何気ない日々、特別な1日
-8月-
From:野村愛
件名:ごめんね!!
おはよう(^^)
突然夏風邪をひいてしまって、今日の遊びにいけなくなっちゃいました(泣)
すみません。あかりさんと2人で行ってくださいm(__)m
朝、携帯を見ると、愛からメールが届いていた。
「夏風邪かぁ」
風邪なんて誰にも予知できるもんじゃないしね。仕方ない。
「お大事にね…っと」
今日は予定していた聖地巡礼。
「行ってきまーす」
一番楽しみにしていた愛が来られず、普段あまり喋らないあかりさんと2人きりだ。
「柚子ちゃん!」
私服姿のあかりさんが、私に向かってくる。
「おはようございまーす」
「おはよ」
「愛からメールが来ましたよ」
「私もだよ~夏風邪だってね」
喋りながら歩く。
今日の予定は、まず神社によってからお昼を食べて、その後、市内にある聖地に行くつもりだ。
「お昼どこにします?」
「コンビニでいんじゃね?」
「いや、ファミレス行きましょうよ」
学校内にいるときはしっかりしているあかりさん。
だけど、こうして遊びに行ってみると、実はかなり適当だ。
「ファミレスかぁ。ま、柚子ちゃんに任せるかな」
「あ、はい」
神社に着いた。
ここも、聖地のひとつになっている。
「お参りしますか」
「そうだね~」
参拝した後、あかりさんは写真を撮りに、私は御朱印をもらいに行った。
実を言うと、御朱印集めは少し前からハマっている趣味である。
「もらえた?」
「うん。あかりさんは、撮れました?」
「バッチリ」
そのまま、お昼を食べに行った。
結局、ファミレスで。
「私さ」
各々ものを頼んだ後、セルフでいれたオレンジジュースを飲みながら、あかりさんが唐突に話し始めた。
「何ですか」
「担任の先生、好きなんだよね」
「え」
C組の、担任。重野歩先生。
重野先生は坂本先生と同い年で、独身。
小さめの身長が可愛らしいけれど、性格と話し方が豪快だからキッツイ人みたいな印象が強い。
莉保ちゃんは可愛いけど苦手だと言っていた。
他のC組の子達は、マスコットキャラクター的な扱いをしているらしい。
「その好きって、どの好きですか?」
あかりさんにこう訊いたのには理由がある。
私のような、"女の子が好きな女の子"を主人公とした漫画を、あかりさんはよく読む。
私も好きだ。普通の恋愛漫画より、感情移入がしやすいから。
だけど、漫画の世界と現実は違う。
あかりさんの言う"好き"は、恋なのか、憧れなのか。
答えによって、私は、見方を変えなくちゃいけない。
「う~ん…」
しばらく思案した後、あかりさんはフッと笑ってこう言った。
「Like半分、Love半分、かな」
そっか。つまり、少しだけ、私よりの人なんだ。
「おはようございます。1年A組の羽山です。美術室の鍵と、部活日誌をお借りしに来ました。」
夏休みも部活がある。
美術部は他の部活に比べて、長期休み間の活動日数は少ない。
それでも。
「おはよう、柚子ちゃん」
朝一番に行って、職員室に鍵と日誌を取りに行けば、彼女に会える。
「早いのね」
「まあ」
あなたに会えると思って。
飲み込んだ言葉が長いから、発した方はすごく短くなってしまった。
会話、続けたいな。
「先生」
「ん?何?」
鍵と日誌を受け取りながら、必死に頭を回転させる。
話せ、何か、話題を。
「あ、」
思い付いた。
「何?」
「せ…福原先生のお誕生日、教えてください」
「私の?誕生日?」
「はい」
もう8月。何でもっと早く訊かなかったんだろう。
もう過ぎてたら、嫌だな。
「何月だと思う?」
「え?え~と…」
急に問題出された。何月だろ…
「9月…とか?」
何となく、イメージ的に。
「正解!」
ふわっと嬉しそうに笑う彼女。
私の心臓もぎゅっと持っていかれる。
「9月9日、菊の節句よ。覚えといてね」
「はい」
よかった、まだ、過ぎてなかった。
今日はバイオリンの日。
私が通う教室は、電車で1時間の場所。
遠いけれど、好きだから、苦じゃない。
ガタガタと揺られながら、窓の外を眺める。
彼女は今、何をしてるかな。
「あ、由東先生。お久しぶりです」
2学期。
「お~!柚子ちゃん!お久しぶりです」
相変わらずテンションの高い由東先生。
「夏休みはエンジョイできましたか?」
「ええ、まあ」
友達とも遊んだ、部活もバイオリンも頑張れた。
そこそこにエンジョイしてるでしょ?
「それはよかった!2学期からもよろしくお願いしますよ」
「はい」
2学期初めの行事は文化祭だ。
実行委員の仕事を、完璧に。
-9月-
9月9日。
「福原先生、おはようございます」
廊下に立っている彼女の顔を覗きこんで、いつものように挨拶をする。
「はい、おはよう」
彼女の挨拶もいつも通り。
だけど今日は少し特別な日。
隠している私の右手には……
「先生」
「ん?何?」
「ハッピーバースデー」
手作りのブックマーク。
手作りって重く感じるかもしれない。けど、お金をかけるよりはいいのかなぁなんて。
「え!?いいの??」
彼女はすごく驚いてるみたいだった。
「覚えといてって言ったのは先生ですよ」
「うん、まあ、そうだけど…」
困惑している彼女。可愛い。
「まさか物をもらえるだなんて思ってなかったわ」
照れ笑いをして受け取ると、彼女はパーカーのポケットに、プレゼントをしまった。
私を撫でるときみたいに、ポンポンと2度、ポケットを優しく叩く仕草がなんだかとても、キラキラして見えた。