表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

栃木四くぼ

 「長嶋さん、今日ちょっと付き合ってもらえないすか」

 「いいっすよ、車おいてから出直してもいいすか」

 「駅前のうなぎやで待ってるよ」

 「長谷部っすね、わかりました」

 伊刈が長谷部の一番奥の席で肝焼きを肴にウーロン茶を飲んでいると私服に着替えた長嶋がやってきた。Tシャツの下の厚い胸板を見るとやはり警察官の体は違うなと伊刈はあらためて感心した。

 「俺、そっちの席でいいすか」

 「ああわかった」伊刈は店内を見渡せる壁際の席を長嶋に譲った。

 「俺もウーロン茶もらいます」長嶋は顔見知りの大将に声をかけた。

 「おう」大将が大声で頷いた。

 「それでなんすか、役所じゃまずい話っすか」

 「そうでもないんだけど二人で話したいなと思ってさ」

 「いいすね、そういうのも」

 「店が混まないうちに本題を先にすませるけどね」伊刈は声をひそめながら後ろを振り返った。

 「大丈夫っすよ。俺が様子見てます。班長は夢中になると周りが見えなくなりますからね」

 「話ってのはね、もう長嶋さんはわかってることだとは思うんだけど、今まで調べてきた大規模現場、それからゲリラ現場の背後の組織を、シンジケートにまとめられんじゃないかと思ってさ」

 「それはありえますね」

 「だとすれば今相手にしてる連中だけが敵じゃないんじゃないかと思ってさ」

 「誰が敵とか敵じゃないとか、わが社(県警)に居ますとあんまりわかんなくなるんすけど、やっぱ目の前の仕事を一つ一つ片付けるしかないんじゃないすか」

 「それで不法投棄が終わるんだろうか」

 「班長のやり方は間違ってないと思いますよ。ずいぶんいろいろ変わったじゃないすか。とにかく悪い業者を一つ一つ潰すべきすよ」

 「その上は狙えないかな」

 「でっかすぎますよ」

 「いままで作ったチャート(不法投棄ルート図)をぜんぶまとめてみたんだけど、こんな感じになったよ」伊刈はいつも持ち歩いているぼろぼろのルーズリーフを開いた。そこには百社を超えるプレーヤー(不法投棄業者)が登場する複雑なシンジケート図が十ページにわたって描かれていた。組織の真ん中には大量の産廃を集めて不法投棄現場へと流出させている不法投棄センターとして、あきるの環境システム、オブチ、エコユニバーサル、山代商店、くるみ興業、レーベル、北関東物産、東照カンパニー、大和環境、桜井興業、ニシキ・パワーエナジー、藍環業といった処分業者名がリストアップされ、それぞれの業者間の取引関係も書き込まれていた。これが第一群業者だった。

 第二群には不法投棄の黒幕として暗躍していた根津商会(栃木エコステーション)の大久保、円の安座間、般若商会の是枝、さらに大久保と関係の深い会社として東北開発公社、東北保全、東北清掃運搬、墨田化学などがリストアップされていた。

 大久保の背後には愛光、英善環境、金剛産業などの最終処分場が第三群として描かれていた。最終処分場は本来なら産廃処理のゴールとなるべきだが、ここでは不法投棄の偽装を完成させる影の支配者だった。まもなく愛光だけではなく全国各地で最終処分場の無許可拡張型不法投棄が発覚することになる。しかし最終処分場こそが不法投棄シンジケートを裏で支配していたという報道はついにされなかった。英善環境の上田の背後にシンジケート組織全体を支配するフィクサーとして「栃木の親分」が控えていた。あえて実名を記していないものの、伊刈はそれが大耀会最高幹部の鯉川だと確信していた。不法投棄現場で発見した一点一点の産廃の背後でこんな巨大な構造が作動していようとは思いもよらないことだった。

 上位の構造に比べれば穴(不法投棄現場)を掘る穴屋、穴へと産廃を運ぶ一発屋(無許可ダンプ)、ダンプを穴まで誘導するまとめ屋などは、巨大な構造の末端で使い捨てにされる小者にすぎなかった。犬咬最強の穴屋、嵐山でさえもあっさりと切り棄てられたのだ。

 「班長すごいっすね、これ一人で作ったんすか」長嶋は目の前の構造図を見ながらため息をもらした。

 「みんなで作ったんだ。潮干狩り作戦のおかげだよ」

 「匍匐前進で敵の本陣を包囲したようなもんですね」

 「まだ本陣は落ちていないよ。ほんの見取り図を描いただけだ」

 伊刈が率いる現場チーム四人の戦いは007のようにスマートなスパイ戦にはほど遠かった。しかし手に入れた情報は気がついてみればCIAなみにクールなものだった。

 「この図を見てて面白いことに気付いたんだけど」伊刈が意味深に笑いながら言った。

 「なんすか」

 「偶然だとは思うけど、栃木には名前に「くぼ」の字がつく黒幕が多いよね。根津商会の大久保、北関東物産の窪内、東照カンパニーの小窪、そして名城エコプランニングの赤窪だ」

 「栃木四くぼすか」

 「みんな超大物とまでは言えないけど、それなりのやつばかりだよな。このクラスの連中がボロを出してるってことは組織が緩んできたってことなのかな」

 「四人の中じゃ小窪は組織が別かと思ったんすが、そうでもなかったんすね。赤窪も組織に入ってるようには見えませんでしたが、あっさり撤去に応じたところをみると何かやっぱり背後関係にやましいところがあったんでしょうね。いずれにしてもああゆう連中が一枚岩ってことはないすから切り崩せばぼろぼろこぼれてきますね」

 「栃木ルートが復活しないように締めていかないといけないね」

 「連中はこっちの出方次第すからね」長嶋も気を引き締めるように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ