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ランウェイへようこそ  作者: 人生輝
7/13

ワタシにとっての鼓動

午後7時半、ワタシは愛車『BMW320i』のシートの上で半分イライラしながら、車が進むのを待っていた。

栃木からの帰り、ユキ社長から言われた”午後8時厳守”の為に、六本木へ向かう際、首都高速を利用したのが失敗だった。環状線で渋滞に巻き込まれ動かない。もうそれほど遠くないのに・・・。


「そっか、今日は金曜日かあ~。」、ワタシはこの段階で思い出し呟いた。

『バブル期ど真ん中』の1989年、週末の六本木周辺は車だけではなく、人も大渋滞する時代だった。

賑わいは日比谷線や千代田線の終電時間を超え、夜中のタクシーは殆ど捕まることがなく、数少ない『空車』表示のタクシーのフロントガラスに向けて、札束を見せ無理矢理止めさせることをやっていた輩もかなりいた。

この時代は、未だ携帯電話も普及されていない。だから、ワタシが指定場所へ到着するまで、待っている人達にとって来る来ないも判らない『行方不明』状態だ。

「まあ、社長はワタシが栃木から戻ってくることは知っているし、何とかクライアント達も待っていてくれでしょう。」と、楽観的に考え動くのを待つ。普段、ユキ社長は厳しいが、こういう時の甘えは寛容に考えてくれる人だ。


何とか、首都高・飯倉出口を通り抜けたのが午後8時7分。そして、また一般道でも渋滞に巻き込まれた為、結局、中華飯店『四川』の駐車場に車を止めた時のは、8時半近くなっていた。

急いで車を降り、サングラスを掛けながら、そそくさと店の入り口向かった時だった。真横から、良く聞く女性の声がした。


「大物モデル様のご登場!」

「社長!」

そう、そこには腕組みをしたユキ社長がいた。暗いので良くは見えないが怒っているような雰囲気がした。

「社長、申し訳ありません。」

取り敢えず、先に謝る。これがいつものパターンだ。

「ハルカ。何があったの?」

「えっ。いや、遅れてすみませんでした。」

「違うわよ。アンタ、なんか悩んでいるでしょ?」

率直にこの時のワタシは何の悩みも感じていなかった。感じていたのは、ユキ社長からの”カミナリ”だけだ。

「いや、特には?」

「じゃあ、何しに栃木に行ったのよ」

”それかあ!。そのことを社長は気が付いていたのか!”と、やっと心で理解できた。

「アンタがね。海外から帰ってきた時、何か悩んでいるといつも『行方不明』になるからね!」

”社長なんでわかるの?”と、言われて気が付いたが・・・。

「ですか?」と、答えるに留めた。

「まあね。良く思い出してご覧よ。先ず、木更津の実家へ帰っている時、これはアンタが男関係で悩んでいる時!」

それも当たっている。”言わなくても社長は判ってしまうんだ。社長は仙人みたいな人だ”と心で拍手をしている。

「で、栃木に行った時は、仕事で壁にぶつかった時だよ。違う?」

”そこまでご存知なら”と早速話し出した。

「あの実は夏からのスケジュールなんですが・・・。」

「やっぱりねえ。パリでショックを受けたんだ。」

「ええ、まあ・・・。」

「月曜日の朝一、事務所に来て!皆で話しましょ。」

「あ、有難うございます!」

「じゃあ、お仕事へどうぞ。」と、ユキ社長は中華飯店『四川』入り口へ向かって手を伸ばした。

「あれ、社長は?」

「この後予定があるの。ここはハルカだけで問題ないんで。」

「どういうことですか?」

「行けば判るわ。じゃあね!」と言い残し、其の儘、ユキ社長は六本木交差点方向へ消えて行った。


中華飯店『四川』は、以前から何度も公私で来ている。

入店すると、マネジャーの王さんが声を掛けてきた。

「こんばんは、ハルカさん。みんなお待ちです。」

「ありがとう、王さん。」

「今日はこの個室ですよ。」と、店の奥にある個室に案内される。

「今日は一番広い部屋なんだ。」

「ええ、お友達がお待ちです。」

「お友達?今日は仕事のはずよ。」

ニコッと笑った王さんは、その一番広い個室のドアをノックした。

「ハルカさんがお見えです。」

と、個室に入った瞬間、聞いたことがある、やたら通る男の声。今は聞きたくない不愉快な声がした。

前を見る。やっぱり、アイツだ。


「ハルカ、お疲れ!」

「仁兄。どういうこと?今日は仕事で来たんだけど。」

そう、そこに居たのは、高校時代ワタシが”ファン”と言っていた”仁兄”こと『松山仁』であった。

ワタシが仁兄にこのことを問質そうとした時、仁兄の隣座っていた若い男性がワタシに声を掛けてきた。


「ハルカさん、お疲れ様です。パリコレ凄かったですね。感動しました!」

「遼平!久しぶり。えっ、なんでアンタもいるの?」

『相田遼平』、モデル兼若手人気俳優。身長が190cm近くある彫の深い顔立ちの男だ。歳は22歳、大学を卒業仕立てだが、高校の時から雑誌モデルとして人気があり、2年位前からはショーモデルと役者業も始めた。現在、仁兄と同じ『オフィス雅』に所属し、仁兄の『弟分』的存在だ。ワタシとは、雑誌やCM、そしてショーでも一緒になることが多く、ショーについてはワタシが心構えから”教えた”よき後輩でもある。


「まあ、『世界的モデル』が、そうカリカリするなって。」と、仁兄。

「どうも、有難い嫌味で。」

「言っておくが、ハルカ。今夜のお前のクライアントはオレだぞ!」

「何言ってんのよ!」

「じゃあ、ユキ社長に電話して聞いてみろよ。ユキさんからOK貰っているから。」

「ハルカさん、仁さんの言うこと本当なんですよ」と、遼平が汗をかきながら、ワタシに説明をしようとした。その時だった。


「今晩は!みんな元気?」と、陽気な女性が個室に入ってきた。

「あっ百合!どうしたの?」

そう、入って来たのは、ヘアメイクアーチストの中村百合だった。

「えっ、ハルカ聞いてないの?仁さんから。」

「何を?」

「未だ、言ってないよ。百合ちゃん。」と、仁兄が言った。


「何よ!皆してワタシを仲間外れにして!」と、大きな声でワタシは怒る。

「言おうとしたら、お前が勝手に喧嘩売って来たからだろ!」と、仁兄が言い、其の儘続けた。

「実は・・・。百合ちゃんが結婚することになったんだよ!」


「百合ちゃん、結婚?えーーーー!」

「ゴメン、ハルカ。本当は、パリに行く前に言おうと思ったんだけど・・・。言いそびれちゃって・・・。」

「で、誰と結婚するの?ワタシの知っている人?」と、ワタシが言うと百合は頷くだけであった。

「えっ、誰?」と聞いた所、仁兄が話し出した。


「ハルカ、俺の友達で『水島雄一』って知っているだろ。」

「知っているも知らないも、久仁子お姉さんの・・・。 えーーーーー!」と、ワタシは大声を上げた。

「そうなの。それもあって中々ハルカに言えなくて。」

そう百合に言われたが、ワタシは首を横に振っていた。

「おめでとう、百合!凄いよ!良かったよ!きっと久仁子お姉さんも喜んでいるよ!」と、ワタシは半分泣きながら、百合の手を握り喜びを爆発させていた。


『水島雄一さん』・・・ 彼は仁兄の高校の友達で、現在、外資系商社の宣伝部にいるサラリーマンだ。ワタシが水島さんと初めて会ったのは中学生の時だ。でも、会ったこと自体ワタシは覚えていない。そして、ワタシがこの世界に入り仁兄と出会ったことで、水島さんの存在を知った。『久仁子お姉さんの彼氏』だった水島さん。ワタシの憧れの存在である『飯島久仁子』という今は亡き人を、生前支えてきた男性である。

「百合となら、水島さんは幸せになれる。」そして、この結婚を『久仁子お姉さん』も絶対祝福してくれると確信していた。

その思い、その全てのスタートは、仁兄こと『松山仁』との出会いから始まった。




「キミさ、本気でモデルやる気あるの?」と、大きな声でカメラマンの宇佐美さんがワタシに向かって怒った。

ユキ社長、メイクの原口先生、アシスタントの百合。誰も間に入って話すものはいない。この時の表参道のスタジオは緊張感に包まれていた。ワタシの宣伝材料として、モデルに必要なブックと言われる写真集を作る為、初めての撮影がスタートしていた。宇佐美さんは若手だが有能なファッションカメラマンだ。ユキ社長との信頼関係も厚く、モデルに対しての要求も厳しい。


「誰も無理に笑えって言ってないんだよ!自然に微笑む!分かる?」

「はい!」とは言ったものの、実際は『笑う』と『自然に微笑む』が解らない。

ワタシがイメージしたものは、中学時代に雑誌で見た憧れの『飯島久仁子さん』の表情だった。

だが、彼女の表情をマネしようとすると、経験の無いワタシは、顔が引きつって仕舞う。

そして焦ると、表情は硬くなり『自然』がなんだか解らなくなってしまった。


「ちょっと休憩しましょう!」と、ユキ社長。撮影が始まってどれ位が経っただろう。それぐらいワタシには長く感じた宇佐美さんとの撮影。やっと助け舟が出た。


「遥ちゃんさあ。もしかして、『久仁子ちゃん』のマネをしようとしていなかった?」と、ユキ社長はニコリとしながらワタシに話しかけてきた。

「そうなのか、どうなのかも、もう解らなくて・・・。」

「解ったわ。じゃあね、先ず『飯島久仁子』と言うモデルはアナタの憧れであって、モデルのアナタには全く関係ないの。それから、ここを撮影スタジオだと思わないでね。ここはアナタの家。と言うより『アナタの部屋』なの。だから、宇佐美君が言った言葉を今のアナタの感情として受け止めるの。解かる?」


ユキ社長が言いたいことは、何となく解かる。でも、頭でわかる位しかない。

「皆初めはそう。モデルって意識だけが先に行くからね。遥ちゃんの場合は開き直った方がいいかな?」


”開き直る?・・・”


そう言えばワタシはここまで、ずっと開き直って生きてきていた。バレーボールも、短大受験も、そうだった。『飯島久仁子』と『モデル』がキーワードだけで、ここまでは走ってきた。


”やっとスタートラインに立てたんだ。もっと走らないと!”


そこからの宇佐美さんとの撮影は順調になった。

ワタシなりの『自然な微笑み』も出来ていた。それは、その後のワタシのモデル人生の基本ともなる表情だ。ただ、自分自身、何時まで経っても『飯島久仁子さん』の表情には勝てないと思っている。そのコンプレックスがモデル業を続けている力にもなって行った。


この『フォトモデル』としての初日、撮影が終わりかけた時だった。スタジオの入り口から1人の背の高い若い男性が入って来た。撮影をしているワタシの場所からは照明の影響で良くは見えない。

先ず、原口先生に挨拶してるようだ。その後、ユキ社長にも挨拶しその横でワタシの撮影を観ている。


「よっし、終了!お疲れ!」と、宇佐美さんの声が響いた。

ワタシは小声で、「お疲れ様でした。」と言いその場に座り込んでしまった。

「今日は良く頑張ったわね。その根性はモデル向きよ。」と、ユキ社長がワタシの横に来てそう言った。

「有難う御座います。」、そう言うのがやっとだった。


「それじゃね、今日のご褒美として素敵な人を紹介するわ!」

そうユキ社長がワタシの肩に手を置いて言った後、一人の若い男性が、ワタシに近づき声を掛けてきた。


「よお、初めまして。キミの事は知ってたよ。」

ワタシは顔を上げその男性と視線が合った。

「えーーーーーー!」

信じられない光景だった・・・と同時に、”ここまで来れた!”という到達感がこの時強かったことを覚えている。


目の前に立っていたのは、俳優『松山仁』本人だった。

そう、ワタシが高校1年の夏に立てた将来へ夢である『5つの計画』が全て叶えられた瞬間だった。

昨日、中村百合からこのスタジオで遭遇することは聞いていた。でも、こういう形で会えるなんて、『5つの計画』を立てた時には思いも寄らない結果となった。そして、『松山仁』から声を掛けられ”ワタシを知っている”と言われた。

ワタシはそれまでの疲れを忘れ、唯々、舞い上がっていた。

それでも先ず、ワタシは”ファンです!”と言おうとした時だった。


「キミさあ、『高校バレーのフォトクイーン』だった子だよね?」

「ええ・・まあ・・。全国大会に出場した時に、マスコミにそう言われたことはありましたが・・・。」

「あの時のキミさあ、なんかさ、男性を意識した感じでプレーしてたよね。」

「はい?」

「いや、悪い意味じゃないんだ。随分イメージが変わったなって思って。」


”この人何言ってるんだ?”、ワタシは心で呟いた。確かにアノ時のワタシは彼が言っている通りで、全て計算しながらコートに立っていた。それ程努力しなくても、並み以上のプレーはバレーボールで出来ていた。だから、将来モデルの世界へ入るためのアピールの場として全国大会を利用した。

見透かされているようで嫌な感じがしたが、”随分イメージ変わった”と言ってくれている。取り敢えず今の努力は理解してくれていると、良く考えた。


「有難う御座います。」

「久仁ちゃんのファンなんだって?」

”それも知っているんだ。”

「はい!中学時代からの憧れです。生前、お会いしたこともあります!」

「それでO女子短大に入ったって、相当だね。」と、松山仁は笑いながら言った。

「はい、それが夢でしたから。あの・・・。」

「なに?」

「質問していいですか?」

「オレに?いいよ。」

「飯島久仁子さんの事故死の原因ってなんだったんですか?」

「そのこと?それでオレに会いたいって言ってたのか?」

「いえ。ワタシは松山仁さんのファンでもあります!」と、ワタシは言ったが・・・。松山仁には見透かされているように感じた。


「まあ、いいや。久仁ちゃんの事は追々話すよ。それより、メシ行かない?」

「いいんですか?」と、ユキ社長の方を見た。

「仁、売り出し前のウチの大事なモデルだからね。変な問題だけは起こさないでね。」とユキ社長。


この時ワタシは思い出した。この『松山仁』と言う俳優はかなりのプレーボーイとの噂がある。

食事に誘われる・・・それって別の意味?と、一瞬不安になる。


でも、それは本当に一瞬でしかなかった。

『松山仁』とワタシ、この後、何度もマスコミに恋愛沙汰を取り上げられる。

しかし、ワタシにとって彼は『業界の兄』としか見れないし、彼も『妹的存在』以外にワタシに対し感情を持つことはなかった。

なのに、誤解を生む。

それは、『松山仁』と言う人が、子役から芸能生活を営んでいる割に真面目過ぎ、その上、何をやっても不器用で立ち回りが下手なのだ。

好きになった女性がいても、上手く自分で伝えられず、間に入ったワタシが週刊誌の餌食となる。

その繰り返しが、ワタシの『芸能人生』でもあるのだ。


でも、そのお蔭で、この世界に身を投じてからのワタシは、同期のモデルから見たら、かなり順調でそれ程の『苦労』はなかったと言ってもいい。


『オフィス・ヴィヴァーチェ』は、設立して間もないモデル2名の小さな事務所だったが、押しの強い『ユキ社長』の売り込みと、『松山仁』の持つブランドデザイナーとの幅広いコネクションに便乗させて貰ったことが、ワタシをスターモデルに押し上げて貰った要因だと思う。


ただ、ワタシは甘えることなく『努力』は続けた。いつも自分に厳しくすることにより、高いものを自ら求めた。

そのことが、既製服専門メーカーのショーからスタートし、僅か2か月後にはファッション誌の表紙を飾り

、そして時代の波に乗って、その翌年から正式スタートをした『東京コレクション』の常連モデルへと成長することが出来た。


また、『オフィス・ヴィヴァーチェ』自体も劇的なスピードで変わって行った。

ワタシが短大2年になる少し前、ユキ社長と苦楽を共にし、一緒に独立して『オフィス・ヴィヴァーチェ』を設立した先輩モデル『鈴木優華』さんが結婚引退した。急な話だった。余り本音を見せないユキ社長だが、この時だけは落ち込んでたことを覚えている。

でも、この後が凄かった。KATEさんの事務所と共同で行ったオーディションと、ユキ社長の自らのスカウト、そしてワタシの推薦で5名の新人モデルを採用した。

考えてみたら、この時のワタシはモデルとして仕事を始めて、未だ1年経っていなかった。

それでもユキ社長は常々「アンタ先輩なんだから、後輩の解らない事は率先して教えてあげなさい!」と叱咤された。ワタシは引退した鈴木優華さんから、殆ど何も教えて貰っていないのに・・・。


実はこの時、ワタシが推薦して事務所に入ったのが、ワタシと同じ高校のバレーボール部で後輩だった『来栖香奈』だ。彼女はワタシを追っ掛け、O女子短期大学の後輩にもなった。だから、ユキ社長は香奈に問題がある時、「アンタが面倒見てやりなさい!」と丸投げだった。

「先輩が困った時は私が何でもお手伝いしますから。」と言ってくれる香奈の方が余程、ワタシに対して面倒を見てくれていたことは確かだったけど・・・。


そうこうしているうち、あっと言う間にワタシの2年間の短大生活は終わっていた。

それと同時に『オフィス・ヴィヴァーチェ』も、青山一丁目にあるインテリジェンスビルのワンフロアに引っ越しをした。この2年弱で、ワタシを筆頭とするショー、フォトモデルとテレビタレントを合計15名抱える事務所に発展していた。


その年の春のコレクションシーズンも終わり、ワタシの仕事がファッション誌やCMがメインになる頃、仁兄こと『松山仁』との雑誌の対談を六本木のスタジオで行った。対談の主題は『センスある仲間』で、仁兄がワタシを指名したことで実現した企画対談だった。

この頃には、対談の主題通り、身近な『仕事仲間』であり、冗談も言い合える関係になっていた。


対談が終わった後、仁兄がワタシに話しかけてきた。


「ハルカ。今度の休みはいつだよ?」

「来週の火曜日と水曜日かな。その後、暫く北海道で撮影があるんだ。」

「じゃあ、火曜日、オレに時間をくれないか?」

「えっ、なんで?」

「ハルカが知りたがっていた事をそろそろ教えてやろうかと思ってさ。」

「知りたい事?」

「そう、忘れた?」


ワタシは直ぐには思い出さなかった。取り敢えず、日本国内では売れっ子ショーモデルになっていたこともあり、仕事も私生活も充実していたからだと思う。


「久仁ちゃんだよ。」

「えっ。」

「だって、お前知りたがってたよなあ?」


考えてみれば、初めて仁兄にあった時に言って以来、『飯島久仁子さん』の名前を出すことがなかった。


「ゴメン、勿論だよ、仁兄。で、何処へ行けばいいの?」


また、この時もう一つの事に気が付いた。彼女がこの世を去った時の年齢より、既にワタシが超えていたことも。


東京も初夏を迎えていた。そしてワタシは仁兄に指定された、東京山の手のある高級住宅地の公園に自らの車で向かった。

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