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第9話 俺も眠い






俺は、ルドラ・アーレクス。


このダンジョンの支配者にして、神喰らいの力を持つ元人間のヤト・リュウガイ様に忠誠を誓う戦士だ。


ヤト様の力、神喰らいとは、神と人間がまだ別れる前の時代に、神を喰らい神をも超える力を得た人間のことだと前にメレアが教えてくれた。


しかし、神喰らいの一族は遠い遠い昔に神々により滅ぼされた。故に、メレアはヤト様のことを神喰らいの一族の生まれ変わり、転生者だと考えているようだ。


つまり、ヤト様は神に殺され地球に転生し、そこで再度神のミスで死に、再々度転生した、ということになる。


随分と数奇な人生とアンデッド生を歩んでらっしゃる方だ。


そして、おそらく神に生み出されたメレアはヤト様のサポートと同時に監視の任務にも付いているのだろう。


まぁ、俺にはどうでもいいことだ。


俺はただあの方の為に戦えればそれだけで良い。



俺が考えに没頭していると、部下から声をかけられ現実に引き戻された。


閉じていた目を開けば、そこには二足歩行の狼、人狼フェアウルフのヴォルフが立っていた。


ヤト様から名を与えられしネームドモンスターだ。


人狼フェアウルフを狼の獣人と間違える者がいるが、人狼フェアウルフはれっきとした魔物だ。


「何だ?」


「何故、ヤト様はこのような回りくどい方法をとられたのですか?」


「ヴォルフ、貴様ヤト様のなさることに不満でもあるのか?」


僅かに殺気を出すとヴォルフは慌て直ぐに言葉を補足した。


「いえ、そうではなく、この対応はヤト様に敵対した人間たちにとって、あまりにも甘過ぎる対応かと思いまして……」


ヴォルフの言葉を聞いた俺は殺気を収める。


元々、本気で殺気を向けていた訳ではない。


だが、知らぬというのは、あまりにもーー


「ーー愚かだな」


「はぁ?」


「あの魔法〝惰眠の旋律(ヒュプノス)〟は、怠惰ベルフェゴールの中でも凶悪な魔法の1つだ」


「それほどの魔法なのですか?」


「あの魔法は敵を夢の中に閉じ込め、己の闇と相対させる。もしも、己の闇に呑み込まれれば、安らかに死ぬことなどできない。永遠に夢の中を彷徨うこともある」


俺の説明を聞いたヴォルフは目を見開き、王席に座るヤト様に視線を向けている。その目には、自らの発してしまった言葉への後悔と主の真意を見抜けなかった己への怒りに染まっていた。


そんなヴォルフの肩を優しく叩く。


「……ルドラ様、俺は」


「まぁ、今回はヤト様も騎士たちを殺すつもりはないようだし、加減はしているさ」


その時、眠っていた騎士の1人がピクリと動く。


「今回の夢から覚める条件は、ヤト様への忠誠を誓うことだ。ほら、さっさと目覚めた人間に水でも持って行ってやれ」


「はっ!」


ヴォルフは俺に頭を下げると目覚めた少女の元に向かった。


ふー、時間にして10分程か。


さて、夢の中では何時間、いや何日、それとも何年分の己の闇と相対したのだろうな。


あの魔法は、正に己との相対。


自分の生きて来た人生そのものが自分へ向けられる刃へと変化し、襲い掛かってくる。


人は人生の中で、負の感情を背負うものだ。

それは、怒り、憎しみ、妬み、悲しみ、物欲など本人が気付かなくても誰もが背負っている。


惰眠の旋律(ヒュプノス)〟はそれを露わにする。……いや、何倍、何十倍にして見せつけ精神と心そのものを破壊する。


闇に飲まれた物は、つまり自分の過去に殺されるのだ。


それを知っている俺は、〝惰眠の旋律(ヒュプノス)〟を最も残酷な魔法の1つだと思っている。







「申し訳ありません」


俺に膝をつき謝罪をしているのは、アルミラージという魔物が〝人化〟した少女アルミィだ。


「頭を上げろ」


「いえ、お許しを頂くまで上げる訳にはいきません」


はぁー、本当にこんなに責任感が強いのは誰に似たんだか……ああ、ルドラか。


「君の謝罪は何に対しての謝罪だ?」


「同僚のヴォルフが、御方に対して無礼を働きました」


「あれが無礼?……考え過ぎだ。寧ろ俺は、俺のする事に疑問を抱いてくれて嬉しく思うぞ」


俺の言葉にアルミィから疑問の雰囲気が伝わって来る。


「俺は、命令を聞くだけの傀儡はいらない。

自分の意思を持たない者は、重要な時に役に立たないからな」


「では、罰は?」


「罰など与える訳がないだろう」


それを聞き見るからに安心するアルミィを見て俺も微笑む。


「?」


……いや、ラビィからすれば骨が少し動いたくらいにしか分からないだろうな。


しかし、流石と言うべきか俺の優秀なメイドの目はそれを見抜いていた。


「アルミィ、旦那様は貴方が仲間思いなことが嬉しいのよ」


「べ、別にヴォルフを心配してた訳じゃありません!」


「くくくく、まぁ そういうことにしておくか」


プクーと頬を膨らませて、俺を見つめるアルミィを一瞥すると視線を格闘技場の騎士たちに向ける。


「悪いが、少し静かにしていてくれ。さっさと終わらせる為に、俺の力を使う」


そう言うなり、俺の黒い魔力が未だに夢の中にいる騎士たちの中に入り込む。


さて、さっさと終わらせて俺も寝るか。

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