第3話 侵入者?
「今日、皆に集まって貰った理由は俺からお礼がしたい思ったからだ」
「ヤト様ーー」
「ーーまぁ、最後まで聞け。
お前たちはこの1ヶ月、少ない人員でダンジョンの管理と守護を行ってくれた。それに対価を払うのは当然だと思う。それでも納得出来なければ、命令だと思ってくれ」
お礼をするって言ってるのに、命令って可笑しいだろ……。
それに、このお礼は俺の仕事を減らすのが目的なので何だか後ろめたい気持ちになる。
「まず、統治者全員にサブマスターの権利を与える」
ダンジョンマスターは1人しかなれないが、サブマスターの人数にはまだ空きがある。
「勿論、使える機能は制限させて貰う。
使い方は、……メレアから聞いてくれ」
メレアから視線を感じるが気づかないふりをする。
そして、一度統治者達の表情を見てみる。
どんな表情をしているか予想出来なかったが、全員目を輝かせているので嬉しくないわけではないようだ。
「もう1つ、お前達の配下を増やそうと思う」
その瞬間、統治者達の表情が曇る。
……あれ、急にどうしたんだ?
「安心しなさい。旦那様は貴方達の負担を減らす為に配下を増やそうと考えているのよ」
「それでは、私達の働きに不備があった訳では無いのですね」
「勿論だ」
俺がそう応えると統治者達の表情が見るからに明るくなった。
焦ったー、配下増やすって言っただけなのにあんなに落ち込むとは思わなかった。
俺なら大喜びなんだけどな。
やっぱり、普通の高校生にダンジョンマスターは難易度高過ぎだろ……。
「必要な配下は後日報告書に纏めて提出してくれ。全てを直ぐに叶えられる訳ではない。その事は考慮しておいてくれ」
「「「「畏まりました」」」」
「それでは、今日のーー」
「ーーお待ち下さい」
メレアの言葉をドルボアが妨げる。
「……どうした?」
「ヤト様、侵入者のようです」
ドルボアの言葉に全員が反応する。
それもそうだ。ダンジョンを解放して初めての侵入者なのだ、皆それぞれ思う所があるのだろう。
楽しそうに笑う者、目を細める者、冷静を装う者、興味を示す者、何かを考えだす者、俺は疲れたのでさっさと帰りたい。
ふかふかのベッドでゴロゴロしたいな。
侵入者は頼もしい仲間がなんとかしてくれるだろう。
「……あ、そのどうやら子供が2人迷い込んだだけのようです」
「……子供、だと?」
俺は思わず骨の口を開け呆然としてしまった。
俺のダンジョンがある場所は、山の山頂。
そこに遺る古城の地下の宝物庫の扉が第一階層の入り口になっている。
ちなみに、古城自体も余ったDPでダンジョンの領土にしている。
そして、周りには深い霧が立ち込めていて野生の魔物も厄介な奴等が多いので、この1ヶ月人がやって来る事は一度もなかった。
補足だが、辺りに住む魔物は1ヶ月前に俺がスキルの実験の為に暴れまわった所為でダンジョンー古城ー周辺には魔物も滅多に近付かない。
そんな場所に何故子供がいる?
あーダメだ……考えるのも面倒くさい。
俺は空中に手を翳し言葉を紡いだ。
百聞は一見に如かず、とは良く言ったもんだ。
「〈迷宮視野〉」
〈迷宮視野〉はダンジョン内の映像を見る事が出来るダンジョンの基本スキルの1つだ。
……何だ、この2人?本当に子供だな。
ん?あの尖った耳は、エルフ族か。
2人は身体に無数の傷を負っていて、身を寄せ合いガタガタと震えている。
「メレア、この辺りにエルフ族の集落はあったか?」
「確か、森の東の方にあった筈です」
そうだったのか。
……俺は知らなかった。
と言う事は、魔物に襲われて逃げて来たのか……いや、それとも他の原因が?
……情報が少な過ぎるな。
はぁー、面倒だが安眠の為にももう少し働くか。
「……ドルボア、部下を派遣し情報を聞き出せ」
「はっ、仰せのままに」
既に少女の近くにはドルボアの配下が身を潜めていたようで、指示を受けると2人の少女に歩み寄って行く。
ドルボアの配下の2人も一見綺麗な人間の女性だ。そこまで警戒される事もないだろ、と思っていたがエルフの少女達は震え一向に話が進む気配がない。
まぁ、こんな古城にいきなり現れた人間を信用しろと言う方が難しいよな。
しかし、面倒だな。
「ふぁ~」
思わず欠伸が出てしまった。
その途端ドルボアの表情に焦りの色が浮かぶ。
「申し訳ございません!どうか、もう暫くお待ち下さい!」
ドルボアの顔を見ると薄っすらと汗を書いていた。
「……構わなーー」
「ーーいいえ、このままでは時間の無駄です」
メレアが俺を見ながら断言した。
ドルボアはシュンとしてしまった。
そこまで落ち込む事はないと思うんだが……。
まぁ、ドンマイ。次は頑張ってくれ。
「そうだな。では、俺が直接話す。メレア、あの2人をここに連れて来い」
「畏まりました」
俺に一礼するとメレアの姿は消え、突如として少女達の目の前に現れた。
〈階層転移〉
ダンジョン内を自由に移動出来るダンジョンの基本スキルだ。
結果として、この少女達の出会いが俺を怠惰を貪る人生……いや、アンデッド生から遠ざけるきっかけとなったのだ。