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後話との間で矛盾があった為訂正しました
「お、俺が…お前の家族を…?」
呆然と呟く。
目の前の少女は少しだけ肩の力を抜いたように見えたが、依然としてこちらを睨みながらも小さく頷いた。
「…覚えてないの?」
何度も言うがそんな記憶はない。
しかし、夥しい量の血に染まった自分の体を見ていると、否定出来ない。
むしろ客観的に判断するならば、事実である可能性のほうが高い。
しかし、認められない。
認めるわけにはいかない。
何より、俺の全霊が認めたくないと叫んでいた。
「…ここがどこだか、わかる?」
「いや…全く検討もつかない…」
「…そう」
少女はしばしの間黙って何かを考えている様子だった。
その様子を見ているうちに少し心が落ち着いてきて、初めてしっかりと思考を重ねる。
どうも今いる場所はどこかの城のようだ。
それはこの控えめではあるものの絢爛さを感じさせる内装と、背後に聳える玉座を見る限り明白である。
自分の足元を見れば血だまりが、そしてそれは背後の玉座の方へと血の跡が続いていた。
目の前の少女を改めてよく観察してみる。
服装は城を基調としたおとなしめのドレス。局所局所にフリルがあしらわれてはいるものの、それは動きを阻害するようなものではなく、あくまで控えめだ。
先程はただただ美人としか感じなかったが、こうして落ち着いて見てみるとどことなく高貴さを伺えた。
ただそれらは全て、その元々は純白であったであろうドレス、そして少女の美しい顔と金色に輝く髪を染め上げている真っ赤な血のせいで一気に猟奇的な雰囲気になっていた。
少女を見る限りではどこも怪我をしていそうな様子はないし、ドレスが破れているといった様子もない。
つまり、その全身を染め上げている血は誰か別の人の血であるということなのだろうが――
「…お前は貴族か何かなのか?」
いろいろ考えた末に出てきた言葉がこれだ。我ながらどうかとは思うが…一度出してしまった言葉は取り消せない。
それを受けて少女は数秒開けた後、静かに口を開く。
「…王女よ」
――ちょっと待て。
ちょっと待ってくれ。
王女?
ということはなんだ?
俺は王子や王女、そして国王を殺したと言うのか?
「い、いや…だが…」
目の前の少女に見覚えはない。
俺が知っている王族ではない。
「名前…お前の名前は…?」
「…セラフィーナ。セラフィーナ・ヴァン・ファルツ」
やはり聞き覚えのない名前だ。
しかし、今は何があったのか、それをまずはっきりとさせるべきだろう。
自分が何をしたのかがわからなければどうしようもない。
「俺は一体、何をしたんだ?」
「…本当に、覚えていないの?」
「ああ…全く。王城でクソみたいな王の臣下に何かされたと思ったらここにいた」
「…洗脳されていた間の記憶が抜け落ちていると考えれば説明はつくけれど」
「…洗脳?」
聞き捨てならないワードに思わず反応する。
洗脳。
単語としては、意味は知っているが日常生活においておよそ使われる言葉ではない。
そしてそれの意味するところもまったくわからない。
「あなたは…私の家族――私と母上を除く、ファルツ王家の人々を皆殺しにした。たとえ洗脳されていて記憶がなかろうがその事実は変わらない」
「ちょ、ちょっと待て…。洗脳って一体どういうことなんだ?」
訳のわからないまま話を進行させようとするセラフィーナにストップを焦ってかけると説明を要求する。
「…いくらなんでも、洗脳の意味することくらい、わかるでしょう?」
こちらを強く睨みながら、一字一字に恨みを乗せるように言うセラフィーナに俺は首を振る。
打ち明けるべきか迷うが…賭けと思って言ってしまおう。これ以上状況が悪化することもないだろうしな。
「俺は異世界から召喚されたばかりなんだ。正直言って、お前が言う洗脳とやらについては何もわからない。と、いうよりも――」
一旦間を置くと、周りを見回してから言う。
「今の状況について、何一つわからない」
セラフィーナの目つきは変わらないまま。
まるで本当かどうか、言葉の真偽を疑っていたようだが、しばらくして彼女は口を開いた。
「…詳しく聞かせて」