またしても好々爺
帝慶薬品の未使用薬剤は期限切迫在庫の一括廃棄だとわかった。廃棄ルートを追及していくと浮かび上がったのは、いまや犬咬の不法投棄現場では常連となってしまった感のある山代商店だった。呼び出すまでもなく山代社長が顔面蒼白で出頭してきた。これまでと同様くるみ興業の新津社長が同行していた。
「もうほんとに会社が潰れてしまいます。人様に後ろ指さされるために始めた会社ではございませんので、この際もうたたもうかと思っています」山代社長は相変わらず好々爺のキャラクターを崩さなかった。
「うちは不法投棄現場になんか出してませんよ。ちゃんと川崎の処分業者に持っていってるんです」新津は今度ばかりははっきりと自分の口で不法投棄への関与を否定した。
「川崎の会社というのは?」
「トリイですよ。社長は鳥井さんといいます。うちのは全部そこに出してるんです。不法投棄はありえませんよ」
「委託の書類はありますか」
「ありますよ」新津は憮然として言った。
「会社まで伺いますから書類を拝見できますか」
「えっ会社にわざわざ来るの? 必要な書類があればFAXしますよ」
「FAXで送れる分量じゃないと思いますから」
「そうですか」検査に来ると伊刈に言われて新津はシュンとなってしまった。
「新津さん、そんなに意地にならないで前回と同様に撤去に協力させてもらうってことで勘弁にしてもらったらいかがでしょうか」山代が心配そうに新津の顔を覗き込んだ。
「この間の撤去で悪い評判が立って仕事が半分ですよ。今度また社名を出されたらうちはおしまいだ。山代さんとこだってそうでしょう」
「お客様のゴミが不法投棄現場で出てしまったんですからお詫びするよりしょうがないじゃありませんか」
「俺はもうごめんだよ。検査でも告訴でも逮捕でもなんでもやってもらうよ」
「そうですか、それじゃ仕方がありませんね」
「山代さん、そういうことだからくるみ興業の検査が終わるまで山代商店の扱いも保留です」二人のやり取りが終わるのを待って伊刈が言った。
「わかりました。どうかその穏便にお願いします。私どもはご指導のとおりに何台でも片すつもりでおりますから」山代は肩を落として帰っていった。
「班長どう思います」二人が帰るのを待って長嶋が言った。
「どおって」
「山代の爺さんですよ。もう社名が出るの三度目ですよ」
「二度あることは三度あるのとおりだったな」
「不法投棄常習業者ってことっすよね」
「人柄はほんとにいいんだけどね」
「それ見かけだけなんじゃないすか」
「だとしたら天才詐欺師だな」
「そういうやつって珍しくないっすよ。結婚詐欺師はばれても騙した女に恨まれないって言います。同じ手合いじゃないすか」
「もしかして山代に入った荷は全部他の業者に横流しってことなのかな」
「そうじゃなきゃあこうまで何度も出ませんよ」
「よっぽど受注が多いってことだよな。検査に行って見たい気もするけど撤去しますって素直に謝られると弱るね」
「それがあの爺さんのうまいとこっすよ。ダンプ二、三台片して済むんなら安いもんです。そうとう儲けてるに違いないっすね。こないだは大手のビル管理会社から受注してたし今回は製薬会社のでしょう。単価もいいでしょうし、それがみんな不法投棄だったら笑いが止まりませんよ」
「不法投棄はしてないだろう。くるみに出してるんだから」
「くるみはダミーなんじゃないすか。あいつはむしろ正直だからまた罪をかぶされそうになって切れたんすよ」
「なるほどな。じゃあ今回は狸の化けの皮をはがしてみるか。とにかく来週くるみに行って見よう。たまには都にも通報してみるか。撤去しないって開き直ったら都にプレッシャーかけてもらわないといけないだろう」
「いいっすね。都には警視庁から出向してる警部がいますよ」
「連絡取れるの」
「取れますよ」
「じゃ警視庁の警部に立ち会ってもらおう。警視庁にはだいぶ貸しを作ってんだからたまには面倒かけてやろう」
「そおっすよね」長嶋もしたり顔に頷いた。




