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第6話 解決

あ、私はエアリィ・メールって言います。


名前の意味は、大空に飛び立つ様に育って欲しいって願いが込められているそうです。


いやー名前の意味って深いよね……。


私達エルフ族は名前に意味を込めて付けるのが習慣だから、名前によって親の思いが分かっちゃうんだよね。


例えば、燃える様に熱く育って欲しければ、フレムとかで、清水の様に清らかに育って欲しければ、アクリナなんて名前を付けるんだよ。


……ん?どうして急にこんな事を思い出しているのか?


そんなの現実逃避に決まってるじゃん!


「きゃゃぁぁあああ!!!?」


今、私がいるのは超高い空の上です。


お父さん、お母さん、願い叶ったみたいだよ……。


…………飛び立つんじゃなくて、現在進行形で落ちてるけどね!




◇ ◇ ◇ ◇



さっきから騒いでいるエアリィに再度〝惰眠の旋律(ヒュプノス)〟をかけ落ち着かせる。


「な、何で空の上なんですか!」


「こっちの方が生き残りを探す手間が省ける。君は黙って見ていろ」


「……はい」


俺は煙が上がる集落に向けて魔法を発動した。


「〝生命探知ライフ・センサー〟」


魔法を発動すると赤い密集した点が村の奥に集まり、その周りを赤い点が囲み、更に離れた位置に村の中の敵と思われる兵士と同じ数の兵士が待機している事が分かった。


他には……魔物と思われる生命しか感知出来ないな。


つまり、他に生き残りがいないか魔法の範囲外まで逃げたのだろう。


続いて違う魔法も発動する。


「〝魔力探知マナ・センサー〟〝鷹の目(ホーク・アイ)〟」


膨れ上がる魔力を感知し、〝鷹の目〟で素早く状況を確認した。


くそ、不味い!


「メレア!先に行くぞ!」


少し後方を追従しているメレアに声をかけ、返事を聞く前に魔法を発動する。


「〝上位転移テレポーテーション〟」




放たれる魔法と武器の数々。


その場にいた住人達は自らの死を、騎士達は敵である他種族の死を連想する。


事実、目の前に迫る攻撃は彼等の命を奪うには充分な威力があった。


そう誰もが思っていたーー


「間に合ったな」


ーー俺が現れるまではな。


「〝怠惰の波動(ベルフェゴール)〟」


呟かれる詠唱。

そして、全方位に放たれる不可視の波動。


しかし、その効果は一目で誰もが理解出来た。


放たれた魔法が消え、勢い良く迫っていた武器もまるで途中で勢いが失われた様に地面に転がる。


目の前の現実に呆然とする騎士と住民達を無視して俺はエアリィを地面に下ろす。


「エアリィ。住人達を一ヶ所に集め大人しくさせろ」


「は、はいぃ!!」


何故か敬礼をしてから住人達の方に全力で走って行くエアリィを見送る。


「全く、勝手な行動は慎んで下さい」


黒い翼をはためかせ優雅に着地したメレアに視線を向ける。


「結果オーライだろ?」


「……まぁ、そのようですね」


次の瞬間にメレアの背中の黒い翼は幻の様に消えた。


メレアの言葉に少しだけ機嫌を良くして次の魔法を発動する。


「〝空間断絶結界〟」


上位の空間魔法の中でも特に扱いが難しい魔法だ。

効果は名の通り空間を断絶する結界を張る事が出来る。破るにはそれこそ空間を斬ったり、俺と同等の空間魔法の使い手でない限り破るのは不可能だ。


俺たちの登場に騒つく周囲を無視して俺は考えていた言葉を紡ぐ。


「初めまして、人間の皆さん。俺は、ヤト・リュウガイと言います。急で申し訳ありませんが、騎士の皆さんには此処で死んで貰います」


とは言ったが、騎士達も数人生け捕りにして情報を吐かせるつもりだ。


だが、数は出来るだけ少なくする必要がある。奴隷にするにしろダンジョン内で殺すにしろ面倒事は少ないに越した事はない。



そこで俺は気付いた。

自分は既に心まで人とは違うアンデッドになっている事に。

でも、不思議と嫌な気分ではない。

寧ろ、これから起きる事に対する好奇心の方が上回っている。


元々俺は人間である事に拘りを持つ様な人間ではなかったしな。


「ふ、ふざけるなぁ!」


正気に戻った周りよりも高そうな騎士鎧を纏っていた男性が叫ぶ。


「奴を殺せ!私を不快にさせたあの化け物を早く殺せ!!」


うるせぇな。


「せめて、安らかな死ね。〝怠惰の波動(ベルフェゴール)〟」


まるで死神が死の風を纏い通り過ぎたかの様に、波動を浴びた騎士達は重力に引かれ地面に倒れて行く。


生き残ったのは後方にいた騎士数人だけだった。その騎士達も倒れ動く事が出来ない。


「11人?思ったより多いな。力を加減し過ぎたか?」


「旦那様の目は節穴ですか?生き残りは12人です」


俺はメレアの視線の先にいる騎士を見る。


外れたフェイスフェルムから相手が金髪碧眼の少女だという事が直ぐに分かった。


しかし、死んでないと言うだけで立つ事も出来ず目も虚ろだ。


「……その様だな」


あの距離で生きていたのか……。


他の生き残りは最後列に立っていた連中だったが、少女は真ん中より前に倒れていた。

それだけで少女が只者ではないか、それとも何かしらの潜在能力を秘めている可能性がある事が分かった。


……まぁ、今は放置で良いだろう。



生き残った住人達の方を振り向くと全員の視線が向けられていた。

その殆どが恐怖から来る物なのは直ぐに分かった。


しかし、誰も俺に敵意は向けても武器を向けようとはしない。


「エアリィ、事情は俺の家に来てから説明してくれ」


「はい!皆さん、此処は何があろうとヤト様に従って下さい!!」


俺の力を見た後では誰もエアリィの言う事に反対する者はいなかった。


「あぁ、君達」


俺は槍を持っていたエルフと小柄な中年……ドワーフのおじさん達に声をかける。

当然だが、皆震えているな。


「悪いんだが、生きている騎士達も連れて行ってくれないか」


「あ、あの、連れて行くって……」


「俺の家にだよ〝転移黒門ゲート〟」


「「「!!!?」」」


目の前に現れた闇に唖然とする住人達に俺は出来るだけ優しく声をかけた。


「さぁ、門は開いたぞ」





動けない騎士達を連れ住人達が次々に黒い闇の中に入って行く。

中には恐怖から泣き出す者もいるが、エアリィや他の者達に引きづられる様にして闇の中に連れ込まれている。


その様子を眺めながら傍に立つメレアに声をかける。


「……メレア」


「何でしょうか、旦那様」


「……疲れたから、休んで良いよな?」


今日、30日の長期休暇が終わったばかりだが一応聞いてみる。


「全く……明日からは身を粉にして働いて下さいね」


「え、良いの?」


絶対に駄目って言われると思っていたが、意外だな。


「2度も同じことを言わせないで下さい。童貞難聴ニート」


「おい、何か増えてないか……」


「増えるのが嫌なら明日から、骨を粉にするくらい働いて下さい」


辛辣な毒舌がメレアからほとばしる。


「……笑えない冗談だな」


何はともあれ、休憩が貰えたのは嬉しいな……。

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