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だいぶ投稿が遅れてしまいました…くっ卒論め…!!
「以上が俺の覚えてる…全てのことだ」
自分の中での整理も兼ねて、可能な限り客観的に状況を話した。
あと話していないことと言えば転移?前のことだろうが――そこは話さなくてもいいだろう。いつもと違うことは特に何もしていないはずだ。
「…異世界転移の勇者、ね」
ぽつり、と。
セラフィーナは小さく呟いた。
「信じてくれるのか…?」
異世界転移とか、自分でもほとんど納得がいっていないのに、それを否定しないセラフィーナに思わず一歩近寄る。
途端、嫌そうな顔をして同じ分だけ下がって距離を取るセラフィーナだったが…。
「…ええ。あの国王が異世界からの勇者召喚の秘術を取り戻した、というのは確かな情報よ。あなたがその勇者かどうかは差し置いて、ね」
セラフィーナの語り口調からして自分を咎める気がそこまでないような気がして、最も気にかかっていた部分について聞くことにする。
「さっき、お前は俺が洗脳されていた、と言ったな? なぜわかったんだ」
「それは――」
セラフィーナが無言で胸元にあるネックレスを掲げる。
金色の台座には普通なら大きな宝石が嵌っていて、見るもの全てを魅惑するだろう。
しかし、今はその宝石は無残にも砕け散り、細かな破片が残るだけとなっていた。
「そのネックレスが一体…」
「これは破魔の楔。第三者によって命の危険が迫った時に、自分から一定範囲の中にいるものの魔法を全て解除する、といった効果があるの。普通なら相手の身体強化魔法や拘束魔法を解除するものなのだけれど…今回はあなたにかかっていた洗脳魔法が解除されたみたいね」
なるほど。
確かにそういうことならば辻褄は合う。
「あの男のやりそうなことだわ…。どうせ召喚して間もないあなたに玉座の上からふんぞり返って命令でもしたのでしょう?」
「まるで見てきたかのように言うんだな…いやまあ、その通りなんだが」
「生憎と縁が深い相手みたいでね」
そこでセラフィーナは小さく溜め息をついて首を振ると、思いもよらぬ言葉を口にした。
「それで、あなたはこれからどうするの?」
てっきりこのまま処刑でもされるのだろうと逃げる算段を整えていた俺は思わず大きく呆けてしまう。
「…何も考えていなかったような顔ね」
「あ、ああ…てっきり処刑されるのだろうと」
「故意ならともかく、洗脳されて操られていた者を処刑しようとは思わないわ。気づいてないかもしれないけれど、あなたも被害者なのよ」
そう言うセラフィーナに――
「俺は…俺を、この国においてくれないか」
まっすぐと視線をそらさずに言った。
返答はない。おそらく理由を話すのを待っているのだろう。
「この世界に来たばかりの俺は何も知らないし何も出来ない。きっとこの国を出たらすぐに野垂れ死ぬだろう。そうしろ、というなら何も言い返せないが…気になったんだ、この国のことが。お前たちは――その、おまえの、父親…は」
あまりの言いづらさに言葉が淀む。
しかしセラフィーナはまっすぐこちらを見つめながらも無言で先を促してきた。
「あの国王が魔王、と呼ぶ存在だ。ならばおまえは魔王の娘ということになる。しかし、実際に見てみれば…とてもそんなようには見えない、というのが正直な感想だ。俺に洗脳を施した、ということからも今の俺にはあの国のほうが歪んで見える。だから、この目で見て確かめたい。真実を見たい。」
その言葉を受け取ったセラフィーナはしばしの間黙っていた。きっとそうした場合のメリットデメリットなどについて考えているのだろう。
「今、あの国とは戦争状態にある」
そう呟くセラフィーナ。
そしてそれが意味することを察しとる。
「…願ってもない。あいつらのしたことは裏切りだ。報復が許されるならば」
再び黙ってしまったセラフィーナ。
しかし、数秒して彼女は口を開く。
「王殺しの犯人は公表しない。ガウル王国――あの国の手の者がしたということにしておく」
そう言うセラフィーナに思わず小さく安堵の溜め息をつく。
しかし彼女はこう続けた。
「けど、人の噂に戸は立てられない。あなたを見た兵、あなたに目の前で身内を殺された家族…きっとあなたを見た者は少なくない。そういった者からは強い反発を招くことになる。この国においてきっとあなたの立ち位置は厳しいものになるわ。それでも意志は変わらない?」
数秒の間をおいて、小さく頷く。
そんなことはわかりきっていることだ。
洗脳されていたとはいえ、一国の主を殺しておきながらその国に留まる。
簡単に行くはずがないのだ。
しかし、だからこそ。
だからこそ、真実を確かめなくては。
あの男が言っていた言葉の真偽を。
目の前の女が言う言葉の真偽を。
俺がしたことの真相を。
そして――召喚されたことについて。
日本に帰ることが最終目的となるだろうが、今は一旦忘れよう。
そんなことは後でいい。
まずはなんとしてでもあの男…ガウル王国とか言ったか。あの玉座の間にいた奴らに復讐を。
「…そういえばあなたの名前を聞いてなかった」
名前か。
鷹野裕貴と名乗ることには少し抵抗を覚えた。
それに、その名は奴らにも知られている。
洗脳が解けたかどうか、奴らが知っているかどうかはわからない。
が、名前は変えたほうがいろいろと得策だろう。
しかし、違う名前を名乗ろうにもこの世界のことがまるでわからない為、違和感のない名が考えつかない。
それに後から偽名だと発覚すればいろいろと面倒なことになりそうだ。
「名乗ろうにも…今の俺には名前がない。だから俺に名前をくれないか」
一瞬、セラフィーナは驚いたようだった。
そしてまた一瞬、深く何かを考えたようで。
しかし次の瞬間にはまた元の顔に戻っていた。
「…臨時国王代理として、我が国におけるゼイルの居場所を保証することをここに約束する――ようこそゼイル、魔導王国グラノスへ」