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宮野 雄二(みやの ゆうじ)

 こつこつと廊下を歩き、我が3-3の教室へと向かう。

 教職について8年。それなりにいろんな事を経験してきた。新米の頃は生徒や保護者に振り回されっぱなしで心も身体も疲弊する日々で、自分が掲げた未来を担う子供達への教育方針がいかに夢物語かという事を知らされ、一年もたたずに自分の野心は崩れ去った。


 ――夢など見ない。現実を見ろ。


 自分の方針を180度変え、粛々と教育現場をこなす事に決めてここまでやってきた。

 生徒達に将来の夢を説き、向き合わせる場面は教育において避けられない事だ。夢は何だと問いかければ、そんなものないと口では言いながらプリントを回収すればそこにはみな何かしらの夢を書き綴っていた。

 彼らの夢を踏みつぶすつもりは毛頭ない。ただ、無責任に応援したり適当な言葉で何の保障もない危ない橋を渡らせるのは我々の務めではない。

 現実だ。この世は夢物語ではない。夢を叶える者だっているが、ほとんどがそうではない。高校生にもなればそのあたりは分かっているだろう。その考えが間違っていない事を大人である自分がしっかりと導いてやる必要がある。

 現実を見る事は、若者にとって決して冷酷な判断でも後ろ向きなものでもない。そうやって生徒達と向き合ってきた。


 今年も自分のクラスから生徒達が巣立っていく。

 自分が主役になるつもりなど更々ない。自分はどこまでいっても脇役だ。

 生徒達こそ主役だ。皆の中に自分という存在が思い出として残って欲しいなんておこがましい事は一切思わない。ただ、これからの道標になる何かが伝えられていればそれでいい。

なんて思うのも、おこがましいだろうか。


 私のクラスは皆大学進学を選んだ。今日が受験前の最後のホームルーム。

 一年間、皆よく頑張った。

 もう自分が伝える事は何もない。送り出すのみだ。


 私は教室の扉をガラガラと引いた。


「……え」


 そのまま教壇に向かうべき足が、その場で止まった。


 ――な、んだ。これは。


 私は、ただただ目の前の光景に愕然とした。

 

 それは、教職人生において初めての状況だった。


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