夏の終わりに 土師 修斗
――なんだあれ。
木崎の死により皆が絶望に暮れる中、同じように俺も暗雲たる気持ちで時間を過ごしていた。だがじっとしているのも堪らず、意味もなく夜道をぼーっと歩いていた。
そこで俺は偶然見つけた。後に絶望を希望に一瞬で塗り替える、まさしく魔法を。
暗がりの中においてそれは怪しく妙な光を放っていた。よくアニメやテレビの演出で禍々しいものを表現する際に紫煙が漂うエフェクトがある。まさしくあれだった。傍目から見れば、絶対に手に取ってはいけない怪しいオーラが立ち込めているのに、当の本人には凄まじく魅力的に映る様。
俺は吸い寄せられるように光に導かれた。それは排水溝の溝から放たれていた。決して綺麗ではなく、まず普通なら手を伸ばす事などしないだろうが、その時の俺に一切そういった思考はなかった。手にしたい、手に取らなければならない。そんな感情に完全に支配されていた。
それは手鏡だった。かつてどこか西洋の王国の王妃が使用していたかのようなアンティークな装飾。溝に落ちていたとは思えぬほど一切の汚れも曇りもない、磨き上げられたかのような煌きを放つ面。
「ちょっといい?」
俺は後ろから声をかけられるまで、絶望的な気持ちも吹き飛びすっかり手鏡に見惚れていた。俺は声に驚き慌てて振り返った。
そこにいたのは、自分と同じぐらいの年齢の少年だった。全身黒づくめの男の自分でも恐ろしく感じるほどの美少年だった。手鏡から少年の顔に今度は見惚れそうになった心を慌てて振り払う。冷静に考えれば、夜中に溝から拾い上げた手鏡をまじまじと見つめている絵面はあまりにも危ない。
「あ、いや、はい、な、なんすか?」
自分でも笑ってしまうぐらいに動揺がそのまま出てしまったが、少年は真顔のまま表情を崩さない。
じーっとこちらを見つめる視線。その視線は俺ではなく、手鏡に向けられていた。
くっと、少年の口が歪んだように見えた。俺にはそれが笑ったように見えた。
「助けてやろうか?」




