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「旅立ちの村へようこそ!」
何度このセリフを喋ったことだろう?
ここは大陸の端、ナマールの村。
村のはずれの祠から異世界人が流れ着いて、最初に辿り着く村だから、いつからか「旅立ちの村」と言われるようになった。
異世界から来る者は、もと居た世界に帰るため、この村で情報を収集していく。
「異世界生活キター!」と、騒ぐ変わった奴もいたが、大抵はすぐに元の世界に戻れないと知り、悲壮感を漂わせることが多い。
異世界人はもと居た世界に戻るため、次の町に進む準備をこの村で整える。と言うのも、村の周りには、当たり前だがモンスターがいる。まあ、この周りではスライムだとか、ゴブリンの様な、並みの大人であれば倒せる程度のモンスターしか居ないのだが…。
ただ異世界人には特殊なようで、遭遇するや否や、武器だとか防具を急いで購入していく。
どうやら、向こうの世界ではモンスターが存在していないようで、異世界人はたかが、スライム程度にあえなく殺される事もある。そんな貧弱な異世界人が落としていく金で、この村は潤っているという訳だ。
「あーあ。このままじゃ村は異世界人だらけになってしまうよ、メル」
酒場の店員であるメアリは、不機嫌そうにつぶやいた。
「でも、メアリの店は入り浸っている異世界人のおかげで繁盛しているんだろ?問題ないじゃないか」
「ただ、どうも私は異世界人が好きになれないのよねー。私たちを人として見ていないというか…」
「ははっ。それは僕も同感」
どうやら異世界人は、僕ら、この世界の住人を同じ人間と思っていない人が多いようだ。彼らにとっては別の生き物に見えているかのように。
「今日も酒場で偉そうにしてるよ!俺は選ばれ者だとか言ってさ」
メアリはこの異世界人の客が相当嫌いなようだ。この客が来るたびに、店を抜け出して僕に愚痴を言いに来る。確かに僕も、話したことがあるが到底好きにはなれない奴ではあった。ロクにモンスターも倒せないのに英雄気取りで、例外になく、僕らを人として見ていないようだった。
「それは何度も聞いて知っているって。それよりメアリ早く店に戻らないと怒られるぞ」
これ以上同じ話を聞きたくない僕は、彼女に店に戻るよう促した。
「それはそうと、明日は満月の日よ。また祠から異世界人が来るんでしょうから、案内よろしくね!酒場の案内忘れずに!」
メアリは帰り際に、しれっと店の宣伝を依頼する強かさを見せていった。小走りに走っていく彼女の後姿を見送った後に、顔を上げ目線を夜空に向けた。
「明日はどんな人が来るのかな」
どうか、横暴で傲慢な奴が来ないことを祈りつつ、明日の準備をするために家に帰ることにした。
この世界に流れ着く目的も何もかもが分からない異世界人。
村に住みつき、当たり前のように生活をしている異世界人。
貧弱ゆえに、殺されてしまう異世界人。
もし彼らが本当に選ばれし者だったら、など幻想も抱かなくなるほど増え続ける彼らの存在意義を考えてみるも、最後は生活のためだと割り切り、それ以上考えることをやめた。
とにかく明日、僕はこの村の入り口で、毎度の様に新しく訪れる異世界人に語りかけるのだ。
「旅立ちの村へようこそ!」
思い立ったらまた続き書きます。