夏の終わりに 井関斗真
木崎が死んだ。
夏休みが終わる間際、明日から学校が始まるという時に、その知らせが瞬く間にクラス中に広がった。
自殺だった。部屋の中でドアノブにロープを結んで。机の上に遺書が一つ。
『このクラスの悪意に、嫌気が差しました』
この文面が意味するものに、皆覚えがあった。
木崎昇は、イジメにあっていた。
直接的に手を下した者。間接的に関わった者。無関心を貫いた者。助けたかったが助けられなかった者。皆の心に木崎の影が落ちた。
等しく全員に残った感情は、一生拭う事の出来ない後悔だった。
「俺達、終わったな」
呆然とその場にへたりこんだ。周りの顔は誰しもが青ざめていた。
木崎が死んだ。誰のせい? そんな事は考えずとも分かっている。
俺達だ。俺達のせいだ。
遊び半分、無邪気さでごまかすには重すぎる罪を犯してしまったのだ。
自分達の未来を憂いたことなどなかった。漠然と大学に進み、社会に出て働き、結婚して、老いて死んでいく。それぞれの描く当たり前の人生が待っていると思っていた。壊れる事などないと思っていた。
知らなかった。分かっていなかった。
未来が当たり前にあるものじゃない事を。
そして自分達自身が木崎という一人の人間の命を、未来を奪ったのだ。
一寸先は闇という諺を今使うのは間違いだろう。
俺達はじっくりゆっくり、長い時間をかけて、木崎を絶望の闇へと落としていった。
自分もろとも、その闇の中に沈んでいっている事も知らずに。
木崎昇は優しく穏やかな男子だった。悪く言えば、気の弱い男子だった。
彼は常に人の顔色を伺いなら会話をする臆病な男子だった。
人の意見を否定出来ない、自分の意見を言う事の出来ない男子だった。
俺は、俺達は“いい奴”を見つけたと思った。
誰にでも存在価値がある。俺達は木崎の存在価値を活かしてやる事が出来る。
自分の考えを持たないなら、強い意志を持つ人間の意見に従えばいい。
何も考えなくてもいい。ただ言う通りに指導者についてくれば。それは、自分の意思や意見を持つことより簡単なものだ。
この世は平等ではない。強い者がいれば弱い者がいる。弱者が強者に使われるのは必然的な事だ。俺達は世の理に従ったに過ぎない。
それは世間一般的に言えば、イジメというものだった。




