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Face of the Surface

秋風と耽美と

作者: 悟飯 粒

揺れ落ちる木の葉の中、私はゆったりと歩いていた。衣擦れの音、木枯らしの音………カサカサ、カサカサ、と私のポッカリと空いた洞穴のような心に響き渡った。

吐息が白くなる秋の夜空。この、染み渡るような青色の世界の下で、私は1人で歩いている。

いつもならミフィー君やひろみんと一緒だけれど、彼は最近魔法の習得や仕事の為に早めに帰ってしまうし、ひろみんはやり残したことがあるらしくて途中で学校に戻っていった。

久しぶりの1人の時間………数ヶ月前までは当たり前のことだったのに、今じゃ妙に心細い。孤独な夜が、私の心を柔らかく掴んでゆっくりと揺さぶるようで………ゾワゾワとした不快感で一杯だ。

……たったの2ヶ月前なのか………この学校に来てから過ぎ去った月日をなぞると、あまりにも短いことに驚いた。常に特別なことがあったわけじゃない。ただ、1回、途方もない大きな事件があっただけだ。それなのに私はこの2ヶ月間があまりにも充足した期間だったように思えてならない。ありきたりの日常………私の周りにいる人達の顔が過ぎる。……でも今は1人だ。


……どうせ家に帰っても1人なんだ。それならばいっそ…………


私は暗い夜道に従うように、ゆっくりと歩いた。


辿り着いたのは公園だった。ひろみんと初めて出会って、彼女達の話を聞いた思い出深い場所だ。

………あの時の私からすれば、あの出来事は「面白い話を聞けたな」程度だったけれど、今思えばここに至るまでに必ず必要なものだったのだろう。[こういう人達がいる]。そういう楽しくて、私からすれば幻想のような話が私をあの世界に向かわせたのだから。

………今のは私はその幻想を、ちゃんと掴めているのだろうか。いまだ手の中は空っぽのままなのだろうか。


「あらーーイリナさんじゃないですか。」


後ろから声がしてきた。聞きなれた大きそうな声だ。

後ろを振り向くと案の定胸美が立っていた。ほとんどスッピンに近いメイクに、下ろした髪。耐寒のために縦縞セーターを着ているけれど、相変わらずでかいアレのせいでなんか卑猥に見える。

胸美は表面世界で一緒に行動をしている1人だ。腹立つことに胸がでかい。だから胸美と呼んでいる。


「偶然ですね。学校帰りですか?」

「………そうだけど、そういうあんたも?」

「そうですよーー。大学帰りです。といっても私はこれから知り合いの家に行くつもりだったんですけどね。」


そう言うと胸美はベンチまで歩いていき、腰を下ろした。


「せっかく会ったんですからちょっと会話しません?」


胸美が手を招いてくる。


「………いいの?友達の家に行く予定だったんでしょ。」

「大丈夫です。私が彼女から文句を言われるだけですから。それよりも私はあなたと話したいんです。」

「ふーん………変わってるね。」

「変わってなかったら、貴方達についてはいけないですからね。」

「………確かに。」


私は胸美と向かい合うようにベンチに座った。


「飯田君はどうしたんですか?」

「あいつなら先に帰ったよ。やらなきゃいけないことが多すぎるんだってさ。」

「でしょうね、学業をこなして生徒会を滞りなく進め、仕事を成し遂げつつ魔法を修める。普通じゃ体がもちませんよ。」

「だよねー、無理してるよね。ちょっと休憩させた方が良いのかな?」


私なら確実に音をあげている。仕事はなんとでもなるが、魔法と勉強の同時並行となると………頭がもたない。


「………大丈夫ですよ。彼ならしっかりとやりきります。普通じゃないですもの。」


………確かに。


「まぁ、こんな話でお茶を濁すのも大概にして…………」


私は木で出来たテーブルに両手をついて、胸美に迫った。


「あんた達何企んでるの?」

「………企んでいるとは一体?」

「とぼけたところで意味がないってことぐらい分かってるでしょ。……あんたと黒垓君、何を目的で私達に近づいてきたの?」


カイと同じと[ある一族]であることを隠し、私達に近づいてきた。………隠していなければ何も疑うことはない。けれど、隠されていたとなると、そこには何か目的があると考えるのが自然だ。


「ただ楽しくワイワイ遊ぶ為………それじゃあダメですか?」


口をほんの少しだけ持ち上げ、薄っすらと笑う胸美。いつもの表情ではあるのだけれど、目の奥にある鋭さが私の言葉を詰まらせた。


「……ダメじゃないけど、それだけのはずがないでしょ。ミフィー君の正体を私よりも早く知ってたあんたらならね。」


彼の正体を知っていたら、私と彼がぶつかることは不可避。そこに楽しさなんて、面白さなんて微塵もない。遊ぶためだけならもっと手頃な人間がいたはずなんだ。


「………ある男の子はこう言いました。[歪だけど面白い人間がいる。]と。」

「な、なにさいきなり……」

「[面白いってどのへんが?]その話を聞いていた女の子はそう返しました。彼女は不思議だったのです。人間には興味を示さず、それ以外の全てには興味を示す男の子が、初めて人に興味を持ったからです。」


胸美は私の目を見ながらつとつとと話し始めた。まるで昔を思い耽るかのように、目を細めながら。


「そう聞くと、男の子はそれ来たことか。と、笑いながら答えました。[やりたくないと思っていても、やらなきゃいけないことには勝手に体が反応しちゃう人なんだ。……正義をなす力がある。口でしか表明できないボンクラなんかよりも素晴らしい人だ。……まぁ、泣き虫がたまに傷だけどね。いや、それのお陰でああなっているのかな?]」


………ミフィー君か?彼に当てはまるような所が何箇所かあるな………


「それを聞いてその女の子もあってみたいなー。と思ったわけです。何年前でしょうかねぇ………私が中1の時だから……」

「遥か昔でしょ。」

「かもしれませんね。」


胸美は近くに落ちていた枯れ木を拾い上げてブンブンと降って遊び始めた。


「誰だって最初は遊びから始まる。そこから知恵を得ていき、自分を通す方法を学んでいく。……誰だってそう、遊びが一番。私が彼に近づいたのは興味本位、黒垓君が彼に近づいたのは………まぁ、興味本位としておきましょうか。そして今男の子がしていることも興味本位です。」

「…………その男の子って一体誰のこと?」

「………………」


私に笑いかけて来た。しかし目の奥に鋭さはない、丸みを帯びた意思だけだ。


「なんだかんだ言って一番暴走しているのは彼ですよ。さすがにおいたが過ぎたので何回か罰を与えたのですが……人というのは変わらないものです。好きなことをしている時は特に。」


答えてくれないか……これは力尽くでも聞き出したほうがい良いんじゃないのか?

こんなに胸美が真相を語ってくれたことはない。口が緩いこの時に畳み掛けないといけない気がする………

グッ

私は拳を握りしめた。私の身体能力と反射神経なら、女の1人や2人ぐらい簡単に倒せる。


「………好きじゃないですね、そういうの。怪我というのが一番嫌いなんですよ。」


胸美はあっちの世界と違って心を聞き取れない!ならば私には圧倒的に有利なはず!

……私には情報が、圧倒的に足りない!


ダン!!

私はテーブルに左足を置いて、体を倒しながら右手で殴りかか

ピュン

私の目の前を、本当に目の前を棒切れが通過した。一瞬目に映り込んだだけ、それだけのあまりにもキレの良い速さでだ。

私はそれを見て、体が倒れるのを止めることしかできなかった。


「剣術に少しばかり精通していましてね。こんな弱い私でも、あなたを止めることぐらいはできる。」


ポイ

胸美は棒を投げ捨て、そのまま立ち上がった。


「もっとおしゃべりしていたいのですが、私も自分の身が恋しい。今日はこれぐらいにしておきますね。」


そう言うと胸美は私の元から離れていく。


「………あんたたち、本当に味方なんだよね?」

「…………さぁ?少なくともあなたの敵ではありますね。」

「はあ!?ど、どういう」

「私はあなたと違ってどこででも飯田君と会話ができる。このままだったら私に掻っ攫われますよ?あなたがつっけんどんな態度を貫くならね。」

「………どういう意味さ。」


ニコッ

胸美は今度は大きく笑った。上品さ……そんなものからは縁遠い、欲求のままの笑顔だ。しかし、目の奥には明確な鋭さが存在した。他者を傷つけても目的を達成するという鋭い意思が………


「私なら彼を奪うことが出来るという意味よ。略奪愛………ふふっ、楽しそうで良いじゃない。」


加虐の笑み……いや、なんだろうか、分からない。楽しむことだけが頭になるような、そんな満面の笑みだ。

やはりあいつらは何かを隠している………隠しまくっている。


ハァ………

1人になった公園で私は空を見上げ、息を吐いた。体に篭っていた熱が、厚い白色となって空を塗る。

考えなきゃいけないことが多すぎる………

私は再度ため息をついた。

狩虎と違い、あの日以来イリナは真の孤独から抜け出したのかもしれませんね。

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