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裏切り勇者の英雄譚  作者: のるん
3/15

3

間違えたあああああ!

予約投稿するつもりがああああああ!

「跪け」


 目の前の、恐らくは玉座であろう豪奢な椅子に腰掛けた、これまた豪奢というか、趣味が悪いというか…とにかく金ピカなデブの第一声はこれだった。

 意味がわからず呆けてしまったことを誰が責められようか。


 と、いうのも…先程までバイト先のコンビニのレジに立っていたはずなのだ。

 いつも通り、全く客が来ない田舎の謎立地のコンビニで、いつも通り客の来ない暇な時間を持て余していた。

 ところが、突然目を開けていられないほどに激しい光が辺りに満ち、そしてそれはとても耐えられるような光ではなく目をぎゅっと閉じた。

 その強烈な眩しさは2分ほどにも及んだだろうか。

 ようやく光が収まってきたので目を開いたところ、先ほどの一言を言われたのだ。

 隕石でも落ちてきて地球が滅んだのかとも思ったのだが、どうやらそういうわけではないようだ。

 とにかく、何が言いたいかというと――


「は?」


 ――この一言に尽きる。

 なんと便利な言葉だろうか。

 相手に説明を求めつつ、更に言葉に不満を乗せて相手を攻撃することもできるのだ。

 残念ながらこの場においてこれ以上にふさわしいであろう言葉を持ちえてはいなかった。

 そして、それに対する返答も至極明快なものであった。


「貴様――! 王が跪けと仰せなのだ! 跪かんかぁ!!」


 背後から聞いたこともないような棘を含む大声。

 そして何かが背中を強く打ち据えた。

 あまりの激痛に思わず小さく悲鳴を漏らしながらも、膝を床についてしまう。


 可能な限り小さな動作で後ろに目をやってみれば、そこには玉座に腰掛けるデブほどではないが、これまた豪華な服を着たいけすかない顔をした男がいた。

 鞘に収めたままの剣を握っていることからして、おそらくその鞘で背中を打たれたのだろう。


「――て、めえ…!」


 一気に頭に血が上り、打たれて未だに激痛が残る背中を庇いながらも背後の男へと近寄ろうとする。

 完全にキレながらも、頭の片隅では冷静に付近に武器となるものがないかを探す。

 しかし玉座や、何よりも先ほど王と言っていたことからこの空間が散らかっていようはずもなく、結局は何も得られずに拳を固めて跳びかかった。


 完全に間合いの内。

 実は趣味とはいえ、日本にいた頃はいくつかの格闘技を習っていた。そしてその中には長物の武器を持つ相手に対する対処も存在する。

 よって、いつもやっている通りの動きで相手を無力化しようとしたのだが――


「うっ?!」


 唐突に体が言うことを聞かなくなったかのような現象が起き、体中から力が抜けて受け身も取れずに地面へと落下する。

 慣性に従った体はうつぶせに落下した後、床を滑り剣を持つ男のもとまで滑っていく。

 なにが起きたのか全くわからないが、とりあえず体に全く力が入らない。

 

「…なんと好戦的な…。王よ、本当にこのような者が…?」


 そう言う男に足で体を転がされ、仰向けにされる。

 なんとか目線だけは動かすことができた為、殺すつもりであると言わんばかりの目で男を睨みつけた。


「よい。其奴を連れて参れ」


 先ほど王と呼ばれていたデブがそう告げると、体が勝手に床を滑り出した。

 ずるずる、という感じではなく氷の上を滑るようになめらかな動き。


「立たせよ」


 抵抗もできず、無様に王の前へと引きずり出されると、今度は体が勝手に起き上がり、勝手に跪かされた。


「その者、名はなんという」


 そう聞かれたが答えない。睨まれる対象が剣を持つ男から目の前のデブへと変わっただけであった。


「貴様――! なんだその目は!!」


 再び激高した男に背中を打ち据えられる。 

 衝撃を受け流そうにも体が動かず、床へと倒れこむがまたしても体が勝手に起き上がり跪く姿勢となった。

 それでも睨むのをやめない。

 そうすると当然、また背中を打ち据えられ床へと崩れる。そして跪かされる。

 

 そんなことが何回続いただろうか。

 デブが口を開いた。


「…よい。自白魔法を使え」

「はっ、了解致しました」


(――今、なんて言った? 自白魔法? 魔法? 一体なんのことだ…?)


 聞き覚えのない言葉に混乱する。

 自白剤のことを比喩しているのか、とも考えたがどうもそうではないようだ。

 なぜならばもう一度名前を聞かれた時、答えるつもりは全くなかったにも関わらず、口が勝手に動いて声を紡いだからである。


「そうか、タカノユウキというのか。タカノよ、貴様はこれから魔王を倒す旅に出るのだ」

「なんの話をしている」


 どうやらこれは思ったこと、頭の中に浮かべたことがそのまま言葉になってしまっているようだ。

 魔法――その存在をひとまずは認めることにする。

 本来ならば一笑に付してしまうところだが、魔法の存在を認めれば先程から体が操られているという現象にもとりあえず説明がつくからである。


「貴様! 王に向かってその言葉遣いはなんだ!!」


 何度目かもわからぬ打擲。

 

「現在、我が国は残虐非道で人を人とも思わん魔族の侵攻を受けていてな。毎日なんの非もない我が国民が奴らに虐殺されているのだ。お前にはその魔族を束ねる魔王の討伐に向かってもらう」

「断る」

 

 そう告げるデブに即答で返事をしてやると、またしても罵声とともに背中を打たれた。


「…人を打つことしかできねえのかてめえは」


 その言葉に頭に血が上ったのだろう。

 男は無言で何度も何度も剣を打ち付けた。

 

 コンビニの制服の背中は既に大きく破れ、赤く腫れ上がりところどころ血を滲ませていた。

 跪いている背中を前に、呼吸を乱して肩で息をしていた男は袖で額に浮かんだ汗を拭うと、王の近くへと歩いて行く。

 

 そして王と一言二言、小声で何かを話した男はその顔に陰湿な笑みを浮かべる。

 既に半分意識が飛びかけて朧気な視界の中、男がこちらへと歩いてくる。

 そして男にこめかみを掴まれると同時に、意識が闇の底へと落ちていった。


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