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タイマン勝負

 埼玉県庁の産廃担当の二名山から電話があった。「犬咬市の産対課からエコユニバーサルの行政処分をしてほしいと通報がありました。担当の宮越主幹に資料のご提出をお願いしたところ事務所の伊刈さんが資料をお持ちだとのことでしたのでお電話しました」

 「どうしてそんな回りくどいことを」

 「エコユニバーサルは犬咬市の許可を持っていないので処分ができないということでした」

 「他の業者の通報も来ていますか」

 「いいえ他の業者は犬咬で収集運搬業の取消処分をするということでした。犬咬で処分が出れば当県の許可も連座して失効することになります」

 「なるほど」

 「できれば聞取り調査にも立ち会っていただきたいんです」

 「聴聞ではないんですか」

 「まだその段階ではありません」

 「どんな書類が本課から行ってますか」

 「通報書が一枚だけです」

 「わかりました。それではこちらの調書や証拠をあらかじめお送りしますからご検討ください」

 「そうしていただけると助かります」

 撤去すれば不問にするという伊刈と吉田社長の約束は反故にせざるをえなくなった。埼玉県からの照会があれば情報提供をすると留保条件をつけておいたので裏切りではなかったものの心苦しさはあった。伊刈が埼玉県に提供した資料の中には円のマニフェスト、オブチの台貫記録、エコユニバーサルの帳簿の一部など、決定的な証拠が含まれていた。

 埼玉県庁の聞取り調査に立ち会う期日となり、伊刈と長嶋はオブザーバーとして大宮にでかけた。

 一人で出頭してきた吉田社長は埼玉県の追及をのらりくらりとかわして決定的な証言を避け続けた。むしろ堂々たるものだった。発言を控えていた伊刈がたまりかねて発言した。

 「エコユニバーサルのヤードには自社分と円分の二つの山が築かれていましたね」伊刈は見てきたように言った。「円がオブチから運び込んだ荷を根津商会が持ち出していたんですよね」

 「さあなんのことだかさっぱり」吉田はしらばっくれた。

 「円あてに振り出されたマニフェストがありましたね。社長室の金庫にしまってあったものです。お伺いした時には全部をお見せいただけませんでした。枚数は全部で二百五十枚ですね」

 「さあ俺は数えたことないんでね。あんたいつ数えたんだ」

 「マニフェストに書かれた処分先は金剛産業ですね」

 「そうだったかもしれんな」

 「ところが金剛産業には一台しか行ってないですね」

 「知らんよ。マニ伝に書いてあるんだから全部そこへ行ったんじゃないのかな」

 「二百五十台も入る容量がないと栃木県庁に確認しています。それにオーナーが逮捕されてから処分場は閉鎖されています」

 「だからどうしたんだね。こっちは収運に頼んだんだ。後は収運の責任だろう」

 「金剛産業に行かないことはご存知だったんでしょう」

 「知ってたらどうなる」

 「マニフェスト虚偽記載になります」

 「それはありえないね。許可のある最終に運ばせたんだ。問題ないだろう。容量の残りがないのはこっちの責任かい」

 「問題ないならどうして円のマニフェストを工場で管理せずに社長が預かっていたんですか」

 「支払いの都合だよ。本社決済だから本社で預かったんだ」

 「それはおかしいですね。決済はもともと全部本社でしょう」

 「初めての会社だから用心していたんだよ」

 「円はレーベルからエコユニバーサルへの運搬にも携わっていましたね」

 「そういうこともあったかもしれないな」

 「それも本社決済でしたか」

 「さあ覚えていないね」

 「円とはどなたの紹介で契約したんですか」

 「あっちから営業に来たんじゃないの」

 「オブチのヤードにエコユニバーサルの看板があるのはご存知ですか」

 「知らんよ」

 「エコユニバーサルが受注した産廃をオブチに運搬するための偽装なんじゃないですか」

 「だから知らんよ。行ったことも見たこともないよ」

 「オブチはエコユニバーサル受注分の帳簿を自社受注分の帳簿と分けてるんです。これがオブチの帳簿の写しです。ご覧になりますか」

 「よその会社の帳簿なんか興味がないね」

 「エコユニバーサルのヤードがいっぱいのときオブチに行けと言われることがあるという収集運搬業者の証言もあります。これはオブチへの再委託違反になりますね。オブチに振替えられた荷がエコユニバーサルには戻らないで不法投棄ルートへと流出した可能性もあります。その一部が犬咬へ来たんですよ」

 「それはあんたの推理だろう。証拠はあるのかい」

 「推理ではありません。オブチへの振替え運搬は帳簿で明らかですよ」

 「仮にうちが受けた荷がオブチへ運ばれたとしても再委託ではなく契約変更だろう」

 「契約書があるんですか」

 「仮の話だと言ってるだろう」

 「オブチに振替えられたエコユニバーサルの荷を円が持ち出したことを認めますか。オブチは認めていますよ」

 「あんたがそう勝手に思うのはかまわんが俺は認めないよ」

 「円がオブチから持ち出した荷なのにエコユニバーサルが振出したマニフェストがあるのはどうしてですか」

 「どういう意味なのかわからんね」

 「オブチは処分業者ではないから二次マニを切れない。それでエコユニバーサルの名義を借りたということですか」

 「あんたの想像に付き合ってるほど暇じゃないんだ」

 「想像ではなく明らかなマニフェストの虚偽記載ではないですか」

 「あんたの勝手な推測だろう。どのマニフェストのどこが虚偽記載だと言うんだ」

 「ここにあるマニフェスト、帳簿、計量伝票から立証できる事実ですよ」

 「あんたそれで俺をどうしようってんだ」

 「エコユニバーサルにどんな処分をするかは埼玉県庁の権限です」

 「ならもうあんたには答えん」

 伊刈と吉田社長のタイマン勝負は二時間続いた。吉田は決して自白しなかっし誘導尋問にも乗らなかった。認めたらやられるという勝負勘があったのだ。敵なからあっぱれと伊刈は思った。エコユニバーサルは伊刈に追求されながら逮捕も許可取消しも免れた数少ない業者となった。

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