ランウェイへようこそ 2-4
「来週行くからね。早くハルカの赤ちゃんが見たいよ!」
「うん、楽しみ待っているよ。でも寒い所だからちゃんと着込んで来てね。」
日本からの国際電話。相手はヘア・メイクアーテイストの中村百合からだった。
久しく会っていない彼女が、短い期間だけど休暇を取りワタシに会いに来てくれる。
1991年晩秋、南スウエーデンの東岸にある漁港・シムリスハム。
ワタシ大村遥はこの地に来て1年の月日が経っていた。この1年は本当に目まぐるしく、早いものだった。
慣れない場所、特に夜が長い冬の訪れる所からがワタシのスタートだった。
そしてなんといっても、この年の初夏、ワタシと夫・アクセルとの間に新しい命が生まれた。
モニカ・オオムラ・ビョルク、ワタシ達夫婦にとっての大事な絆となる女の子だ。
モニカをこの街で出産する際、アクセルの母・ベッテが献身的にワタシを見てくれた。港の近くにあるパブで働くベッテだが、仕事の時間を割いて、この街の生活も出産も未経験なワタシを支えてくれた。
「ハルカ、助けが必要な時は、全て私に言って。何でもするわよ。」と、ふくよかな体型のベッテは優しく接してくる。ここでは、彼女がいなければ何も出来ないワタシであった。
夫・アクセルは、この年の春に行われた4大コレクッション以てモデルを引退し、友人が経営するこの街にある小さなデザイン会社に就職した。モニカが生まれて以来、余程忙しくない限りアクセルは退社後、直ぐに帰宅する。多少遅くなっても、それはモニカに買ってくるオモチャ探しに時間を取られているぐらいだ。
「寒いというか、なんか夜が長いね。」
一週間後、ワタシに会いに来た中村百合が言った最初の言葉だ。
ワタシはモニカをベビーカーに乗せて、2人でこの街一番のホテルに泊まっている百合に会いに来た。
「そうね。でも、夏になるとずっと昼間よ。それにここはスウエーデンも南側。北に行ったらもっと日が短くて寒いわよ。」
「そっかあ。でも、ハルカ良く頑張っているね。」
「だって、もうワタシの居場所ここしかないから」と、笑って見せた。
「しかし、モニカは可愛いねえ。日本連れて帰ってモデルにしたいよ。」
百合は冗談とも本気とも分からないニュアンスでワタシに微笑みながら言って来た。
「ユキさん・・・。社長は元気?」
やはり、これをワタシは百合に聞きたかった。
「変わらないわよ。ハハハ。でも、ハルカの存在は大きかったって、KATEさん達と飲んだ時にポロっと言っていたわ。」
「まさかあ。だって香奈が今、相当活躍しているんでしょ。今年、春秋ともパリコレに出たって聞いてるわよ。」
「来栖香奈?まあね。でも、香奈の場合は日本のスポンサーからの推薦だからね。ハルカみたいに実力でオーデションを通っているわけじゃないから。」
「でも、他のモデルやタレントも育ってきているんでしょ。ユキさんにとってワタシは過去の人間よ。」
ワタシは笑いながら百合の目を見て言った。
「まあそうなんだけどさあ。ユキさんもね・・・」
「ん?社長何かあったの?」
「いや、別に」と百合が少し引きつった笑いをしていた。
その時はそれ程気にならなかったが、この後、百合のこの「笑い」の意味が分かる日が来ることにになる。
「私さあ。来年独立するんだよ!」
「えっ、そうなの。凄い!」
長く投稿が出来ず申し訳ありませんでした。
この物語は、ここまでとさせて頂きます。
ご愛読頂きました方々、誠に有難う御座いました。
また、別作で頑張りますので、宜しくお願い致します。