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榊 友哉(さかき ともや)一

「違うって! そこキメ合わせるとこだろ!? 何回やったら覚えんだよ!」

「ああーそうだそうだわりぃ。ダメだなぁーほんと」

「ったく頼むぜ!」


 部長でもありバンドリーダーでもある賢一けんいちからの叱責に俺は頭をぽりぽりと申し訳なさげにかいてみせるが大して反省もしていなければ、賢一も俺が本気で反省していない事も分かっている。第一叱責しながらも賢一の顔はにやけている。本番で俺が絶対に失敗しない事も知っているからだ。

 ドラムの賢一とベースの俺。小学校からの腐れ縁である俺達は、同じ高校でバンドのリズム隊としていまだに顔を突き合わせている。どんだけ仲良いんだ俺達。正直今のキメだって、他の奴らが聞いたらほとんど違和感のないものだ。だが賢一だから、俺だからこそ分かるズレ。もう俺達は夫婦以上に太い絆みたいなもので繋がれている気さえする。それを口にする度賢一からは「気持ちわりぃ」と一蹴されてしまうが、「そうだな」と肯定されてしまえばそれはそれで気持ち悪い。ギターの隆も、ボーカルの祐樹も信頼しているが、残念ながら賢一と比べると雲泥の差だ。

 まあただともかく言えるのは、俺達はリズム隊としてとても息が合っていて、賢一と一緒にバンドをやっている事は素直に楽しいって事だ。

 

 文化祭での演奏をもって俺達三年は引退を迎える。それが俺達のこの高校での、この部活での最後のライブになる。それが終わればいよいよ受験だ。目を逸らしても逃げられない現実と、とうとう向き合わなければならない。


「大学にもさ、部活とかサークルってのがあるんだってよ。そしたらそこでもバンド出来るし、何だったら別にそんなの入らなくても自分達で勝手にバンドやるのもありだろ。これで最後ってわけじゃねえよ」


 勝手にてっきり、高校を卒業したら賢一とのバンド活動も終わりだと思っていた。だが言われてみればそうだ。ここで終わりではない。俺達はまだ、バンドをやれるんだ。

ともかく、まずお互いちゃんと大学に受かる。嫌だけど、その為には勉強しないといけない。


『出来れば同じ大学に行こう』


まるで恋人との約束のようだったが、俺達はそこに関しては「気持ち悪ぃ」とは言わなかったし思いもしなかった。


「よし、もっかい合わせるぞ」


 賢一の声で俺はベースを担ぎ直す。


 ――ラストライブはバッチリ決めるから、安心しなよ。


 きっと心の中で呟いたこの言葉も、賢一は見透かしているに違いない。


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