木崎昇という生徒
「卒業だなあ」
久しぶりに同学年のサッカー部のメンツが揃っていた。
全員既に受験本番を終え、後は結果を待つだけだった。
「悔いはねえか、お前ら」
ねえよそんなの、という声が笑い声と共に帰ってくる。こいつらは夢見がちの馬鹿共ではない。サッカーへの悔いなど誰も残していない。
「斗真君さあ」
その中で、一人だけ声をあげた者がいた。それは磯山という別のクラスの男で、この中では一番見た目も性格も真面目な男からのものだった。
「ん?」
「前から気になってたんだけどさ、一つ聞いてもいいかな」
「なんだよ」
一瞬だけ磯山は躊躇するように下を向いたが、やがて何事もなかったかのように顔を上げた。
「なんとなく、聞いちゃいけない空気があったから俺達遠慮してたんだけど、いい機会かと思って」
そう言うと、俺と修斗以外のメンバーが磯山に同調するようにうんうんと頷いて見せた。その様子を確認してから、磯山は再び口を開いた。
「たまに駅で、斗真君と修斗君が声を掛ける子いるでしょ」
「ああ、木崎かな」
言いながら修斗を見ると「だな」と頷く。
「……あの、さあ」
そこで磯山はまた下を向いてしまう。今度は先程より長かった。本当に口に出していいのか、まだ迷いがあるようだった。
俺はその態度に痺れを切らした。
「何だよ。言えよ」
それでも磯山は顔をあげなかったが、「あのさ」と小さく言葉を漏らしてから、顔を上げた。
「誰なの、その木崎君って」
その顔には、普段あまり見せる事のない不安や怪訝といった表情が見えた。
「俺達、見えてないんだけど。その木崎君ってやつ」




