頬張りながら駅のホームの方を見ている。賢一の視線の先を見ると、ホームのベンチに同じクラスの木崎の座る姿があった。
「こんな時間に何やってんだ、あいつ」
賢一が俺の心の中の疑問をそのまま口に出す。部活もしていない木崎がこんな時間に何をしているのか。
「誰かにまた呼ばれたんじゃない?」
木崎は人気者だ。いろんなヤツから声がかかる。性格的に誰かに声をかけられない限りわざわざ外に出るようなタイプでもない。
「おーい、木崎―」
賢一が駅の改札外から木崎に呼びかける。すると木崎の顔がこちらを向く。
「ちょっと俺達木崎のとこ行ってくるから、またな」
賢一は隆と祐樹に言いながら、俺には別の目配せをする。
「あ、ああ」
二人は毎度の如くよく分からないけど、と言った表情で俺達を見送った。
木崎の姿に近づく。
当たり前の毎日。当たり前になってしまった毎日。
信じられない事態でも、時間が経てば全てを受け入れてしまっている。そして当たり前になっていく。
ただ一つ、人生においてこんな経験は二度とないだろう。