第14話 龍
その後も騎士は俺に向かって攻撃を放ち続けるが、その全てを俺が交わす又は当たっても致命傷にならないことに焦りを感じ始めている。
このまま、かわし続け隙を突いて行けば安全に倒せるのだろうがーー
「面倒だな」
それに、全力を出すと公言してるし、このままではあまりにも格好が悪い。
俺は一度騎士から転移系魔法で距離を開け魔法を発動する。
「〝怠惰の波動〟」
「何ノ、ツモリダ?」
聖神の宝玉の力で自らに何の影響もない騎士は、警戒しながら俺に問う。
「よく周りを見ろ」
「周り?……ナ、何ダ、コレハ?!!」
周りを見回した騎士は、驚愕の声を上げる。
何故なら、騎士を、いや、俺たちを囲む領域全ての時間の流れが止まっていたからだ。
「時間ガ止マッテイル!?」
「いや、止まってはいない。ゆっくりだが動いている」
空中に停止したままの小石や砂煙は、少しずつだが動いている。
この現象は、〝怠惰の波動〟を周囲に放ったことで時間の流れが急激に遅くなった、というだけの単純なものだ。
「だが、これで準備は整った」
時間が停滞しているこの領域なら、破壊を最小限に抑えられる。
「?」
「俺たちが全力で戦えばこの辺りが焦土になるのは明白だった。だから、ずっと考えていたんだ」
「何ヲーー」
ーー言葉を紡ごうとした騎士は、解放された俺の膨大な魔力を受け、反射的に防御の構えを取った。
「君をどうやって手っ取り早く倒せるかをな」
放っていた濃度が増す。
「〝憤怒する龍神〟」
その瞬間、世界から湧き出した闇が俺を包み込んだ。
◆
空中にまるで全ての闇を濃縮させたような漆黒の球体が浮かび、まるで黒い太陽のようにも見える。
少しずつ大きくなっていく球体に騎士は何度か攻撃を放ったが無意味に終わった。
「!」
その時、球体が形を変えて行く。
漆黒の鱗に覆われ、赤く燃えるような赤い瞳、大きく逞しい四肢、背には巨大な一対の翼、一振りで並の城壁なら容易く破壊できるであろう尾を持つ黒龍にその姿を変えた。
その瞬間、騎士は悟った。
今、自分が相手にしているのはアンデッドでも龍でもない。
逃れることのできない絶対的な〝死〟その物だと。