第8話 購入
「こっちの山の一角に生えていた霊樹は全て他の場所に移動させた。だから、気兼ねなく開拓をすると良い。近くには、果物の木に川も用意している」
もう、あれだ。この時点でエルフたちの目が統治者たちと同レベルになっている。
中には、拝みだす奴もいるんだが?
その中で感謝を述べたのはドワーフ族のオッサンだった。
「何から何まで、感謝する、いや、感謝します!」
ガンロックは話せば話すほど顔色が悪くなっているな。
正直なところ、俺もそういう経験がある。
あれは、中学2年生の頃、当時から何にも興味も無く、やる気ゼロだった俺が何故か生徒会長の候補に推薦され、落選する為にお決まりの台詞を適当に言っていたらいつの間にか生徒会長になっていたという哀しい歴史がある。
し・か・も、ぶっちぎりの1番人気だ。ふざけんな、唯の嫌がらせだろうが!と当時は何度も思った。
だから、ガンロックにも後で「無理するな」と声をかけておくか。
だが、その前にもう1つやることがある。
俺は草原の端に移動する。
その後ろを統治者2人とエルフ族とドワーフ族がゾロゾロと着いて来る。
「うん、この辺りで良いか」
俺は手に持っていたタブレットを再度起動させ、購入のページを開く。
うぅ……、どれが良いのか分からん。
あ、購入者からの評価が1番高いのはこれか…………。
てっ、DP高!ん?なになに、分割払い可能?更に、希少な鉱石もランダムでプレゼントされるだと!
……一応、コメントも一応確認しておくか。
1,めっちゃ良い!
2,いやー、此処まで設備が揃ってるとは驚きだな。
3,レア鉱石キターー!!!
4,これで異世界無双ができる!!?
5,ギヒヒヒ、良い、凄く良い、僕ちゃんのインスピレーションが刺激されて堪らない!!
6,エクスカリバーを作るのは、君だ!……いや、俺だぁぁぁあああ!!
………………etc
途中からコメントが可笑しくなったが、兎に角、良いって事は分かった、かな?
まぁ、悩んでてもしょうがない。購入してみよう。
俺はタブレットの購入ボタンを押し、マスター認証を行った。
マスター認証とは、単純にタブレットの画面に自分の魔力を流すだけだ。
本来、わざわざダンジョンコアというダンジョンの核を通さなければいけない作業もこれがあれば簡単だ。
そうこう考えてる間に、俺の設定した場所に巨大な魔法陣とそこから光が立ち上った。
「「「「!!!??」」」」
「あははは、わらけてしまうなぁー」
「旦那様、自重して下さい」
という言葉を背中から受けながら、目の前に現れた威圧感のある建物を見て俺は満足気に頷く。
目の前にあるのは、家というには大き過ぎる建物、そう此処はーー
「ーー鍛冶屋だ」
俺はガンロックを見て言った。
呆然と俺を見上げるガンロックを連れて中に入る。
中は隅々まで綺麗で、埃や傷は何処にも見当たらない。しかし、この建物自体が魔力を放っていて唯の鍛冶屋ではないことが直ぐに分かった。
メレアとクラマは何が来ても良いように臨戦態勢を取っている。
「安心しろ。敵などいない。既にこの建物は、俺の空間魔法の領域だ」
それを聞き、2人は臨戦態勢を解く。
その後、ガンロックとドワーフたちを連れ鍛冶屋内を見回った。しかし、気付いてはいたがこの建物、中の空間がねじ曲がっていて外観とは広さが全く違う。
だが、既に空間魔法でこの建物の構造を把握した俺はタブレットに映し出される地図を元にドワーフたちを案内した。
勿論、地図はDPでコピーしてガンロックに10枚ほど渡しておいた。
コピーは10枚で1DPなのだ。
そして、お待ちかね、鍛冶場に到着するとそこらじゅうに鍛冶に使う道具が綺麗に立てかけてあり炉も見た目は立派だ。
「見て来い」
俺の言葉を受け、ガンロックは数名のドワーフ族を連れて道具の確認を行う。
俺は鍛冶については、完全な素人だ。物の良さを判断するのは、俺ではなくドワーフたちだ。
暫く、じっくりと道具や炉、部屋の確認を終えたガンロックに聞いてみる。
「どうだった?」
やべー、何かドキドキする。
「すげーよ!いや、素晴らしい、です!!
どれもこれも、一級品の道具ばかりです!」
「そ、そうか!それは良かった!」
俺は思わず、ガンロックの残っている右手を握った。
それに驚くガンロックを見て、咄嗟に手を離す。
ヤベー、俺の白骨化した骨の手に触られても誰も喜ばねぇよな。
気まずくなった空気を咳払いー咳など出ないがーをして誤魔化す。
「では最後に鉱石を見に行くか」
俺は、鉱石を保管しておく倉庫に向かい、勢い良く扉を開ける。
だが、1つ忘れていた。
この倉庫が俺の探知系空間魔法を弾いたことを。
開いた後、それに気付き身構えたが何も起こらず目の前には黒い闇が広がっているようにー俺とメレアを覗きー見えた。
「何だ?暗いな」
踏み出そうとしたガンロックを手で制して、俺は闇に手を翳す。
そして、魔法を発動する。
「〝暴食の顎〟」
その瞬間、闇が消え、辺りを濃密な魔力が包む前に空間魔法で全員を護る。
「これは、一体」
「何でありんしょーね?」
「おそらく、奥にある鉱石の所為だろう」
俺たちは奥の台座の上に置かれた人間の赤ん坊程の大きさの鉱石に近付き観察する。
見た目は、漆黒の石だ。
しかし、倉庫の屋根と足下に取り付けられた明かりの光を吸い込んでいるようにすら見える。
「〝上位魔法鑑定〟」
《鑑定中…………鑑定完了。鉱石名、ブラック・アダマント。全ての金属の頂点に立つ鉱石。神話の時代、神が武器の素材に使用。》
「ブラック・アダマント……」
俺の言葉にドワーフたちが一斉に俺を振り向く。
「どうやら、この鉱石はブラック・アダマントというらしい」
「ま、まさか、そんな、これが伝説、いや、神話の鉱石!!?」
不意に触れようとするドワーフを止める。
「止めておけ。今は俺の魔法で防いでいるが、本来は君たちが近付くことができないほどの魔力を放っている」
その証明に、ドワーフ族に張っていた魔法を緩める。その瞬間、数名が膝をつき、全員の顔が青白く染まった。
ガンロックだけは、表情を顰める程度だ。
……ふむ、神話の鉱石でも加工出来なければ宝の持ち腐れだな。
……いや、これを利用すれば良いか。
確か、この建物には鉱石を展示する部屋もあったな。良し、そこに今度移そう。
「君たちでは、このブラック・アダマントの加工は不可能だ。だが、何れ君たちの中で加工できるものが現れるのを願っているぞ」
俺の言葉にドワーフ族全員が目に炎を宿す。
「はっ!ドワーフ族一丸となり、神話の鉱石に相応しい種族となれるよう努力する、いや、します!!」
「期待しておく」
そこで俺は指をパチンッと鳴らす。
どうやって、骨の指でこの音を出しているかは疑問だがな。
すると、俺たちの周りの空間が歪み、いつの間にか鍛冶屋の目の前に立っていた。
鍛冶屋に入らず待っていたエルフ族が目を見開き驚愕している。
……いや、エアリィだけは目をキラキラさせているな。
「ガンロック」
未だに困惑しているドワーフの長の名を呼ぶ。
「へい!、あ、はい!」
「ガンロック、普通に話して良いぞ」
「え?し、しかし……」
俺の言葉に戸惑うガンロックには分からないように溜め息を吐く。
「まぁ、考えておけ。
それより、この鍛冶屋はお君に任せる。鉱石は、この山の何処かにある。自分で探せ」
「えっ!!?」
「勿論、責任者は君だが、管理者はクラマだ。鉱石を掘る許可などは、全てクラマに確認しろ」
俺がクラマに視線を向ければ、承諾の礼で返された。
だが、ガンロックの表情は晴れない。
「何か、不満でもあるのか?」
確かに無理矢理押し付けても、良い成果は出ないよな。
「いえ、俺は、左腕を失いました。俺は、もう鍛冶職人として、死んだドワーフ族です。だからーー」
「ーーその腕を失ったのはいつだ?」
「……故郷の村が襲われた時です」
「分かった。なら、俺が治してやる」
「はぁ?」
俺の言葉を理解できていないのか戸惑いワタワタとするガンロック。
「その場を動くな。動いたら、命の保証はしない」
それを聞いてピタリと動きを止めたガンロックの前で俺は右手を出し、軽く握る。
そして、魔力をその右手に集める。
すると、骨の手である筈の右手から血のような物が流れ落ちる。
「我、愚かなる愚者は、神を喰らう者
故に大罪者であり、全てを与えられし者
だが、我が望みは唯一つ、命の再生なり
我が罪深き、血を捧げよう、
我が至高たる、命を捧げよう
満たされし我の紅き雫よ、我が血を糧に描け
〝禁呪 神血の宴〟」
俺がゼウスの神力と一緒に奪い、この1ヶ月で身に付けた神術を発動する。
ガンロックの足下に血のように紅い魔法陣が浮かび上がり、そこからまるで血のような赤い液体が湧き出しガンロックの左肘に集う。液体は形を変え、失った筈の左腕が再生した。
その結果を見届けたように、魔法陣は消え、俺の流れ落ちていた血も止まった。
未だに現状が理解出来ていないガンロックに背を向け〈迷宮門〉を開く。
そこへ、エアリィの声が届く。
「ヤト様!お怪我は!?」
「安心しろ。あれは、魔力を血のように具現化させただけだ。傷を負った訳ではない」
見るからにホッとしたエアリィから視線を外す前に、足下に誰かが凄い勢いで跪いた。
視線を向ければガンロックだった。
「このドワーフ族が長、ガンロック・ベルド。至高の存在たる貴方様に、この全てを捧げ忠誠を誓います!」
もう流石に疲れたので適当に応えておく。
「まずは、結果で示してくれ」
それだけ言うと、俺は〈迷宮門〉を通り執務室へと戻って来た。
「第四階層は、明日行く」
メレアにそれを伝えると、「その方がよろしいかと」と応えが返って来た。
しかし、執務室には先程よりも増えた書類の山が目に入った。
「さて、休憩もここまでにして、仕事をして下さい」
俺は、背中に大鎌を手に持つ死神を笑顔で装備するメレアに逆らうことができず、書類確認に没頭するのであった。