行事とテストと部活動
-5月-
「じゃあ今から、体育大会の役割決めんぞ~学級委員前出てきて~」
明宏と女子の学級委員が前に出てくる。
体育大会、というのは小学校の頃でいう運動会みたいなもので、毎年5月の後半に行われるそうだ。
「じゃあ、実行委員を決めます。立候補、手を挙げて」
明宏は割と目立ちたがり屋で、だからこそクラスの学級委員も引き受けている。
他人の前に立つことが正直あまり得意でない私とは正反対で、本当に反りが合わない。
「スローガンの旗とかを作る係を決めるんだけど、美術部は強制参加らしいので、よろしくお願いしまーす」
明宏が言う。…ん、今、何て言った?
「え?強制参加!?」
「柚子うるさい」
一番前の席でガタッと立ち上がった私。
普段静かだから、女子の学級委員がすごくビックリしている。
いや、私の方がビックリだよ。
「柚子ちゃーん、昨日、戸間先生が言ってたよ~」
後ろの方の席で、愛がそう言ったのが聞こえた。
啓ちゃんが小さくため息を吐いている。
そりゃまあ、私、話半分しか聞きませんよ。
「え~昨日言ったじゃん!」
放課後、部室で愛が教室での話をすると、顧問はやれやれと首を振った。
戸間恵理子先生。美術部顧問、担当教科も美術。顔の感じと雰囲気が彼女によく似ている。身長は170㎝とすごく高い。
「私はそういう性格なんです~」
「いや、人の話聞かなすぎでしょ!」
今、私にツッコミをいれたのは、愛の友達、雛形あかりさん。
彼女も"ダブルベア"ファンで、部活体験の時に仲良くなった。ちなみにC組だ。
「とにかくクラスの旗作りは美術部全員参加だから、よろしくね」
「はーい」
美術部は、うちの学年で15人。
上の2学年は合わせて17人。
やたらと大所帯だし、密度がすごい。
さらに、キャラの濃い人たちがたくさんいるので、クセもすごい。
「それと、昨日言い忘れてたけど、この旗作成の期間、つまり体育大会が終わるまでの2週間と、その後の中間テスト前の1週間、部活はお休みだから注意してね」
戸間先生がそう言った。
中学校で新しく知ったこと。どうやら定期テストの1週間前に、全部活が停止となるらしい。
勉学に勤しめ、ということだろうか。
やらないやつはやらないだろうし、そんなことしても無駄なんじゃない?
とか思ったのは私だけのようで、愛もあかりさんも、
"その1週間が大事だね!"
とか言っていた。
う~ん…よく分からん。
そんなこんなでバタバタと2週間が過ぎ、体育大会がやって来た。
頑張ってきた分の成果はもちろんあげられたが、結果は散々。
クラスの女子の何人かが泣き、明宏も少しだけ涙ぐんでいた。
私には、そういう感情がわからない。
体育大会明けの火曜日は、テストの9日前だった。
結局、ここに行事を入れられると、誰も対策なんて出来てないんじゃないかと思う。
案の定、愛は頭を抱えていた。
「う~…分からないです……」
「何処が?」
「全部……」
はぁ?全部?
「あんた、話聞いてた?」
「…柚子ちゃんにだけは言われたくなかった……」
ため息を吐き、机に突っ伏す愛。
「教えてあげるから取り合えず一番不安なところだけ見せて」
教科書とノートを広げていると
「柚子」
名前を呼ばれた。
声の主はもう分かっている。
「何?明宏」
「分かってるだろうけど今度のテスト…」
「はいはい」
勝負しろってことでしょ?
昔から吹っ掛けてくるのは明宏だしね。
「総合得点だからな!」
「はいはい」
「俺が勝ったらなんか奢れよ!」
「はいはい」
叫んで、彼は廊下へ消えていった。
「井山くんと、柚子ちゃんって、どういう関係なんですか~?」
不思議そうな愛に、私は
「腐れ縁」
とだけ答えた。
-6月-
「おはようございます!柚子ちゃん」
「…おはようございます…」
テスト明け月曜日、テンションの高い由東先生の挨拶を軽く受け流す。
「ご機嫌斜めですか?」
「通常テンションです」
「今日はテスト返しですよ~」
「知ってます」
テスト返し。
2つ上の近所のお姉さんが、小学校と中学校のテストは全然違うと言っていた。
確かに全然違う。
範囲が広いし、テスト当日はテストだけをして帰るし、教科ごとに監督の先生として教室に誰か先生がいる。
受けているテストの教科の先生は、質問を受け付けに来る。
なんだか不思議な感じだった。
返されるときも、違うのかな。
「テスト返しの時は、机の上に赤ペンだけを出してね」
1時間目は国語だった。
彼女の授業。
「じゃあ、国語係は、問題用紙配って~」
彼女に問題用紙を渡される。
配りながら、考えた。
小学校時代、テストで95点より下をとったことはない。
国語に関しては常に100点。点数だけ見れば完璧な優等生だった。
じゃあなんで、5が1つもとれなかったかというと――――
「柚子ちゃん?」
目の前で、少し小さい手のひらがブンブンと振られる。
「先生」
彼女が教卓から身を乗り出して、私を見ていた。
「具合悪い?机帰ってきてから、すごい険しい顔してるけど」
「いえ、大丈夫です」
いけない。眉間にシワが寄るのは、考えているときの私の悪い癖だ。
「じゃあテスト返すね。井山~」
明宏が私のとなりで「マジかよ…」と呟いた。
それどういう意味?
聞く間もなく、明宏は席に戻ってしまい、私の名前が呼ばれる。
「初めてのわりに、みんな頑張ったと思うわ」
まずまずの出来、かぁ。
折り畳まれて返された答案用紙をそぉっと開けてみる。
「嘘でしょ……」
思わず出たのは、そんな一言だった。




