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第11話 チャンス?





俺は1日の仕事を終え、愛用のふかふかベッドにダイブする。


愛用のふかふかベッドは、その衝撃を見事に全てを優しく包み込み、僅かに心地好い揺れで返してくれる。


「あぁー、今日も終わったー」


思わず骨の尻尾を犬のように動かしてしまう。


うーん、完全にこの体に慣れてしまった。


……いや、それもしょうがない。だって、この体スペック高いし、快適なんだもん。


人間たる者、楽な方に惹かれるのは自然現象だ。


しかし、こうやって至福の怠惰な時間を過ごすには問題がまだある。




騎士たちが計画通り全員が配下になって早一週間、エルフ族、ドワーフ族、人間族、それぞれからこの世界の情報収集を行った。


その結果、このドゥラの森、別名〝魔の森〟の周辺には4つの国が存在することがわかった。


森から北側にある最も国土が広く人口の多い王国、北北東側にある平民・貴族問わず実力で階級が決まる帝国、北東側にある最高神パールティテュスを信仰する神聖国、東側にある獣人絶対主義で独特の文化を持つ獣国。


そして、王国と帝国、神聖国と獣国は昔から戦争を繰り返していると聞く。


そして、森から少し離れてはいるが獣国の近くに小国が存在する。主に人間が住んでいるが、資源が少なく貧しい国だと聞いている。


しかし、資源が少ないのではなく、活用できないのだと噂もあるらしい。


まぁ、噂は噂でしかないのかもしれないけどな。


「うわさ、か……」


俺はベッドに横になりながら思考を続ける。


至福な怠惰の時間を過ごすには、それ相応の事前準備が必要だ。俺は、その事前準備に手を抜く気はない。


だが、次の一手を投じる為の手数が少ない。


戦力は充分。……だが、それに油断して寝首をかかれるのだけは、天地がひっくり返っても御免だ。


つまり、このダンジョンの護りを弱めるのは愚の骨頂だ。


いざとなれば、配下の騎士たちを使うか?

いや、実力に不安が残る。せっかく配下になったのに、失うのは惜しい。


「……」


駄目だ。

何も思い浮かばない。


「もう疲れた。寝る」


アンデッド故に体に疲れは感じないが、精神的疲労は感じる。だから、直ぐに眠気はないが、意識が沈んで行く。





その翌日。


ある意味最悪で、だが、現在の俺からすれば喉から出るほどに望んでいたチャンスがやって来た。



執務室でいつもの日課となった報告書の確認をしていると、ドアがノックされ許可を出すとエアリィが一礼し入ってきた。


着ているメイド服は、メレアとは違いエアリィの体の細さを生かすオリジナルのデザインになっている。


しかも、何と作ったのはメレアなのだ。

ドルボアもアイデアを提供したらしいが中々良いできだと思う。


「何かあったのか?」


確か、今日エアリィはドルボアの手伝いに行っている筈だが?


「はい。ドルボア様が、地上で吸血鬼ヴァンパイアを捕らえました。その吸血鬼ヴァンパイアが興味深いこと証言していたので、ヤト様の元へ直接連れて来たいとの事です」


「ほぅ」


吸血鬼ヴァンパイアの侵入者か。


また、面倒なことになりそうだな。


だが、ドルボアが直接連れて来ると言っているんだ、会わない訳には行かないな。


てかーー


「ーーそこに立っているのなら、隣の吸血鬼ヴァンパイアを連れて入ったらどうだ?」


俺が、扉に向かって声をかけると扉が開きぽっちゃり体型の男性と金髪赤目の少女が入って来た。


あれが吸血鬼ヴァンパイアか。


纏っている紅いドレスが、強気な内心が現れているような吊り目と纏う雰囲気によく合っている。そして、女性の特徴的な部分で出る所と引き締まる所のメリハリがしっかりしている。


まさに、傾国美女級の美しさだな。


俺を見た吸血鬼ヴァンパイアの少女が目を見開き震えている。


やっぱり、そうなるんだよな。


「急な謁見を許可頂き、有難うございます」


エアリィとドルボアは揃って俺に頭を下げた。


「はぁー、許可を出す前に連れて来た奴が言う台詞とは思えないな」


「はははは!いえ、ヤト様なら必ず許可を頂けると確信しておりましたので」


何だそれ……。


「ドルボア。豚足の貴方がわざわざ来たということは、それ程の情報をその吸血鬼ヴァンパイアから引き出せたということですか?」


メレアの表情をチラ見する。


あー、相変わらずの無表情だが目が苛ついてるしドルボアに向けて殺気を飛ばしているな。


その殺気を放たれている本人は全く反応してないけどな。


「はい。中々面白い情報です。さぁ、私の主に再度説明をして下さい」


ドルボアに促され、吸血鬼ヴァンパイアの少女は一歩前に出る。


「は、初めまして、私はラクシャ・ニル・エルティースと申します。今は亡きエルティース魔法国の第一王女です」


今は亡き国の第一王女?


うーん、全く話が読めないな。


「今回は、私たち王族が遺してしまった遺物。

道化の聖騎士(クラウ・ナイト)をこの世から滅ぼして頂きたく参上いたしました」


「……悪いが、もっと詳しく話してくれないか?」


俺の所為なのか上手く口が動かせないラクシャに代わりドルボアが説明を引き継ぐ。


「実は、この地には今から約300年前にラクシャ嬢の国、エルティース魔法国があったとのことです」


「確かに、このダンジョンの地上部分には城が建っているし、周辺では文明の痕跡が見つかっていたが、まさか君の国があっとはな」


「エルティース魔法国には、古くから幾つかの神の産物が受け継がれており、それを解析、解読することで発展していたのです。

しかし、繁栄は続かず多くの近隣諸国が魔法国の技術と神の産物を狙って戦争を仕掛けて来たのです」


良くある話だな。


強すぎる力は確かに身を護る力にもなるが、使い方を間違えれば自分がその力で怪我をする。そして、強すぎる力とは多くの者を惹き付ける。その者が、善か悪か、先の未来が繁栄か滅亡かは分からないけどな。


「最初は、何とか凌いでいたのですが多勢に無勢となれば流石の魔法国でも劣勢となり、滅亡の一歩手前まで追い詰められてしまったのです。そしてーー」


「ーードルボア様。これから先は、私が自分で話します」


ドルボアが続けようとした言葉を遮ったのはラクシャだった。


未だ震えているが、目は俺を真っ直ぐに見ている。


「追い詰められた私たちは、神の産物の1つ 禁忌の術を使ったのです」


「……禁呪、か」


禁呪は、魔法とも武技とも異なる力で別名で神術とも言われる。

俺もドM神の力を喰らうことで禁呪を使用することができるようになった。


「ご存知でしたか……。私たちは、神に近い存在を創りだす〝禁呪 神体錬成〟を行い道化の騎士(クラウ・ナイト)を生み出したのです」


そこで一度ラクシャは目を閉じ、歯をくいしばっている。


「しかし、道化の騎士(クラウ・ナイト)は私たちの命令を無視し敵軍どころか、その敵国その物を滅ぼしたのです。そして、禁忌を犯した罰だったのでしょう。道化の騎士(クラウ・ナイト)は、次に私たちに刃を向けたのです」


「そして、対抗する手段のなかったお前たちは国ごと滅んだ、ということだな」


「私は、禁呪から事前に造られていた魔法の力で人間から吸血鬼ヴァンパイアになり生き延びました」


魔法国の繁栄と滅亡か……。


道化の騎士(クラウ・ナイト)もその後は眠りに付き、重ねて私も封印の魔法を施したのです。しかし、1ヶ月程前からその封印が弱まっていることを感じたのです」


1ヶ月程前って、俺がここに来た時期と重なってるな。


まさか、俺が関係していないことを祈ろう。


ラクシャの話では、封印が弱まる又は破壊されると術者である自分に分かるように仕込んでいたそうだ。

そして、ラクシャ自身も嘗ての魔法国で1位2位を荒らそう程の天才魔導師だったらしい。


だが、どうもこの王女は秘密が好きらしい。


「話は分かったが、1つまだ俺に伝えてないことがあるだろ?」


「何のことですか?」


ラクシャは首を傾げ、隣のドルボアとその後ろに立つエアリィも同じ反応をしている。


隠しているのか、それとも知らないのか?いや、第一王女であり魔法国最高クラスの魔導師が知らない筈がない。


「お前たちの行った禁呪の詳細は俺も知らない。だが、錬金術に付いてはある程度の知識がある。錬金術とは、様々な物質を完璧な存在へと錬成することを目的とする技術だ。つまり、錬成を行うには素材が必要だ」


俺の言葉でドルボアも気付いたようで、弾かれたようにラクシャを見る。その目には、己を騙したことへではなく、それに気付くことのできなかった自分への苛立ちがあった。


「錬金術は、石や砂から金属は創り出せても生物を創りだすことはできない。またキメラやホムンクルスを創り出す場合は、人や獣の命と肉体を代償にする。つまり等価交換の仕組みだ。だが、ただの人や獣の魂が〝神体錬成〟に耐えられる筈がない」


そこで、一度言葉を切りラクシャを睨む。


もう既に動揺を隠せずにいるラクシャは、俺の視線を受けビクリと一度大きく震える。


「さぁ、元エルティース魔法国 第一王族 ラクシャ・ニル・エルティース。嘘偽り無く俺の質問に応えろ!


君たちが禁呪の贄とした命とは一体何だ?」


「そ、それは……」


ラクシャの口から紡ぎ出された言葉に、この場の全員が一瞬唖然とした。

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