第13話 始まり
ダンジョンの地上部分 王城跡。
そこには、全統治者とダンジョン内にいる配下全員が集合していた。
勿論、最近配下に加わったエルフ族、ドワーフ族、人間族もいる。
さて、どうしてこうなったかと言うとメレアの所為である。
「では皆さん、これより我等が主人であり、怠惰の化身たるヤト・リュウガイ様が本気で戦闘を行いまーす」
「「「「「おーーー!!?」」」」」
「皆さん、戦闘は見たいですか?」
「「「「「見たーい!!!」」」」」
「と、言う訳で頑張って下さい」
「頑張って下さい」じゃねーよ!
何だよこれ!いつの間に、俺の戦闘が見せもんになってんだよ!
しかも、怠惰の化身で悪かったな!否定はしないけど!!
というか、何だあの旗は!?
大勢の者が集まっている場内にあっても、一目で分かる程に大きく派手な赤い生地を使った旗が風に流されはためいている。
プロ野球の観戦じゃねぇんだぞ!
そんな気持ちを叫べたらどんなに良かったか……。
「……あ、あぁ、頑張るよ」
配下たちの期待の籠ったキラキラとした目を見ると、「うん」としか言えない。
そんな複雑な感情を載せた視線をメレアに向ければ、珍しく見惚れるような笑みで返して来た。
「!」
くそ〜、悔しいがドキッとしてしまった。
アンデッドなのに、骨なのに……。
時間をかけて気持ちを落ち着かせる。
そして、目の前に立つ麗しい女性に視線を向ける。
「ではユーフィル、後のことは任せる。一応メレアの眷属とクラマの召喚獣を放ってはいるが、油断はするな」
「お任せ下さい」
優雅な一礼と思わず抱き締めたくなるような微笑みを見せてくれた。
「!」
……あれ?俺アンデッドだよね、骨だよね。何でこんなにドキドキするんだ……分からん。
暫く考えてみたが、分からない物はしょうがないと割り切り、視線を吸血鬼に向ける。
「……さて、ラクシャ」
そして、側に立つラクシャに視線を向ける。
最初に着ていた服は今洗濯中なので、代わりに黒いドレスを着て貰っている。
「そろそろ行こうか」
「では、場所をーー」
「ーーだいたいの場所なら分かっている。〝転移黒門〟」
「え?はぁ!?最高位転移魔法!!?」
はぁー、ギャーギャー煩い。
……何だか、出会った当初のエアリィを思い出すな。
俺は未だに騒いでいるラクシャを掴み、〝転移黒門〟に放り込んだ。
「行くぞ」
俺に続き、統治者3名とメイド1名が〝転移黒門〟を通る。
そこには、地面に座ったままのラクシャがいた。
「おい、さっさと案内してくれ」
「は、はい!」
凄い速度で立ち上がると、見事な敬礼を見せる第一王女。
「こ、こちらです」
ラクシャの案内に従い森を進むが、やはりこのあたりの空間と魔力濃度が可笑しい。
この霧の領域の霧は、付近の魔力濃度が高くそれが自然に影響を与えていると考えられる。
だが、霧の領域内だとしてもこの場所は異常に魔力濃度が高い。だからこそ、ここが封印場所だと予想できた訳だ。
「……やはり、封印が破壊されています」
「と、言うことは……」
「もう既に、めざーー」
「ーー〝空間歪曲〟」
霧の奥から放たれた光の槍を空間を捻じ曲げ方向を変える。
チッ、先手を取られたか……。
「……誰かいるのか?」
俺の問いに応える代わりに、白い純白の鎧を纏った騎士が霧の中から出現した。
その瞬間、まるで周囲を浄化するような何かが辺りを包む。
「…………」
「ふむ、言葉が分からないのか?」
「いえ、そんな筈は……」
「……シテ」
「ん?」
今、喋った、よな。
それを確認する暇もなく、騎士の右手に純白の槍が顕現した。
「お気をつけ下さい!あれは彼の専用武器〝聖神の槍〟です。効果は、ダメージを与えた分の魔力を吸収することです」
「まるで、魔槍だな。それで、効果はその1つか?」
「いえ、分かりません。道化の騎士の専用武器〝聖神の槍〟は、彼だけの持つ武器。その能力全てを解明するには、嘗ての私たちでは役不足でした」
なるほど、確かに俺の〝上位魔法鑑定〟も弾かれた。相手の方が実力が上なのか、それとも魔法無効化のような能力があるのかもしれないが、詳しいことは結局分からない。
「まぁ、戦えば分かるだろう。ラクシャ、統治者たちと退がれ」
「し、しかし、やはりお1人では……」
「大丈夫だ」
俺は統治者とメレアに指示を送り、その瞬間俺から事前に決めておいた場所まで後退した。
さて、始めるか。
「そろそろ始めようか。……と、その前に名を聞かせてくれないか?」
「!……ワ、カラ、ナイ」
やはり、意思疎通はできるようだな。
「そうか。では、今はただ騎士と呼ばせて貰う」
「……」
反論はなし、か。
「所で、君の目的は何だ?」
「敵、倒ス」
「それに、俺は入っているのかな?」
「ワカラ、ナイ…………ワカラナイ、ナラ、敵」
何じゃそりゃー!
「おいおい、まるで子供だな」
騎士の前で肩を竦める。
「敵ハ、倒ス!」
騎士が地を蹴り凄まじい速度で迫って来る。
先ほどまで遠くにいた筈の騎士が、一瞬で目の前に迫り槍を放つ。
「!!」
「〈聖術付与〉〈迅雷滅槍〉」
俺は、目で追うことも困難な一撃を交わす。
交わした先の地面は抉れ恐ろしいことになっている。
「〈激流反射〉〈連槍 〉」
槍を突き出した後の態勢が不自然な程早く戻り、連続して槍を放つ。
先ほどのような威力と速度はないが、手数が多く聖属性も付与されている為に当たればそれなりのダメージを受けるだろう。
だが、その全てを最小限の動きで交わす。
「!!?」
一度俺から距離を取った騎士に声をかける。
「槍が当たらないことが不思議か?」
「……」
「くくくく、これが〝英知の傲慢〟の能力だ」
凄く便利な魔法だが、簡単に言ってしまえば自分の把握している情報から最も最善の応えを導き出すのが〝傲慢〟の力だ。
今、戦況は俺が有利なように見えるが実は互角と言った所だ。
何故なら、騎士に先ほどから〝怠惰の波動〟を放っているのだが、鎧の胸に埋め込まれている蒼い宝石によって中和されてしまうのだ。
おそらく、あれがラクシャの言っていた聖神の宝玉なのだろう。
ああ、本当に面倒だ。