第5話 決断
「メレア、エルフの村を見る事は出来るか?」
「はい。以前にユーフィルとエルフの村の視察に行きましたので」
悔しいがメレアは超が付く程に優秀なメイドだ。
あの辛辣な毒舌さえなければ、それこそ完璧なのだが……。
そんな事を考えている間にユーフィルが情報系の水魔法を発動し、エルフの村が映し出された。
そこに映し出されれていた光景は、俺が予想していたものと同じだった。
家と森が燃え、兵士達が村に迫っている。
襲っている兵士が纏っているのは統一された白い鎧。
「う、嘘……」
「……」
姉の方は映し出された光景に呆然とし、妹の方は良く現状が理解出来ていないようだ。
「さて、先の質問の続きをしよう。
妹を連れ死を覚悟して村に戻るか、それともこのまま逃げるか」
「そんな……」
自分が酷い事を言っている自覚はあるが、俺は既に人間ではない。
「たが、もし君達が望むならここで雇っても良い」
「え……?」
「食事、寝床、人権、自由などは勿論保証する」
いくら配下を増やすと言っても直ぐに増やす事は出来ない。だが、この少女達を雇えば配下が増えるしDPを吸収する事も出来る。
ちなみに、DPを貯める方法はいくつかある。
それは、ダンジョン内での生物の死、ダンジョン内の生物からの魔力吸収、ダンジョン周辺から魔素と魔力の吸収だ。
周辺から吸収するのは最も効率が悪いが、1ヶ月で貯まったDPはダンジョンの維持費を引いてもそれなりに貯まっている。
「早く決めてくれないか?時間は有限だ」
姉の顔が苦渋に染まる。
その時、妹の方が数歩前に出て跪いた。
「お願いがございます。私の全てを貴方に捧げます。だから、どうか村の皆を救って下さい」
「姉さん!」
え!小さい方が姉なの!?
確かに子供にしては冷静だな、とは思っていたけど見た目は小学生くらいだぞ。
「ーー!」
……ふぅー、この身体になってからは動揺から立ち直るのが早くなったな。
「……話にならないな。君1人の命程度で俺達が動くと思っているのか?」
「わ、私の命も捧げます!」
声を上げたのは姉だと思っていた妹の方だ。
正直こんな事になると思っていなかったので、判断に困る。
てか、元学生が何とか出来る案件じゃないだろ。
「……統治者達はどう思う?」
玉座の近くに並んでいた統治者達に問うと直ぐに応えが返って来た。
「ヤト様のご意思に私達は従いますが、今ヤト様が求めている答えではありませんね。
……ふむ、私は反対です。敵の情報が少ない今動くの危険です」
「わても反対に一票。こっちから危険を犯す必要何てあらへんと思いますぅ」
ほー、ドルボアとクラマは反対派か。
「俺は助けるべきだと思います」
ルドラははっきりとそう言った。
「困っている人がいるなら、戦士として助けるのが当然です」
ルドラは根っからの戦士だ。しかも、正義感が強く纏っている黒と赤の軍服が良く似合っている。
しかし、そんなルドラにドルボアが噛み付いた。
「それはあまりにも身勝手な感情論ですね」
「俺は戦士として当然の事を言ったまでだ」
「では、この地が人風情に汚されても良いと?」
「そうは言っていない」
どうやらルドラとドルボアの相性は良くない様だ。
確かにルドラは感情論で、ドルボアは理性論で話をしている。噛み合う筈がない。
だが、良い加減にーー
「ーー黙れ」
自分でも驚く程に恐ろしい声が出たな。
メレア以外の者達が俺の声でガタガタと震えている。
ルドラとドルボアは直ぐ様跪き謝罪を述べている。
「俺は意見を聞いている。討論がしたいのなら、後で個別にしろ」
「「はっ 申し訳ありません」」
「……うむ。さて、ユーフィルはどっちだ?」
「私は助けるべきだと思います。理由としては、情報収集ですね。確かに準備不足ではあると思いますが、それ以上に貴重な機会だと愚考致しました」
なるほど、確かにこれはチャンスかもしれないな。
ルドラとユーフィルが助ける派か。
最後に隣に立つメレアに視線を向ける。
「私はメイドですので、旦那様が決めて下さい」
まさかの丸投げだった。
メレアの目を見れば「さっさと決めろ」と訴えている様に見える。
人の心からすれば助けてやりたいとは思うが、何より危険だ。それに、後々の事を考えれば面倒事が増える未来しか見えない。
しかし、だからと言ってルドラとユーフィルの意見を真正面から否定するのも、後々の忠誠心に関わって来るかもしれないよな。
あの2人の戦力と癒しの事を考えれば、何とか2人の意見を参考にしつつ他の2人の意見も取り入れたい。
「……村の生き残りを助けても良い」
「本当ですか!」
「ありがとうございます!」
「……但し、その対価が君達2人では割に合わない。だから、全てを貰う」
「全てとは?」
小さな姉の方が聞いて来る。
「助けた住人全員がこの地で働いて貰う。条件は先に言った通りだ」
「そんな、そんなのあんまりです!」
「そうか?生きるか死ぬか、選択肢などあって無いような物だと俺は思うがな」
「で、でもーー」
「ーー良い加減にしなさい。今、貴方の様な害虫風情が息をしていられるのは旦那様のご好意なのですよ?
その害虫が、旦那様に意見するなど弁えなさい」
メレアから凍てつく様な殺気と毒舌が放たれ妹が再度腰を抜かす。
やり過ぎだとは思うが、こっちの方が都合が良い。
「さぁ、選べ。今君達の目の前には死と従属の可能性がある」
「…………ど、どうか、皆を救って下さい」
姉が頭を下げ、遅れて妹も恐怖に震えながら頭を下げた。腰を抜かしていた為、土下座の様になっていたのは考えない様にしよう。
「そうか、分かった」
映像には次々と住人が斬り殺されている様子が映し出されているので、急いで送る者を決めようとしたが止めた。
「では、これから赴く者をーー」
「ーー俺が行く」
俺の言葉に王の間の全員が驚愕する。
あのメイドの鏡である鉄仮面のメレアですら、目を見開いて俺を見ている。
お前等、驚き過ぎだろ……。
「しかし、それは危険過ぎでは?」
ドルボアが問う。
当然の質問だな。
「この中で最も強いのは誰だ?」
「ヤト様です」
「では、この中で敵の攻撃を防ぎながら大人数の転移が可能な者は誰だ?」
「ヤト様です」
ドルボアは全て即答した。
転移が使える者なら、メレアやユーフィルもいるが大人数をしかも攻撃を防ぎながらと考えると俺以外には不可能だ。
統治者達の配下を送る事も考えたが、敵の強さが未知数な上、俺から持ちかけた話だ失敗などしたく無い。
「……では、私もお供致します」
俺は頷き、少女達の元に歩み寄る。
「どちらかは俺と来い。住人を説得する者が必要だ」
すると、妹が手を上げる。
「わ、私が行きます!」
涙目になりながらも俺を見上げながらそう言った。
「エアリィ!?」
「姉さん、きっとここは安全です。それに、姉さんよりも私の方が狩りが上手ですから」
あきらかな作り笑いを姉に向けるエアリィと呼ばれたエルフの少女から視線を外し上位空間魔法を唱える。
「〝転移黒門〟」
すると、目の前に長方形型の黒い板の様な闇が現れた。
「しっかり捕まっていろ」
俺はそう言うなりエアリィを抱き抱え闇の中に身を投じた。
「ドルボア、後の事は任せました」
「お任せ下さい」
ドルボアの返事を確認しメレアも闇の中に身を投じた。
闇は役目を終えたとばかりに消滅した。
残された者達は、周辺の警戒と転移して来るであろう住人達の受け入れの準備で慌しく動き出した。