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「いいから踏んでくれよ……もう」

きょん子の朝は早い。

目覚めた後、焼いていないトーストをそのまま喰らい歯磨きをする。

そしてうがいでむせる…。

彼女は喉うがいができない。

胃が荒れているのだ……。


いつもの灰色のパーカーを身にまとい外に出る。

朝日が差し込み、つがいのスズメが元気に舞う。

朝露の匂い、颯爽と肌をなぞる新春の風、道端には黄色い花弁の花がパッと笑顔を見せていた。

清々しいこの情景にきょんこは舌打ちをする、絡めたタンを黄色い花に飛ばして歩き始めた。


銀行のATMに到着したきょんこは自分の口座を確認する。

残高の数値は10万が振り込まれていた。

きょんこは顔をゆがませる……。

 「(ふん…。久々に馬鹿な奴だったな。ちょろいぜ……)」

きょんこは満足げにつぶやいた。

彼女の仕事は痴漢冤罪。満員電車に乗り、痴漢を訴え男の懐を捕食する。

世間体・忙しい朝の時間・性別の優位

全てが彼女に味方する。

 「(止められないわねぇ……さて今日も儲けるわよ……。幸の薄い顔の男を狙うのがポイント…)」

彼女は狙うべき対象をおさらいし、今日も地下鉄の駅に向かう……。


………………………………………………………………………………


 ためちが転校してきて一週間が経った。

シノンは教室の一角に鎮座する彼女を見る。

衝撃の転校初日はまさに騒々しい一日となった。


………………………………………………………………………………


 自己紹介の後、黒のボンデージ姿のためちは教室内を歩き回り突き刺さるような視線で男どもを睨む。

誰も何も反応できないまま、彼女は歩き続ける。自分の捕食対象を探しているのだろうか……。

この時、誰しもが思ったことであろう……。

 「(関わったらだめだ……)」と。

このクラスには幾人かアウトゾーンに含まれる生徒がいる。

そういった生徒の対応や距離感を嫌が応にも覚えさせられたクラスの良識派は彼女の存在をレッドゾーンと認識した。

 「………先生!紹介も済んだことだし……。早くためちさんの席を決めなきゃ」

良識派のトップの委員長がハゲ担任に進言した。

 「そ、そうだな……。ためちの席は………ん?机があるが椅子がないな……委員長悪いんだが他の教室から…」

 「ちょっと待ってください!!!」

ハゲ担任の言葉を遮ったのは一人の男子生徒だった。

名前はルーム、シノンと同じくあまり目立たない生徒だ。

 「ど、どうした?ルーム」

普段、大きな声を出さないチーズに周りのクラスメイトも困惑する。

だが、その困惑は彼の次の言葉によってさらに悪化した。

 「…………。……僕が……椅子になります……」

 「((-----------------))」


………………………………………………………………………………


一週間が経った今でも教室の一角には異様な空気が流れている。

男子生徒を椅子代わりにするボンデージ姿の女……。

彼女は確かにそこに鎮座していた。

さもそこが自分の王座ともいわんばかりに……。

シノンは隣で「ヴィー~~~~~ン!ヴィーー~~~~ン!」と声を上げながらレゴで遊ぶ翠星を見越し

どんな会話をしているかためちとルームに注目をした。


 「ふんっ!つまらないクラスね……私を満足させる子がいない……」

 「ためち様!なぜご不満を……僕では不十分でしょうか……」

 「あなた…ルームと言ったかしら……」

 「はい!あなた様の下僕、ルームです!」

 「私は真のサディスティックアーティスト……Sを極めし女よ……」

 「はい!僕もドMとしてあなた様に貢献でき…」

 「バカおっしゃいっ!!!!!」

パンっ!

……小気味の良い音が教室に響き渡る。それは彼女が鞭をふるった音だった。

 「……ひ!!んためちぃ様ぁ……!」

 「真のサディスティックとはね……本当に嫌なことをするのに快感を覚えるのよ!」

 「あなたのようなドMを満足させてもSの欲求が満たされる訳がないでしょ!この一生童貞全裸男!」

 「ひ!申し訳ありません!!」


傍から見ていたシノンは何事もなく次の音楽の授業の準備を始めた。

彼にはハードルが高すぎる世界だった。

いや、シノンにとっては現実そのものがハードルが高いものだ。

趣味趣向もなく自由意思も希薄、意思薄弱の代名詞ともされるシノンにとって

個性の塊である彼らはある意味尊敬の的であった。

 「(僕にも……個性というものが見つかるかな………)」

 「ぎゅいん~~!ギュインギュインギュインっ!!……ん~~~墜落ボーーーーーん!!!」

思いふけるシノンの耳を翠星の奇声が阻害する。

だが、小心者のシノンは翠星を睨むこともできず次の授業のチャイムを待った。


間もなくチャイムが鳴り一人の女性教師が入ってきた。

彼女はメグ。音楽教師であり、教育実習生でもあり、このクラスの副担任でもある。

まじめで優しく、笑顔が可憐な人であった。

……だが、教室に入ってきたメグ先生は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

クラス内はざわざわし、動揺を隠しきれない。

肩を震わせながら教壇まで歩いたメグ先生は

 「ひ~~ん………!私!奪われちゃった…………!!」

 「(…………………)」

どよめく教室、慌てるクラスメイト、そんな状況の中シノンの下半身が脈動した。


………もそり、と……………………………………。


続く

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