表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

何気ない日々、特別な1日

-8月-


From:野村愛

件名:ごめんね!!


おはよう(^^)

突然夏風邪をひいてしまって、今日の遊びにいけなくなっちゃいました(泣)

すみません。あかりさんと2人で行ってくださいm(__)m


朝、携帯を見ると、愛からメールが届いていた。


「夏風邪かぁ」


風邪なんて誰にも予知できるもんじゃないしね。仕方ない。


「お大事にね…っと」


今日は予定していた聖地巡礼。


「行ってきまーす」


一番楽しみにしていた愛が来られず、普段あまり喋らないあかりさんと2人きりだ。



「柚子ちゃん!」


私服姿のあかりさんが、私に向かってくる。


「おはようございまーす」


「おはよ」


「愛からメールが来ましたよ」


「私もだよ~夏風邪だってね」


喋りながら歩く。


今日の予定は、まず神社によってからお昼を食べて、その後、市内にある聖地に行くつもりだ。


「お昼どこにします?」


「コンビニでいんじゃね?」


「いや、ファミレス行きましょうよ」


学校内にいるときはしっかりしているあかりさん。


だけど、こうして遊びに行ってみると、実はかなり適当だ。


「ファミレスかぁ。ま、柚子ちゃんに任せるかな」


「あ、はい」


神社に着いた。


ここも、聖地のひとつになっている。


「お参りしますか」


「そうだね~」


参拝した後、あかりさんは写真を撮りに、私は御朱印をもらいに行った。


実を言うと、御朱印集めは少し前からハマっている趣味である。


「もらえた?」


「うん。あかりさんは、撮れました?」


「バッチリ」


そのまま、お昼を食べに行った。

結局、ファミレスで。


「私さ」


各々ものを頼んだ後、セルフでいれたオレンジジュースを飲みながら、あかりさんが唐突に話し始めた。


「何ですか」


「担任の先生、好きなんだよね」


「え」


C組の、担任。重野歩(しげのあゆみ)先生。


重野先生は坂本先生と同い年で、独身。

小さめの身長が可愛らしいけれど、性格と話し方が豪快だからキッツイ人みたいな印象が強い。


莉保ちゃんは可愛いけど苦手だと言っていた。

他のC組の子達は、マスコットキャラクター的な扱いをしているらしい。


「その好きって、()()好きですか?」


あかりさんにこう訊いたのには理由がある。


私のような、"女の子が好きな女の子"を主人公とした漫画を、あかりさんはよく読む。

私も好きだ。普通の恋愛漫画より、感情移入がしやすいから。


だけど、漫画の世界と現実は違う。


あかりさんの言う"好き"は、恋なのか、憧れなのか。


答えによって、私は、見方を変えなくちゃいけない。


「う~ん…」


しばらく思案した後、あかりさんはフッと笑ってこう言った。


「Like半分、Love半分、かな」


そっか。つまり、少しだけ、()()()()人なんだ。



「おはようございます。1年A組の羽山です。美術室の鍵と、部活日誌をお借りしに来ました。」


夏休みも部活がある。


美術部は他の部活に比べて、長期休み間の活動日数は少ない。


それでも。


「おはよう、柚子ちゃん」


朝一番に行って、職員室に鍵と日誌を取りに行けば、彼女に会える。


「早いのね」


「まあ」


あなたに会えると思って。


飲み込んだ言葉が長いから、発した方はすごく短くなってしまった。


会話、続けたいな。


「先生」


「ん?何?」


鍵と日誌を受け取りながら、必死に頭を回転させる。


話せ、何か、話題を。


「あ、」


思い付いた。


「何?」


「せ…福原先生のお誕生日、教えてください」


「私の?誕生日?」


「はい」


もう8月。何でもっと早く訊かなかったんだろう。

もう過ぎてたら、嫌だな。


「何月だと思う?」


「え?え~と…」


急に問題出された。何月だろ…


「9月…とか?」


何となく、イメージ的に。


「正解!」


ふわっと嬉しそうに笑う彼女。

私の心臓もぎゅっと持っていかれる。


「9月9日、菊の節句よ。覚えといてね」


「はい」


よかった、まだ、過ぎてなかった。



今日はバイオリンの日。


私が通う教室は、電車で1時間の場所。

遠いけれど、好きだから、苦じゃない。


ガタガタと揺られながら、窓の外を眺める。


彼女は今、何をしてるかな。



「あ、由東先生。お久しぶりです」


2学期。


「お~!柚子ちゃん!お久しぶりです」


相変わらずテンションの高い由東先生。


「夏休みはエンジョイできましたか?」


「ええ、まあ」


友達とも遊んだ、部活もバイオリンも頑張れた。

そこそこにエンジョイしてるでしょ?


「それはよかった!2学期からもよろしくお願いしますよ」


「はい」


2学期初めの行事は文化祭だ。

実行委員の仕事を、完璧に。



-9月-


9月9日。


「福原先生、おはようございます」


廊下に立っている彼女の顔を覗きこんで、いつものように挨拶をする。


「はい、おはよう」


彼女の挨拶もいつも通り。


だけど今日は少し特別な日。

隠している私の右手には……


「先生」


「ん?何?」


「ハッピーバースデー」


手作りのブックマーク。


手作りって重く感じるかもしれない。けど、お金をかけるよりはいいのかなぁなんて。


「え!?いいの??」


彼女はすごく驚いてるみたいだった。


「覚えといてって言ったのは先生ですよ」


「うん、まあ、そうだけど…」


困惑している彼女。可愛い。


「まさか物をもらえるだなんて思ってなかったわ」


照れ笑いをして受け取ると、彼女はパーカーのポケットに、プレゼントをしまった。


私を撫でるときみたいに、ポンポンと2度、ポケットを優しく叩く仕草がなんだかとても、キラキラして見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ