表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

文化祭 Ⅰ

「後1週間かぁ」


「そうね」


文化祭まで残り1週間になった。


クラスの合唱は、初めと比べるとずいぶん良いものになっている。


元々、ポテンシャルの高いクラスだ。

体育大会での悔しさもあるから、きっと大丈夫だろう。


「今日学年練習なんだっけ」


「そうね」


啓ちゃんと予定を確認する。


学年練習では実際に、他のクラスの合唱も聴くことになる。

私達実行委員に関しては、本番同様、他クラスに点数もつけるから結構本格的だ。


「なんか複雑な心境だよなぁ」


「でも慣れておかないと。本番では、3年生に点数をつけるのよ」


「俺、そういうの向いてないんだよなぁ」


「弱音はかないの」


私だって向いてないわよ。

そもそも、ちゃんと聴けるかどうかも分からないしね。



放課後のクラスリーダー会議。


「今日の学年練習を踏まえて、後1週間の練習内容等々を決めていきましょう」


今日の司会進行は啓ちゃん。私は書記係。


「まずまあ、このまま行けば、2位だろうな」


明宏の一言に周りが一斉に頷く。


私もそう思う。


練習では、C組が圧倒的に強かった。

なんでも伴奏者の斎城彩葉(さいきいろは)は、過去3年間のジュニアピアノコンクールとやらで優勝しているらしい。


「格が違うよな」


また皆頷く。


伴奏者がすごいから、ピアノに声量が負けるようなこともなく、むしろピアノが負けるくらいの迫力がつくれているところがC組のすごいところだ。


「B組は…」


今度は、皆黙った。


B組は違う意味ですごかった。


私が一言で言い表すなら、不良の固まり。


歌う気もやる気もなく、ダラダラしている。

真面目なA組が馬鹿らしく見えてくるくらいだ。


「ま、油断は大敵よ。この1週間が勝負だから、気を引き締めていかないとね」


「ああ、そうだな」


本番でも、何が起こるかなんて分からないから。



「あれ、由東先生?」


2時間のブロック練習。


合唱コンクールでは、クラス合唱で競う"クラス合唱の部"ともう1つ、各色の()()()()に別れて競う"ブロック合唱の部"がある。


今年の3年生は4クラスで、A、B組の赤ブロック、C、D組の青ブロックの2つ。


1年生に関しては3クラスなので、A、B組が赤、C組は単級クラスとして青になっている。


もちろん先生方も2色に別れるんだけど。


「どうして青ブロックであるはずのあなたが、赤ブロックの練習風景を見に来てるんですか?」


「柚子ちゃん、食い気味だなぁ」


だっておかしいじゃない。


赤と青は敵同士でしょ?

それを、わざわざ歌の練習をしているときに……


「まさかスパイ!?」


「んなわけあるかーい」


思わず、といった感じで先生に突っ込まれた。


「僕は写真撮影係なんですよ。スパイじゃないです!」


「あ、なるほど」


なんだ、スパイじゃないのか。


少しだけがっかりした私を見て、苦笑いをする由東先生。


その様子を、遠くから腕組みをした彼女が見ているなんて、私は知る由もなかった。



「いよいよよ」


「ああ」


朝練も終わり、ぐっと伸びをする私と啓ちゃん。


今日はいよいよ文化祭、合唱コンクール本番の日だ。


「長い靴下はいてきましたよ!」


「でかしたわ、愛。どうして履かなくちゃいけないかは、実行委員の私にも分からないけどね」


「いや、リーダー会議でお前と赤坂が決めたんだろ!」


「それに、長い方が清楚に見える上に足が冷えなくていいわねって言ったの柚子ちゃんだよ!」


私のボケに、啓ちゃんとなっちゃんが突っ込みを入れる。


なっちゃん――赤坂小夏(あかさかこなつ)ちゃんは、うちのクラスの学級委員だ。

この文化祭の準備を通して、まあそこそこに仲良くなった。


「も~朝からボケが酷いなぁ、柚子ちゃんは」


「通常テンションよ」


もう1回、伸びをする。


C組は確かに強いけれど、頑張ったんだしワンチャンあるわ。


闘志に燃えるクラスメイトを見ながら、私はそう思った。



本番の発表は、A組、C組、B組の順番だった。


審査員は2年生の実行委員と、音楽科の先生2人と吹奏楽部顧問の彼女の11人。


客席の後ろは暗がりだし、一番遠いところにいるとは言え、やっぱりそこに審査員がいると思うと緊張する。


それに、彼女だけ異様によく見えるの。これって私だけ?


皆が壇上に上がって、指揮者がお辞儀をする。

歌う前にクラスアピール。

読むのは啓ちゃん、原稿を考えたのは私。


小学校の頃から、啓ちゃんとは同じクラスで学級委員やら実行委員やらをする機会が多かった。

明るく人気者の啓ちゃんと、元々大勢の人がいると酔う私。


役割はいつも、私が裏方、彼が表に立つ。

決めていると物事がスムーズに進むから、先生や周りの友達からは"名コンビ"なんて呼ばれていた。


否定はしない。

信頼し合っているのが分かるから。


「それでは、聞いてください」


啓ちゃんがマイクのスイッチを切る。

指揮者と伴奏者がお辞儀をする。


両隣が緊張するのが伝わった。

私にも少しだけ伝染する。


バイオリンのコンクールもこんな感じだなぁ。

一瞬だけ、そんな感想が頭を過った。



本番はあっという間だった。

指揮者と伴奏者がまたお辞儀をして、順番に舞台を後にする。


今までで一番の歌いきり。

行事が楽しいと感じたのは、何年振りだろうな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ