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感想とか、評価とか、くださってもいいんですよ?(/ω・\)チラッ
高価そうな調度品がバランス良く飾られている大きな部屋。
その部屋に長方形に並べられた長机には多くの人影があった。
「王女殿下、此度の件ですが――」
口を開いたのはそこに腰掛ける老人だ。
それを受けたセラフィーナ(勿論一番上座に座っている)は静かに先を促した。
「かの異世界人を保護する理由は他国へ対する戦力と牽制であったはずですが…使い物にならないと判明した今、彼の者を保護しておく必要はないのでは?」
周りにいる者からも賛同の声が上がる。
「ゼイル殿、でしたか? 国際情勢が不安定な今、奴にかける資金を軍備に回したほうがよろしいかと」
「聞くに彼はなんの魔法適正もなかったようではないですか。それに能力についても不明とか――きっとなんの価値もないありふれた能力でしょう」
この場にもしゼイルがいたら憤慨しそうなことである。
事実、グラノスを取り巻く環境はとてもいいとはいえない。
ゼイルを洗脳した王国、アルド王国と敵対しているだけではなく、アルド王国傘下の小諸国とも事を構えているのだ。
まだ本格的な戦場はないものの、各地では小競り合いが散発している。
そういう意味では彼が言っていることは理に適っていた。
そして、能力について。
この世界における能力とは広く一般的なものであり、その殆どは生活が少し豊かになる程度のものである。
戦闘に役立つ、それもただ一人で戦局を覆すようなことが可能となるような能力は極めて稀であった。
ゼイルがそのような能力を持っているという可能性も同様に低いと考えるのは至極自然な流れだ。
「では、彼の者が王城へ侵入した時の圧倒的な力量はなんとする?」
しかし、中にはゼイル援護派の人間もいた。
その筆頭がヴァン・ホルド・セレザール。グラノスにおける軍務長官である。
「それは――」
「きっと洗脳により強化されていたのでしょう」
思わず言い淀んだ貴族の後を別の貴族が続ける。
「洗脳下では弱体化するというのが常識のはずでは?」
「憎きアルド王国の豚が新しい洗脳魔法を生んだのかもしれんぞ」
「きっとそうに違いない!」
段々と雲行きが怪しくなってきたようである。
皆頭に血が上っているようだ。
「洗脳されて恐怖心がないというのも理由かもしれんぞ」
「おお、そうだ! 恐怖心というのは人間の戦闘力を下げる大きな理由ですからな!」
「そもそも彼は罪人だ!」
「そうだ! 処刑すべきではないのですか?!」
「そうですぞ! なぜ王家殺しの咎人を保護せねばならんのか!」
「奴めはまだこの王城内にいるのだろう! 早く捕らえるのだ!」
「王女殿下!」
セラフィーナの背後に控える騎士が会議をなだめようとするのを彼女が静かに手で制した。
「あなた達は」
それはとても静かな口調であった。
「我がセラフィーナの名において一度は許した罪にて彼を処断すると?」
「そ、それは…」
「罪を許した上で名付けを行いました。そして、その場にて彼の身の安全を約束しました。それを反故にすると?」
静かに怒る王女に周りの人間は何も言えなくなる。
ゼイル処刑を叫んでいた者はうつむいていた。
「――我が王室の名に傷をつけろ、と?」
もはや誰からも声は上がらなかった。
それを見て小さく溜め息をつくセラフィーナ。
「彼の処遇についてはこれから考慮します。しかし、彼を害そうとするものには厳しい処断を下すことをお忘れなきよう」
その厳しい声に、これからの魔導王国の行く末を憂う皆が安心感を覚えた。
ただ一人、うつむいて唇を噛みしめる若者を除いて。